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    massun_gs

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    massun_gs

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    このアンケートの進捗

    スキなヒト の すきなひと- side N -

    今日も美奈子と一緒に帰る。
    数少ない、ガッコでの楽しみの一つ。

    このコと出会ったのは高1の頃。
    俺が落としたパスケースを美奈子が拾ってくれたのがきっかけだった。その後もイロイロ、俺の落とし物を拾ってくれて…。最初はなんだかんだと絡んできて、面倒くさいコだなと思っていたけれど、話してみると面倒くさいことなんて一つもなかった。服装の趣味や好みの映画、食べ物、行きたい場所。どれをとっても息ピッタリ、意見がかみ合う。
    何より彼女の持つ空気感が心地いい。一緒にいて本当に落ち着く。それは彼女も思っていたようで、2人して『こんなに気が合う人がいるなんて奇跡じゃない?』って、何度笑いあったかわからないくらいだ。
    いつの間にか学校でも休日でも、一緒にいるのが当たり前になった。普通ならそれだけ気が合えばお互いのことを意識してもおかしくないハズなのだが。

    俺たちはトモダチ。トクベツだけど、ただの友達。それ以上でもそれ以下でもない。

    彼女をオンナノコとして意識していないワケではない。だが残念ながら俺は、これ以上彼女と深く関わることはできないと思っている。
    (なぜなら俺は…。)
    彼女にも他の誰にも打ち明けていないことがある。それは…。

    「あっ!そうだ!今月のはばチャみた?Nanaくんのアクセ特集、カッコよかったよね?」

    隣を歩く彼女が俺を見上げて言う。

    「……ああ、みたよ。あのブランドの店、今度ショッピングモールにできるんだってな」
    「えっ、そうなの!?行きたい!」
    「じゃ、オープンしたら一緒に行きますか?」
    「さんせー!」

    こんなふうに彼女と雑誌やSNSといった流行の話題で盛り上がる時、必ず出てくるこの名前。

    <<今をトキメク高校生モデル・Nana >>

    会話の中で避けては通れないこの人物の正体…それは俺だ。そして美奈子はNanaが俺だということを知らない。
    だから、美奈子がNanaのことを口にするたび、俺は必要以上にビクッとなってしまう。

    「いつかは言わなければ」と思う反面「どんな反応をされるのか不安」という思いもあり…。
    これまで何度も打ち明けるチャンスはあったのだが、いざ言おうと思うと「美奈子なら伝えても大丈夫」という気持ちと「本当のことを言って今の関係が壊れてしまったら」という気持ちがせめぎ合い、いつも後者に軍配を上げてしまう。臆病な俺は、結局口にすることができず今に至っている。

    唯一このことを知っているのは同業者の花椿ツインズ。彼女らには自分から話してはいないが、まぁ仕事で一緒になる時もあるし、なんなら彼女らの方が業界では先輩だし。フツーに知られてた。
    美奈子に自分がNanaだと話していないことを伝えると、
    「…呆れた。まだマリィに言ってないの?」
    と散々文句を言われた挙句、白い目で見られることもしばしば。わかってますよー。言わなきゃいけないことくらい。けどなぁ…。

    そして今日も俺は何も言い出せないまま、彼女と並んで歩いている。

    こんなに距離の近い女子は他にいない。
    それでも俺たちはオトモダチ止まり。

    “踏み込めない理由“があるとはいえ、こんなに気が合って、流行に敏感でセンスもいい。さらにはオンナノコとしての魅力もモノスゴクある。コレで意識するなって言う方がムリでしょ。
    俺に「理想のタイプ」があるとしたら、それはきっと美奈子みたいな女の子だろう。実際、学校帰りにいつも行く喫茶店に彼女を連れて行って、勢いでそういうコトを話したこともあった。ケド、このコは頭の上に「?」マークを付けて、ぽかんとしていた。
    その反応を見て「あー、コレは脈ナシだな」って思って少し笑ってしまったのだけれど、決してショックを受けたワケじゃなくて、そういうリアクションがこのコらしいなって思ったから。
    ひとしきり笑った後、俺はそのキモチにフタをした。
    俺たちはそういう…愛だの恋だのを意識する関係ではない。このままキモチがあふれてしまう前に、なかったことにしようって。今なら“俺の勘違い“で済まされる範囲。まだ間に合うと思ってブレーキをかけた。

