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    越後(echigo)

    腐女子。20↑。銀魂の山崎が推し。CPはbnym。見るのは雑食。
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    越後(echigo)

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    こぐまさがる番外編小ネタ。!暗い話!
    書付けレベルなので後で修正するかも。

    ##こぐまさがる
    ##小説

    スーベニール4おおかみのみた情景。おおかみのみた情景。
     狼は怒っていた。無作法なことに、彼の不在を狙って友人が寝床を洗ってしまったのだ。すっかり臭いの消えてしまった、すべすべしすぎる布を敷かれて彼はたちまち不機嫌になった。
     まず玄関から飛び出してあちこちを駆け回る。帰ってくるなり、かつての自分専用の敷布に寝転がると身体をこすりつけ、泥汚れと己の臭いをまぶした。友人の叫びが聞こえ、ほどなく呆れたような笑い声に変わってしまったが知るものか。これは己のものなのだ。そのための臭いだ。
     彼は身体を起こして、今度はわからず屋の友人に飛びかかる。また悲鳴が上がった。身体をすりつけて顔をなめてやる。
     そもそも、こいつは臭いが薄すぎるのだ。すぐに水に身体をさらして体臭を落としてしまうし、日によっては妙な臭いを擦り込んでから帰ってくる。自分の臭いも管理ができない、しょうのないやつだ。そんなことを考えながら、彼は頭頂を友人の顎にすりつけてやる。
     友人は毛皮が当たるたびに笑いながら狼の背に手を回していた。なんだ、喜んでいるじゃないか。ふすふすと鼻を鳴らすと、己の臭いにくるまった友人がいることに、彼は安心した。
     あるときから、友人が家の中のあちこちの臭いを消してしまうようになった。いないうちに擦りつけておく。歩きまわってみると、いつのまにか、ずいぶんと物が減っていた。
     友人は食料を減らし始めた。なぜか狼の食事だけ、一食ずつ律儀に取り分けている。それを眺めながら彼は、ぱたり、と退屈そうに尾を振っていた。

     ある日、友人は狼の顔を見て、何事かを告げていた。
     狼には、友人の言葉がわからなかった。

     故に、狼は此処にいた。友人が残していった食料はすぐに尽きた。しかし優秀な狩人であった彼にとって、己の食い扶持の調達は簡単なことだった。
     何故なら森の住人の中で、彼は頂点に立つべくしてある生き物であったのだ。そう、あの日、火を吹く筒に身体を貫かれ、友人と出会ったときまでは、確かに。
     今やすでに彼の知っている自然は、そのままでなくなっていた。今や活動をすればするほど、無粋な侵略者に追われることとなった。しかし、彼は此処から離れるわけにはいかなかった。

     此処で己が待っていなければ、友人は何処に帰ってくれば良い。
     また変な臭いをつけて帰ってきて、またそれを落としてしまうようなしょうのないやつが。
     かと思えば不思議で心地よい音を聞くのを好む、背中を小器用にかくことのできる、己を笑い声で迎えるものが、何処に行けば良いというのか。
     狼は待っていた。友人は帰ることはなかった。

     血を流し、終わりに向かう彼は悟った。
     友人を迎えに行けばよかったのだと。この脚で、この耳で、この鼻で。

     ――お前だって、ひとりは寒く、さみしかろう。

     クゥ、と鼻を鳴らす。身体はきしんで、動かない。毛皮は芯から冷たくなっていく。彼は金色の目をゆっくりと閉じて、二度と開かなかった。
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