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    両想いなのにすれ違ったまま大人になってしまった西谷と東峰の話
    原作が完結したのでゆっくりじっくり進めていこうと思います
    べったーに以前上げたものを加筆修正しています
    ※専門学校時代の捏造後輩(男女)が出ます
    ※旭さんの東京行った後の経歴は想像です

    #西東
    west-east
    #にしあず

    大人にしあず(1)フォン。
     暗闇に響く、小さな通知音。
    「・・・ん、ぅ」
     頭上のスマホへ手を伸ばす。
     午前5時36分を示したホーム画面に目がくらんで、東峰は思わず顔をしかめた。
     送り主は予想が付く。通知画面をタップした瞬間、群青色とオレンジの混ざった星空が画面いっぱいに広がった。
    『トルコです!』
     たった6文字のメッセージと、1枚の写真。
    「・・・ははっ」
     エネルギーの塊のようなショートメール。
     何年経っても、何も変わっていない。
     未だ慣れない眼をしぱしぱさせながら、とんとん、とゆっくり文字を入力する。
    『キレイだな』
     即ぽこんと返る笑顔のスタンプに、ほんの僅か、鼻の奥が痛くなった。

     西谷の連絡はいつも突然で、突拍子もなくて、簡潔だ。
     いつでもそう。いままでも。きっとこれからも。

     スペインの夕日。
     だらしなくコンクリートに寝そべるインドの野良犬。
     内モンゴル自治区の地平線。
     イタリアのカジキ。

    「西谷」
     もそもそと再びベッドに潜り、戯れにその名前を呼ぶ。
    「・・・西谷」
     また口の中で呟く。
    「・・・にし、のや」
     目を閉じて、もう一度。
    「・・・っ、」
     理由のない涙が、ぽろりと一粒こぼれた。

    ***

    「で?」
     だん、とジョッキのビールを叩きつける音が店内に響き渡る。勢いにつられ、大きな金のリングピアスが耳元でチリンと揺れた。後ろのサラリーマンがびくりと振り向くのも構わずぐいぐい詰め寄るその勢いに、東峰は青い顔でのけぞる。
    「・・・えっと、な、なに・・・」
    「だーかーら、いつ西谷さんに告るんですか」
    「んぐっ」
     中国コスメのラメに縁取られたつり目が、ぐーっと手持ちのジョッキを一息に煽る。
    「っぶは!好きなんでしょ?だったら」
    「やめろって。酔いが早いぞ」
     横で苦笑しながらジョッキを傾けるのは、ダークレッドのインナーにグレーのカジュアルジャケットに身を包んだ、東峰に負けず劣らず恵まれた体躯のツーブロック。不満を隠そうともせずなおも絡むのは、細身に吸い付くようなブラックのサテンワンピースを纏ったゴールドブラウンヘアの女。2人とも東峰の同僚かつ、専門時代の後輩だ。
     高校を卒業してまもなく、東峰は上京を果たし大手ブランドメーカーで働いていた。うまい話は高額な初任給のみ、度重なるサービス残業と依頼先からの無茶ぶりに耐えながらもなんとか数年頑張ってきたが、ある日大きな転機を迎える。自分の功績を全て上司の出世のダシにされた挙げ句、自分の企画が上司と懇意にしていた他部署へ横流しされたのだ。
    『東峰はいい。顔の割に怒らんから、適当に利用できて助かる』
     なけなしの勇気を振り絞って直談判しに向かった先、嘲笑混じりの陰口を耳にして全ての気力が尽きた。抗議も馬鹿らしいと思った。 思わず漏れた乾いた笑いが、なんともむなしく聞こえた。
     そのまま身の振り方も考えず辞職し、しばらくアパートでぼんやり過ごしていた矢先、数年前に同社を辞めていた後輩たちからメールが来た。
    『辞めたって聞きました。自分たちと新しいブランド作りませんか』
    「やっと辞めたんですね。よかった。東峰さんの才能は埋もれさせたらもったいないです』
     突拍子もない話に一度は断ったが、継続的利益の見込み、顧客リスト、構える事務所の候補、それに必要な予算などありとあらゆる材料を見せられ、上下関係は一切なし、全員で仕事を共有して頑張りましょうと熱弁され、半分折れるように了承した。実のところ少し人間不信に陥っていたのもあって腰が重かったのだが、ここまで純粋に自分を慕ってくれる後輩達の恩に報いる必要があるとも思ったからだ。
     互いに持ち寄ったはかない手持ちは諸々の手続きで吹き飛んだが、ありがたいことに大手メーカー時代の顧客が思った以上に製品を購入してくれていることからなんとか商売が成り立っており、さらにはスポーツ用品を取り扱う田中やデザイン関係の株式会社に勤める谷地など、烏野の仲間も購買に拍車をかけてくれている。いろんな人たちに助けられて今があることに、ひたすら感謝しかない。
     ・・・ゆえに、東峰はこの強気な後輩達になんだか頭が上がらない。
    「明白でしょ?!東峰さん、仕事以外の話題は西谷さんが9割なの自覚してます?アメリカの話題になればあいつも先月行っててニューオーリンズが楽しかったらしいだの、シドニーになればエアーズロックは肉眼で見たら格別らしいだの、バレーにかかればリベロはあいつのパンケーキが天才的だったんだよだの、私もこいつもまだ西谷さんに会ってないけど西谷知識ヤバすぎて対面したら絶対すぐわかるレベルですからね」
    「きゅ、9割は言い過ぎだろ」
    まぁまぁ、とツーブロックが割って入る。
    「西谷さん、ちょくちょく連絡くれるんすか」
    「う、うんまぁ・・・来ないときは来ないけど、多いときは週1で来る時もあるし、あいつも大概気まぐれだよ」
    「旅に出てもう随分経つんすよね」
    「そうだねぇ。もう1年になるのかな」
    「それからずっとですか、西谷さんマメですね」
    「・・・そう、だよね」
     焦茶色の瞳を伏せて、東峰はなんとも煮え切らない返事を繰り返すばかり。

