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    tokarevsuzuki

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    煉おば。
    八丈島脱出直後の小芭内さんと数日だけ過ごした煉獄さんが後々まで拗らせている小話。
    ※幼少期小芭内さんは女性的な話し方です

    望蜀1


    夜更けに八丈島から戻った父は様子がおかしかった。母が亡くなって以来酷く落ち込んでいたのは誰の目にも明らかだったが、常以上に憔悴し、苦しげだった。
    おかしな点はもう一つあった。父の背後から色違いの瞳を持つ少女──口元を包帯で覆い、白蛇を連れている──がおずおずと姿を現した事だ。
    鬼の被害に遭った子供であろう事は想像が付いたが、通常孤児の行先諸々については隠が引き受けるはずだ。
    父と少女の更に後ろでは隠達が戸惑った面持ちで待機している。慣習に逆らってこの少女を屋敷に連れ帰る特殊な事情があるのだろうか。
    「お帰りなさいませ父上!あの‥‥」
    「この子は伊黒小芭内という。俺は休むから風呂に案内してやってくれ」
    疑問の言葉を遮りそれだけ言うと父は屋敷の奥へと向かう。その際に少女が「あ‥‥」と声を出して翻った羽織の炎色に手を伸ばしたが、父が振り返る事は無かった。
    折れそうに細く白い両手を胸の前で握り締め、少女は俯く。その瞳は潤み、今にも涙が溢れ落ちそうだ。
    「おばない、俺は杏寿郎という!父に代わって俺が案内する!だから安心してくれ!」
    慌てて励ますと、小芭内を風呂場へと連れて行く。着替えは母の物では大きすぎるので、一先ず自分が着られなくなった物で良いだろうか──などと考える余裕がこの時はまだあった。

    毛先まで手入れの行き届いた長い黒髪に、汚れてはいるものの上質な絹地で仕立てた着物。裕福な家庭で幸せに暮らしていたであろう少女が鬼に全てを奪われ心細さに震えている姿を見ると胸が痛む。必ず自分も父のような剣士になる──そう志を新たにしながら用意した着替えを渡して立ち去ろうとする。と、小芭内が着物の袖をきゅ、と握って引き止めた。
    「え?」
    「お風呂に入るのでしょう?」
    「ああそうだ!」
    と言うと、小芭内は首周りの白蛇を着替えの上にそっと移し、くるりと背中を向けてそのまま静止した。
    「はい」
    「ん‥‥?」
    意味が分からず固まった所に小芭内も不思議そうな顔をしてちらりと振り向くと一言。
    「帯」
    とだけ言って再びじっと待っている。今度は帯を外せという意味だと理解出来た。だがまだ互いに子供とはいえ男の自分が少女の帯を解くのは良くないのでは、しかし自分で着物を脱いだ事もないような暮らしをしていたらしい彼女が困っているのなら助けるべきなのか──額に汗を浮かべながら思案していると再び声がした。
    「まだ?」
    「帯だな!」
    これは人助けだ、と自分に言い聞かせながら金糸の刺繍が施された帯に手をかける。しゅるしゅると音を立てて帯を解ききり、軽く畳んで洗濯物用の桶に入れて、これで役目は果たした、と思いきや長襦袢姿になった小芭内が前に向き直って両手を軽く広げたので、人生初の目眩を覚えながら長襦袢の腰紐にも手を伸ばす。
    結び目を解き、まだ幼い弟よりも細い胴回りに腕を回した所で目を閉じると、早口でこう言った。
    「小芭内、あとは一人で出来るか?これが解けたら俺は行くから──」
    「どうして?」
    「どうして、と言われても‥‥女子の着替えを見る訳には」
    「──おなご、じゃないわ」
    「え‥‥?」
    何度目かの疑問符付きの間の抜けた声と取り落とした腰紐が床に落ちる音が重なる。 
    「きょうじゅろうは男?」
    「あ、ああ」
    「見て」
    静かな、しかし奇妙に力強い声音に思わず言われた通り薄く目を開くと、眼前にははだけた長襦袢の間から除く陶器の如くつややかな白い胸元、その先端に色付く薄桃の飾り、気まずさに視線を落とせば──そこには自分と同じ、男の象徴が。
    「あなたと同じよ」  
    「っ‥‥‥‥!」
    確かに同じなのだが、そう言い切れない妖しさがまだ幼かった自分にも判って、顔が熱く火照る。
    小芭内はそんな自分を訝しげに見て首を傾げ、同じなのだから問題無いと言いたげに眼前の手を取って長襦袢を肩から滑り落とすよう促した。
    顔の包帯だけは小芭内自らが解き、痛々しい傷跡──治っては裂けてを繰り返したような、違和感のある──を見られた時、彼は悲しげに目を伏せたが、直ぐに浴室に入ると、右手をこちらに向けてゆるりと上げ、柳のように柔らかく動かす。それに操られたように足を一歩、二歩。と、想像通り、洗髪、洗体も介添えろという事であった。

    大いにぎくしゃくとしながらも長く美しい髪を洗ってやっていると、何やら悟ったのか、小芭内がぽつりと言った。
    「髪は自分で洗うのね。身体も‥‥」
    「そう、だな。俺は四つの時からか‥‥そうしている」
    「ごめんなさい、何も知らなくて。これから覚えるから」
    「謝ることはない。分からない事は俺が何でも教える!」
    「ありがとう。きょうじゅろう」
    それから小芭内は石鹸を手に取り、使い方を尋ねたのだが、手本を見せて欲しいとの言葉に頭をくらくらさせながら泡だらけの手を滑らかな肌の上で動かした記憶が余りに強烈で、その後の事は朧げだ。



