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    Laugh_armor_mao

    @Laugh_armor_mao

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    Laugh_armor_mao

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    鬼狐ワンドロワンライ
    お題 『紫陽花』
    開催有難うございます。
    時間:1時間25分

    月下華水盆 珍しく蒸し暑い夜。キッチンのアイストレーから氷を口に放り込んで水を煽ると、口蓋を伝って脳の芯が少し冷やされて意識が覚醒していく。そのまま奥歯でがりり。と噛み砕いて呑み込んで、もう一つ口に含む。
     目の端で、ふわりと白い影がダイニングの小窓の磨り硝子を横切ったのが視えた。

    「あっづい!」
    「起きて一言目がそれか」

     テーブルに香ばしくトーストされたマフィンと手で挽いた熱いコーヒーを並べながら呆れ顔をしている男も、緩く髪を纏めてワッフルコットンのTシャツだ。四角い格子を見ているとワッフルが無性に喰いたくなるのは俺だけだろうか。

    「マフィンの気分では無いと言ったところか?軽い物ならティータイムに出してやるからフルーツだけでも食べた方がいい」
    「俺は子供か?!マミーって呼んでやるからな!」

     体温に近い室内で、生ぬるい覚醒をした。そっと窓に近付いて外を見る。

     真っ暗な暗闇に、白く浮き出た美しい鼻梁、白い骨張った手首、水面に映る月を刈り取った、丸い幽かに蒼い華。
    足音も立てずに裏庭に向かって行った。

    「…おはよ」
    「?おはよう」

     なんの事はない。夜に徘徊していたのは愛すべき同居人…鬼か。の男だ。同時刻に部屋が空なのもキチンと確認済だ。
     だけど、理由がわからない。

     毎夜、ヴォックスは花を運ぶ。日毎に花は蒼を濃くして。段々と暗闇に溶け込んで、金色の瞳だけが煌々と光る。

     裏口のポーチの柵の隙間から覗く、ミスタの項にしっとりとした汗が滲んで、夜風がヌルリと肌を撫でて通り過ぎて行く。熱に浮かされたように、フラフラとヴォックスの後を付いて行く。
     とうとう月は満ちて、周囲の景色を白々と浮かび上がらせ、対極に土の道は深淵の様に黒く。

     ヴォックスは小藪の開けた場所まで来ると、ぷつり。と半円状の装飾花を茎から刈り取り、水に放つ。手持ちの花の首を全て刈り取ると、酷くゆっくりと緩慢にこちらへ振り向いた。

    「おや。優秀な探偵殿に、気付かれてしまったか」
    「そりゃ気づくでしょ」

     たいして隠す気もなかった癖に。本当に隠したかったら、そうするハズじゃん?きっと誰も気付く事が出来無い。

    「脅かそうと内密にしていたのに」
    「違う意味で相当驚かされましたけど?!」

     肩を竦めて残念だ。という顔をしたヴォックスに逆毛立てて抗議しながら大股で近付いた。

    「結局、何してたの?」

     肩越しに見遣れば、2メートル四方の池に、蒼い月がグラデーションを描くように浮いて、美しく揺れていた。

    「水中のhydrangea(水の器)?」
    「日本では集づ藍(アジサイ)と言って、青色の花なんだ。ミスタに見せたくてね。」

     こちらの土壌では、紅い花だろう?と嬉しそうに無邪気な顔で笑う。時々ヴォックスは、ニホンの記憶を俺に見せる為に、あれやこれや画策する事がある。こいつのセンチメンタルに付き合ってやっても良いかなとは思う位には、嫌いじゃないから、俺も相当重症だ。

    「キレイだけど、俺に見せるなら家に活ければ良かったんじゃない?」

     こんな場所知らないんだけど。と続けて、ふ。と隣を見遣れば、酷い悪戯を仕掛ける時の笑顔に、ヒヤリとした金色の視線が向けられていた。

     とん。と肩を押されて、足を後ろから払い上げられる。受け身も取れぬまま、後頭部から背中の順に水中に投げ出された。

    「この池は湧水だから、涼しいだろう?」

     いつの間にか尻ポケットから抜き取った俺のスマホで写真を撮りながらヴォックスが嗤う。言われて見れば清涼な感覚が服の布地を突き抜けて、肌の温度を心地良く下げて行く。
     大きく息を吸い込んで身体の力を抜いて水の浮力に任せると、耳許をトプトプと波が舐めた。

    「あぁ、美しいな」

     ヴォックスの感嘆の声を聞きながら、なぁに?これが見たかったの?難儀な奴だね。と片眼で応えて、お互い様だね。と笑う。

     華で満たされ、時折月明かりにキラキラと反射する水面に浮かぶミスタは氷の棺で睡る紫陽花のように見えた。
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