     龍之介でも縁下でもない、自分にくれるメール。
     それが夜中であろうと、西谷からと思うと取ってしまう。
     否、そんな時間に来る連絡なんて西谷からしかいないからこそ即座に見てしまう。
     その事実だけで十分嬉しいから、それ以上は求めたくない。

    「東峰さん」
     かき上げられた髪の間から覗く強気な瞳が、再び会話に割って入る。
    「西谷さんのこと、好きなんですよね」
    「・・・、嫌いじゃない、よ」
    「歯切れ悪っ。それ、好きとどう違うんです」
    「う・・・」
     手に持っていたカシスオレンジを慌てて喉へ流し込んだ。
    「・・・美味く言えないな。西谷と俺に、名前が付けられないんだ」
    「・・・」
    「嫌いになれないさ。スパイクの練習に付き合ってくれた時も、放課後アイス食いながら帰った時も、合宿の夜散歩に行った時も、一緒に過ごした時間は心から楽しかったし、俺もあいつも笑ってた記憶しか思い出せないから。だから今、こうして俺に連絡をくれるだけで凄く嬉しいし、なんだかんだそういうのも俺だけみたいだし」
     すっかり緩くなったアルコールを見つめて、ため息を漏らす。
    「でも、だからといって、縛れない。独占したくないし、そもそもできやしない。あいつはどこまでも自由で、強烈で、誰もが好きにならずにいられなくなる。ありのままを謳歌するからこそ、あの善性は相対する心をやわらげるんだ。西谷はいつも、どこでも、誰にでも西谷で、常に真正面から堂々としてて。・・・ちょっと嫉妬してた時期もあったけど、今は違う。だから、世界中跳ね回る西谷をずっと見守るって、腹をくくったんだ」
     ふ、と一息ついて、ブラウンの厚手ジャケットを脱ぐ。少し暑くなってきた気がしたからだ。
    「どこにいるかだけは定期的に連絡をくれないか、と唯一頼んだことをずっと守ってくれているし、それがあいつとの唯一の繋がりだから俺は満足なんだよ」

     西谷の、心のアンカーになりたかった。
     二度と戻らないとしても、それでいいと思った。
     西谷には西谷の人生があるように、俺は俺の人生を一生懸命やるしかない。

    「・・・それ」
     深紅の唇がぼそっと問う。
    「結局やっぱり、めちゃくちゃ好きじゃないですか。お互い」
    「は?」
    「・・・うーん・・・、今の話聞いたら、否定できないですね・・・」
     男も苦笑しつつ、同意せざるをえない。
    「え、ちょ、なんで・・・いやいやいや!だからその、あんまり執着したくないって話なんだけど」
    「あーだめだわこれ自覚無い」
    「だな、俺たちじゃ無理だわ」
    「いや、だからさ」
    「・・・帰ります、また明日」
    「私も。あざっしたー」
    「ええええ・・・」
     特有の困り眉で慌てる先輩もお構いなし、有能な後輩達はがたがたんと同時に離席する。今日は何言ってもダメだわといいながらも自分が飲んだ分の勘定をきっちりおいていく二人の判断は、悲しくも正しかった。
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