    それに“振り向かせたい“という気持ちよりも“嫌われたくない“と言う気持ちの方が強かった。フラれて疎遠になるくらいなら、男として意識されてなくてもいいから彼女のそばにいたい。そう考えたんだ。

    いつものように他愛もない話をしていたら、彼女の家の近所まできていた。待ち合わせにも使うあの公園が見える。
    ここが分岐点。

    「それじゃ、私こっちだから」
    「ああ、気をつけて帰れよ?」
    「うん!七ツ森くんもね?」
    「ん。サンキュ。じゃあ、また。」

    彼女が公園の角を曲がり、家へと向かう。その姿が見えなくなるまで見送った。
    大切な、友達の女の子。
    こうして見送るくらい…これくらいは許されるよな?

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    - side M -

    今日も七ツ森くんとの下校は楽しかった。
    七ツ森くんは私にとって1番仲のいいお友達。これまでの人生でこんなに気が合う人、出会ったことなかった。馬が合うっていうのかなぁ。

    知り合ったきっかけは、七ツ森くんのパスケースを私が拾ったこと。
    その後も何度か彼の落とし物を拾って。しっかりしてそうなのに、何でそんなに落とし物するの?って気になって、興味が湧いた。
    背が高いから必然的に目立ってしまうけれど、本人は学校ではあまり目立ちたくないらしく、知り合ったばかりの頃は私が話しかけると面倒くさそうな顔をたくさんされた。それはもう、数え切れないほどに。でも、そんな顔をしながらもいつも最後まで私の話を聞いて相手をしてくれた。なんだかんだ言って七ツ森くんはとても優しい人なのだ。
    そして話してみたら思っていた以上に面白い人だった。彼には歳の離れたお姉さんがいるらしく、その影響か七ツ森くんはものすごくファッションやコスメのことに詳しい。そしてセンスも抜群。一緒にいてこんなに楽しい人っているんだ、ってちょっと感動すらしたことを覚えている。

    学校でも休日でも、七ツ森くんと過ごすことが増えた。
    彼と一緒に流行りのスポットに出かけたりショッピングしたり。それはとても楽しいのだけれど、出かける先も入るお店も中学生の時以上にお金がかかるってことに気づいた。
    お小遣いだけじゃ結構厳しいなぁって思っていた時に、ふと思い出したのがはばチャの記者活動だった。

    高校に入学してすぐの頃、街中であの世界的ファッションデザイナーの花椿吾郎先生に「はばチャの記者をやってみない?」と声をかけられた。
    「なんで私が?」って思ったし、ちゃんとやれるかどうかも自信がなくて。その時は記者をやるかやらないかで迷っていたんだけれど、よくよく考えてみたらこの記者活動って、私が求めていることをまるっと叶えてくれるんじゃない?ってことに気がついた。

    “はばたき市の情報をGETできて、さらに活動した分だけリッチももらえる。“

    …これ、私にぴったりじゃない?
    そう気づいたあとは早かった。すぐはばチャ編集部に連絡して新人記者として活動させてもらうようになった。
    最初は七ツ森くんとの話題が欲しいとかリッチ貯めたいとか、ちょっと不純な動機で始めた記者活動だけど、街中でいろんな人にインタビューしたり新しいスポットに行ったりするのがものすごく楽しくて。最近では七ツ森くんとの約束がない時はもっぱら記者活動をしている。そんな私の主な仕事は市内で取材した内容を記事にしてネット版のはばチャコラムにアップすること。
    そのことは七ツ森くんにも話していて、彼も私のコラムを楽しみにしていると言ってくれたし、記事が出た後は必ずどこが良かったとかメッセージをくれる。それがとても嬉しくて、私はますます記者活動にも力が入っていた。