    2


    「炎柱様、お久しゅう御座います。その節は大変なご無礼を‥‥」
    「俺は全く気にしていない。それから知らない仲では無いのだから、人目が無ければ杏寿郎と」
    「いえ、そのような訳には」
    時は流れた。あの晩突然現れた儚げな少年は再び突然、僅か数日で煉獄邸を去った。
    後から知った事だが、煉獄邸付きの隠から「炎柱様の側から離れようとせず屋敷まで入り込み、あまつさえ跡取りの杏寿郎様に身の回りの世話をさせるとは何事か」と非難が噴出しての結果だったらしい。隠達の献身には感謝しているものの、この件に関しては恨めしい気持ちを捨てきれない。
    あの後もう少しでも長く小芭内と共に過ごせていれば今のように他人行儀な振る舞いはさせなかっただろうに。
    彼が療養の後鬼殺隊士となった事は耳に入っていたが、運悪く今日──自分が炎柱となった日まで彼と逢う事は叶わなかった。
    柱の権限を行使して呼び寄せた小芭内は表情には出さないが困惑しているようで、人払いをした炎柱邸の奥の間に入るなり深々と頭を下げ、かつての事を謝罪したのだった。
    「顔を上げてくれないか小芭内。謝る必要も畏まる必要も無い。久しぶりに逢えて本当に嬉しいんだ」
    「炎柱様‥‥」
    「杏寿郎だ。──君にとっての炎柱は今でも父なのではないか?」
    ぐっと近寄ると鍛えて尚線の細い肩に手を置き、今では酒に溺れる日々を過ごしている父の話題を出す。
    「あ‥‥」
    ハッと顔を上げた小芭内はあの日父に玄関に置き捨てられた時と同じ表情をしていた。しかしかつてのように異彩の瞳を潤ませる事は無く、ぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
    「あの時、俺は炎柱様以外の全ての人間が恐ろしかった。それでどうしてもあの場で離れられず──炎柱様はさぞご迷惑だったでしょう。けれどお屋敷まで連れて行って下さり‥‥そこに‥‥杏‥‥寿郎様が居た‥‥。俺は炎柱様にも、杏寿郎様にも救われました」
    「──俺も君の恩人という訳か?」
    「はい、杏寿ろ──‥‥!」
    他人行儀な敬称がまた彼の唇から溢れる前に包帯越しにそれを己の唇で塞ぐと、瞳を大きく見開いた小芭内──長年の想い人──をそっと畳に押し倒して言った。
    「俺にとって君は、こういう事をしたい相手だ」
    「は‥‥」
    呆気に取られている小芭内に代わって、彼の連れである鏑丸がシュー、と怒気も露わな音を立てながら杏寿郎を牽制する。
    「だがこれ以上はまだ早いようだな。さて、何からしよう」
    嘗て一方的に約束して果たせなかった観劇や花見遊山も良いが──
    「やはり風呂か」
    と、微笑みながら言ったところに殆ど手刀に近い小芭内の平手打ちが飛んできた。勿論柱である自分に適う速度では無く、易々と止められた手を戦慄かせながら、彼は低い声で呟く。
    「煉獄家次代当主、炎柱ともあろうお方が‥‥下卑た真似を」
    「はは」
    出自立場に関係無く、欲とは存在し、往々にして汚いものだ。それを君には。
    「赦してほしい」
    鏑丸の鋭い牙が耳朶に突き刺さるのも構わず小芭内の軽い身体を肩に抱えると、俺はあの日操り人形のようだったのとは対照的に、確固たる足取りで風呂場へと向かった。



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    Replies from the creator

    tokarevsuzuki

    DONEアダルトグッズショップの店長小芭内さんと探偵煉獄さんの話。
    煉おば真ん中バースデーのためにXに散っていた物をまとめて手直ししました。
    ヒールに苦労する描写はどらやきさんのイラストから発想を得たものです。
    薄明光線1



    そのアダルトグッズショップはいかにも治安の悪い街の裏通りの、ビルの1階にあった。
    実際に訪れる客は1日に数名居れば多い方で、売上の大部分はネットからの注文であり、店長である伊黒小芭内の主な仕事は注文リストを見てダンボール箱に卑猥な玩具や衣装やローションを詰め込む事だった。
    最初は嫌悪感で吐きそうだった仕事も今では心を無にしてさっさと終わらせる。時間が出来れば事務所の棚に設置した水槽からペットの白蛇、鏑丸を出してやり戯れるのが唯一の癒しだ。

    彼が訪ねて来たのは梅雨が明けた頃の夕暮れだった。いつものように閉店作業に取り掛かろうとした所に、汚れたガラス戸を開けて金髪の男が入ってきた。
    一目見て、髪色こそ派手だがいつものような品性の無い客とは違う、と感じた。焦茶のスラックスと半袖のワイシャツをきっちりと身につけたその男は、金と赤の瞳で真っ直ぐこちらを見据えながらレジカウンターの前までやって来ると、尋ねた。
    11733

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