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    suika2022kita

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    suika2022kita

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    🔥🎴ワンドロワンライ作品
    お題【ふたりぼっち】
    キ学軸。大雨で🔥よ車で家まで送ってもらうことになった🎴。せまい車内で二人きりなだけでもドキドキなのに、🔥のある行動に🎴の心は嵐のごとく翻弄されて…。
    🎴が勝手に片思いだと思い込んでるだけの両片恋のお話です。

    声が優しいのはずるいと思います時おり強まる風にあおられた雨粒が、車の屋根を激しく打ちならす。
    炭治郎はくぐもった水音に満たされた車内の空気を落ち着かない気持ちで受け止めながら、雨に煙る窓ガラスの向こうをじっと見つめていた。
    (やっぱり、断るべきだった…っ)
    激しい後悔がひっきりなしに炭治郎の心を強襲する。けれど過去の選択をどれだけ悔やんでも今が覆ることはなく、おのれを取り巻くこの状況は歴として目の前に横たわっているだけだった。
    細く息を吐きながら、逸らしていた視線を少しだけ隣に動かす。首は真正面にむけたままなので、視界は焦点のあわないぼんやりとした光景だけが映りこんだ。それでも目の端にとらえた金色の髪と白いワイシャツの残影に胸は一瞬で激しくざわつきを深めた。目を背けたい衝動と、もっとよく見たいという欲求がせめぎ合う。どちらを選ぶべきか葛藤している炭治郎の耳に、柔らかなピアノと深い弦楽器の音色が流れ込んできた。
    (チェロ、だったよな……)
    内に響くようなしっとりとしたこの音を最初はバイオリンだと思っていた。じつはバイオリンより一回り以上大きなチェロなのだと正解を教えてもらったのは、ちょうど2ヶ月前の雨の日だった。
    あの日も、今日と同じように夕方まで明日の授業で使う資料プリント作成の手伝いをしていた。ようやく作業を終えて玄関に出てみれば、日の傾いた校庭はバケツをひっくり返したような激しい夕立に包まれていて。
    『手伝いをさせて遅くなった上、これほどの夕立の中を一人で帰らせるのは申し訳ない』
    本当は禁止されているから、他の生徒には内緒だぞ。唇の前に人差し指をたてて囁く声は困った響きを含んでいるのに、なぜか煉獄の表情はとても楽しそうだったのをよく覚えている。
    煉獄先生の車に同乗する。それは教師と生徒という一線を画した立場から、二段飛びでプライベートゾーンに踏み込んだような、胸が高鳴る秘密の共有だった。密かに恋心を抱いてる相手であればなおさらだ。煉獄の車の助手席に座ったことは、炭治郎にとって忘れられない夏の思い出となった。
    正直、なにを喋ったかまったく覚えていない。炭治郎の脳裏に残っていたのは、運転をする煉獄が口にした言葉と、雨音を遮るように車内に流れていたラジオの音だけだった。そして、会話が途切れた隙間に漏れ聞こえた優しい鼻唄。
    夢みたいに幸せな時間が、まさか再び自分に巡ってこようとは。
    (しかも二回目でちょっとだけ余裕がある分、よけい先生を意識してしまって変なとこばかり気になるしっ)
    幅十五センチほどのコンソールボックスに軽くもたれた筋肉質な左腕から、空気を伝って自分の右腕に感じる体温。軽く吸った空気にまざるほのかなコロンの香り。学校ではついぞ感じたことのない煉獄の気配に心臓は痛いくらい激しく脈を打ち続けていた。
    「そういえば、俺の母親に聞いたんだが」
    「はっ、はい!」
    意識を飛ばしていたところに突然声をかけられ、慌てて答えた炭治郎の声は最後の方がひっくり返ってしまっていた。一発で緊張していることがばれてしまう失態に羞恥心がこみ上げる。顔が発火しそうなほど熱くて、たまらず頭を項垂れさせた。そんな炭治郎の様子に気づいていないのか、横から聞こえてくる煉獄の声は穏やかなままだった。
    「今の曲が主題歌になっていたドラマなんだがな。当時は見ていない者がいないほど大流行して、有名な告白シーンを皆こぞって真似していたそうだ」
    「……そう、なんですか……」
    「俺も生まれる前の話だから又聞きでしかないがな」
    そうして煉獄が語って聞かせてくれたお話はなんとも不思議なものだった。
    ある女性に告白をして断られた男が、道路を走るトラックに飛び込んでいき、目の前ギリギリで止まったトラックの前で僕は死にませんと大声で何度も叫ぶのだそうだ。
    (ふ、不思議なドラマだな)
    事故一歩手前、スリル満点なシーンが話題になる恋愛ドラマとはいったいどういったものなのだろう。素直に訊ねると煉獄はハンドルを右に切りながら楽しげに笑った。
    「俺も同じ感想だったな!そのあと詳しいいきさつを聞いてようやく合点がいった」
    先生が納得するほど素敵なお話なのか。興味がわいて、つい逸らしていた視線を運転席へと動かしてしまった。深く考えもせずとった行動だったが、炭治郎はすぐさま自分の軽率さを罵ることになる。
    「――――っ!」
    てっきりフロントガラスに向いていると思っていた煉獄の瞳は、しっかりと炭治郎を見つめていた。
    「ドラマのあらすじを説明したいが、たぶん時間が足りなくなりそうだ。だからこの話の続きはまた今度話してあげよう」
    雨が降り、日暮れの車内はいつもよりなお薄暗い。にも関わらず、炭治郎の瞳は煉獄の優しい表情を驚くほど鮮明にとらえていた。
    「しかしドラマの内容を詳しく知らずとも、この曲はとても素晴らしい!ほら、この二番の最初なんか」
    煉獄は視線を前方に戻し、次に続く歌詞をそっと口ずさんだ。
    君のことを僕がどれだけ愛しているか。心のすべてを伝えられる言葉なんてない。足りないのはわかってても言葉にしたい気持ちが止まらない。ずっと一緒にいたいんだ。会えない夜の寂しさは言いようがないほどだ。だからずっと一緒に朝を迎えて。二人で暮らしていこう。
    激しい雨の音のせいで囁く歌声は途切れ途切れに聞こえていた。だがどんなにぶつ切りなフレーズであっても、この曲が伝えたいメッセージはただひとつ。
    まぎれもないプロポーズの曲だった。
    (ずるい……!俺の気持ちも知らないでっ)
    けっして褒められたものじゃない八つ当たりを胸の中で繰り返す。面と向かって言えるはずもない罵詈雑言を呪文のように唱えてみるが、少しずつ顔が熱さを増していくのを止められない。顔だけじゃない。座席に預けた背も、シートベルトが圧迫する脇腹も、拳をのせた太股さえも。全身が燃え盛っているような心地だ。
    (なんで乗っちゃったんだ~~!)
    欲求を少しでも我慢してればこんな針のむしろに座ることもなかったのに。
    (家に着くまでもう絶対、先生の顔を見ないぞ!)
    こんな真っ赤な顔を見られて、理由を訊ねられでもしたら大変だ。そう決意すると、炭治郎はもう一度すぐ側にあるサイドガラスへと目をむけた。
    ガラスをたたく雨足は変わらず強さを保っていた。大粒の雫が追えないくらいの勢いでぶつかり、瞬く間に後方へと流れていく。消え去るひとつを見送り、白く飛沫立つガラスの向こうの景色に視線を映した時だった。
    灰色と白に埋め尽くされ、透明度を失ったガラスの表面に、うっすらと自分の顔が反射していることに気づいた。
    あ――――。
    呟いた声は本当に口にできていたのか。それすらも分からなくなる小さな密室の中で、炭治郎は瞬きも忘れてガラスを見つめた。
    大きく開かれたまま固まる赤銅色の瞳をガラスの向こうからまっすぐに見つめるのは、歌詞そのものの柔らかな金環の瞳だった。