    ***

    「今日はマヨさんと田中さんのお手伝い、だよね」

    日曜日の今日、本当だったら七ツ森くんとお出かけしたいって思っていた。
    だから先週お誘いの電話をしたんだけれど、彼の返事は芳しくないものだった。

    「その日はどうしても外せない予定あるから…。ホント、ゴメンな?」

    って。予定があるならしょうがないもんね…。七ツ森くんの声もすごくしょんぼりとしていた。こういうと語弊があるかも知れないけれど、その声音が少し嬉しいと思ってしまった。残念だと思ってるの、私だけじゃないんだって思ったから。

    「うーん…」

    電話を切った後、私はそう呟いてベッドに身を投げた。ゴロゴロ転がりながら「どうしよう?」とポッカリ空いてしまった予定について考える。

    「勝手にお出かけする気満々だったからなぁ…。けど、1人で行くのはなんか違うし…。うーん。」

    むむむ…と唸りながらスマホを見ていたら、突然ブブブッとスマホが鳴った。
    はばチャの編集部からの着信だった。

    「…え、電話?どうしたんだろう?」

    珍しいなぁ。いつもはメールで連絡来るのに。
    スッと通話ボタンをスライドし電話に出る。

    「…もしもし?」
    『あっ!もしもし!小波さん?はばチャ編集部の白羽です。今、少し大丈夫かしら?』
    「はい、大丈夫です。どうされたんですか?」
    『じつはね…』

    電話の主は編集部の白羽マヨさん。用件はこうだ。
    “来週の日曜、予定が空いていたら取材の手伝いをしてもらいたい“

    さっき思っていたお出かけの予定は潰れてしまったばかり。ちょうどいいやと思って私は二つ返事でOKした。その後、電話口のマヨさんから、取材の相手はモデルのNanaくんだと聞かされたのだった。

    「えっ!?取材相手って、あのNanaくんですか!?」
    『そうなの!先方の事務所に何度もオファーしてたんだけどね、ようやくOKもらったのよ〜』

    Nanaくんといえば、私たち高校生の間で知らない人はいないくらいの大人気モデル。密かに私もファンだったり…。え、ホントに会えるのかな…?いやいや、これはお仕事!お仕事だから!

    「い、いいんですか?そんな大事な取材に、私がお手伝い…」
    『もちろんよ〜!小波さん、いつも丁寧に取材してくれていい記事書いてくれてるし!あなたの記事、好評なのよ〜?』
    「えっ、そ、そうなんですか?ありがとうございます」
    『うふふ。今回メインで取材するのは私と田中くんだけど、小波さんにもこういうインタビューや撮影の雰囲気、知っててもらいたくてね?』
    「ご迷惑にならないように頑張ります」
    『それじゃ、来週お願いね!インタビューの他にも外で撮影あるから。時間はちょっと早いんだけど、準備や打ち合わせもあるし朝9時集合で。場所は後で地図をメールしておくわね。』
    「はい、わかりました。よろしくお願いします」

    通話終了のボタンを押すと、画面からピッという電子音が響いた。ほっと息をつく。
    なんということだろう。憧れのNanaくんの取材に同席させてもらえるなんて…!お仕事だってわかっているけれど、どうしても顔がニヤけてしまう。

    「やっぱり、本物もカッコいいのかな…?」

    テーブルに置いてある、Nanaくんが表紙を飾っているはばチャを見ながらポツリと呟く。
    いやいや、だからこれはお仕事!こんな浮ついた態度ダメだから!絶対失礼がないようにしなくちゃ!

