薄明光線1
そのアダルトグッズショップはいかにも治安の悪い街の裏通りの、ビルの1階にあった。
実際に訪れる客は1日に数名居れば多い方で、売上の大部分はネットからの注文であり、店長である伊黒小芭内の主な仕事は注文リストを見てダンボール箱に卑猥な玩具や衣装やローションを詰め込む事だった。
最初は嫌悪感で吐きそうだった仕事も今では心を無にしてさっさと終わらせる。時間が出来れば事務所の棚に設置した水槽からペットの白蛇、鏑丸を出してやり戯れるのが唯一の癒しだ。
彼が訪ねて来たのは梅雨が明けた頃の夕暮れだった。いつものように閉店作業に取り掛かろうとした所に、汚れたガラス戸を開けて金髪の男が入ってきた。
一目見て、髪色こそ派手だがいつものような品性の無い客とは違う、と感じた。焦茶のスラックスと半袖のワイシャツをきっちりと身につけたその男は、金と赤の瞳で真っ直ぐこちらを見据えながらレジカウンターの前までやって来ると、尋ねた。
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