    終)
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    suika2022kita

    DONE🔥🎴ワンドロワンライ作品
    お題【ふたりぼっち】
    キ学軸。大雨で🔥よ車で家まで送ってもらうことになった🎴。せまい車内で二人きりなだけでもドキドキなのに、🔥のある行動に🎴の心は嵐のごとく翻弄されて…。
    🎴が勝手に片思いだと思い込んでるだけの両片恋のお話です。
    声が優しいのはずるいと思います時おり強まる風にあおられた雨粒が、車の屋根を激しく打ちならす。
    炭治郎はくぐもった水音に満たされた車内の空気を落ち着かない気持ちで受け止めながら、雨に煙る窓ガラスの向こうをじっと見つめていた。
    (やっぱり、断るべきだった…っ)
    激しい後悔がひっきりなしに炭治郎の心を強襲する。けれど過去の選択をどれだけ悔やんでも今が覆ることはなく、おのれを取り巻くこの状況は歴として目の前に横たわっているだけだった。
    細く息を吐きながら、逸らしていた視線を少しだけ隣に動かす。首は真正面にむけたままなので、視界は焦点のあわないぼんやりとした光景だけが映りこんだ。それでも目の端にとらえた金色の髪と白いワイシャツの残影に胸は一瞬で激しくざわつきを深めた。目を背けたい衝動と、もっとよく見たいという欲求がせめぎ合う。どちらを選ぶべきか葛藤している炭治郎の耳に、柔らかなピアノと深い弦楽器の音色が流れ込んできた。
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    suika2022kita

    DONE🔥🎴ワンドロワンライ作品
    お題【自惚れても、いいのだろうか】
    キ学軸。🔥に好かれているとは思いつつ、告白して受け入れられるかどうかいまいち自信がもてない🎴が💎に悩みを相談するお話。
    ギャグ風味なうえ、🔥さん最後に少し喋るだけです😓
    rntnワンライ『自惚れても、いいのだろうか』昼休みに訪ねた美術室で、宇髄先生はなぜか大きな真紅の羽織を着て熱々の蕎麦を食べていた。
    「失礼します宇髄先生!ぜひご相談したいことが――……」
    道場破りのように勢いよくドアを開き美術室へ足を踏み入れた瞬間、自慢の鼻がひくりと動く。ただよう優しい出汁の香りの中、目当ての人は黒板のすぐ前にある教卓に陣取っていた。
    「竈門!?」
    教室の後ろのドアの前に立つ俺を見たキメツ学園美術教師・宇髄先生が驚いた様子で叫んだ。
    「おまっ……、ノックぐらいしろ馬鹿!」
    「えっ、すみません……」
    女子生徒に絶大な人気を誇る男前な顔が今まで見たことないくらい焦っていて、俺は思わず続けるはずの言葉を忘れてしまう。
    たしかに突然の訪問ではあったけど、まさかここまで怒られると思っていなかった。いつもの先生ならこんな突撃、にへらと笑ってすませてくれるはずなのに。不思議に思いながらもいちおう無作法を謝ると、宇髄先生はまったくよぉと小言を漏らしながらも手招きをしてくれた。
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