    1人で百面相をしながらそう思った私は、この日から取材の日までいつもより念入りにお肌と髪のお手入れをした。七ツ森くんオススメの化粧水にパック、トリートメント。まさかこんなところで役立つとは。ありがとう、七ツ森くん。

    そんな先週の日曜日からの顛末を思い出し、ブンブンと邪念を振り払うように頭を振った私は、送ってもらった地図を見てたどり着いたモデル事務所の前に立っていた。

    〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

    - side N -

    「うん…ホント、ゴメンな?次は俺から誘うわ。うん…じゃ、また。」

    (プツッ。…プーッ、プーッ)
    彼女が電話を切ったことを確認し、俺も通話終了のボタンを押す。
    スマホを握ったまま、仰向けにベッドに倒れ込んだ。

    彼女からのデートの誘いを断ってしまった。イヤ、断らざるを得なかった。その日は前々から大事な仕事が入っていたからだ。

    「ハァ〜〜〜〜〜〜…マジか…」

    長いため息を吐き天井を見上げる。さっき電話を切った時の「ピッ」という電子音がやけに耳に残っていた。
    しばらくボーッとした後、のそのそと上体を起こしベッドに腰掛ける体勢にかえた。暗くなったスマホの画面をタップしスケジュールアプリを起動する。何度見てもやっぱりその日は終日仕事だった。

    「なんでこのタイミングで…って言っても仕方ないか。」

    学業優先のため、長丁場になる仕事は基本的に学校が休みの日曜や祝日に入れてもらうことになっている。今回の仕事はインタビューと撮影。しかも撮影はスタジオだけではなくロケもあるということで、ずいぶん前からスケジュールを押さえられていた。マネージャーにも何度も確認されたし、俺自身も楽しみにしていた仕事ではあったのだけれど…今は少し、恨めしい。

    「ま、仕方ない…よな…。うん、仕方ない。」

    そう呟き、自分に言い聞かせる。こうなったら仕事を完璧にこなすだけだ。スッと頭を切り替え、先に事務所に渡されていた撮影の行程表をチェックする。

    「ロケは森林公園…ホタルの住処付近、か。事務所からも近いし、終わったらアルカード寄ろう…。」

    ふと、行きつけの喫茶店のメニューを思い出す。
    【仕事で美奈子とデートが出来ない】という心のキズは、お気に入り店の新作スイーツたちに癒してもらいましょ。

    「確か今月はいちごフェアだったよな…?ウマいに決まってるけど、ホントに美味かったら美奈子と一緒に食べに行くのもアリか。」

    "次は俺から誘う"と約束したのだから、次のデートプランは気合い入れなきゃな?

    「…っと、その前に。撮影のコンセプト、もっかい確認しとこ。」

    そう。まずは仕事だ。まだ来週だけど今からキッチリイメージ作って、読者に"サイコーのNana"を見てもらわないと。頭を切り替え、資料を読み込んだ。

    …そして撮影当日。
    俺は"モデルのNana"として美奈子と会うことになる。
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    tang_soliloquy

    DONE二年二月十四日の七マリ。時期外れですがバレンタインネタ。
    以前アンケを取った『CP創作お題をアンケで決める』で1位だった『熱があるのに』をクリアするのにこれしか思い浮かばなかった。
    七ツ森くんに逆チョコ用意して欲しいのは私だけではないはず……。あと七ツ森くんあの食生活とか睡眠時間とかでも滅多に体調崩さない、さりげなく健康優良児なイメージがあります(熱出し慣れてないタイプ)。
    「……ん?」
     目覚まし時計を止めてあくびをしようとして、ふと喉に覚えた違和感。「あー」と声を出してみても咳払いをしてもそれは消えず、洗顔と歯磨きを済ませて水を飲んで、やっといつもの声に近くなった。
    (湿度は……ヤバいな、四十パーセント切ってる)
     部屋の片隅に置いてある温室計に目をやると、室内はカラカラ。寝ている間に乾燥で喉をやられたのだろうと頷きながら加湿器をつけた実は、普段使いの化粧水に手を伸ばしかけて止め、その隣のボトルに――スペシャルケアのラインナップに指先をかける。
    (こんだけ乾燥してるし、ちゃんと保湿しとかないと……って、気合い入れたい言い訳なんですけど)
     今日は二月十四日。少し――いや、だいぶ期待している、特別な日だ。ほんの一週間ほど前にも実の誕生日という特別な日があったのだが、それはそれ、これはこれ。バレンタインをこんなに心待ちにするだなんて、去年までの自分に言っても信じてもらえないだろう。
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