Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    nuru_nurukinoko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    nuru_nurukinoko

    ☆quiet follow

    彼と彼女のバレッタと。

    彼と彼女のバレッタと。「モクマさん。そちらの飾り棚の上に置いてある髪留めを取って頂けますか?」
    「うん?」
     揃って休日のとある日の朝食後。食器をシンクに持って行った帰りがけ、相棒にそう声をかけられてモクマはきょとりと首を巡らせた。国から国へ、裏社会の統一のために渡り歩く二人の棲家は物でごった返すということがない。主にチェズレイがチョイスするシックな家具が殺風景にならない程度に置かれ、そこに互いの日常で携わる小物―――ニンジャジャンショーのチラシやら、季節の花々を生ける花瓶やらが溶け合って寂しさを感じさせない彩りになっていくのが常であった。
     そんな風景の一部―――日当たりの良い窓際に設置された飾り棚の上。よくよく見れば、見慣れないものがぽつんと置かれている。近寄って手に取り見れば、それは連なる野花が彫り込まれた髪留めであった。生まれ故郷のマイカではもっぱら簪が使われるものであったし、自身は雑に髪紐で括っていた記憶しかないモクマにとっては金具のついた西洋風のそれは随分と馴染みのないものである。おっかなびっくり、手のひらの上にそっと持ち上げて、万が一にも壊さないように相棒に手渡した。
    「…はいよっと。」
    「――――フ、…」
     クスリと笑いを漏らしたチェズレイを瞬きしながら見つめ返すと、眩い黄金の睫毛を震わせて彼は可笑おかしそうに笑っている。
    「そんなに怯えずとも。触れた程度で破損したりはしませんよ。」
    「ば、バレてたか…。いや、おじさんこういう金具の付いとる装飾品は触ったことなくてさ。」
    「おや。マイカにも髪留めは存在するでしょうに。」
    「あるけどさぁ、もうちょいアナログな造りなのよ。」
     照れ隠しにボリボリと頭を掻きながら、椅子を引いてテーブルにつく。そんなモクマを見つめながら、チェズレイはその正面に座し、手袋に包まれたしなやかな手のひらの上に髪留めを乗せた。   
     そうして眺めていると、そっくりそのまま美術品の鑑定をしているように見える。持ち物から何まで拘りのある相棒の事だから、もしかしなくとも何処ぞの博物館に収蔵されてもおかしくない品なのかもしれない。――――それにしても。
    (…ミカグラの事件からこっち、一緒に暮らしてて随分と知った気になっとったが。…こういう髪留めも身につけるんだな。)
     それはモクマの偽らざる本音であった。
     チェズレイという人物の精神の成り立ちは母親との関係が濃いものであり、故に女性性が強い。所作や立ち居振る舞いからも、感情の発露の仕方からもそれは理解が及ぶ。しかし―――眼前の髪留めが持つ、少女的とすら言って良い雰囲気の装飾品は今まで触れてきた彼の美的感覚には含まれていなかったもので―――有体にいって、少々の驚きがあった。
     そんな事をつらつらと考えているモクマに、チェズレイは。
    「……私の人格形成過程とその有り様は知っている。しかしそれにしても予測できなかったタイプのデザインでもの珍しく感じている―――と言ったところでしょうか。」
    「…おじさんの心の中、読まんとってえ…。」
     何から何まですっぱりと言い当てられて、思わず気恥ずかしさと居心地の悪さを誤魔化すために戯けてみせる。そんなモクマを涼しい視線で見やりながら、気分を害した風もなくチェズレイは返した。
    「まァ、貴方のお気持ちも理解できます。私が如何に国宝級のキューティクルの持ち主とはいえ、この髪を彩るには少々フェミニンなデザインですものねェ…。」
    「や、そんな事は…」
    「ですがモクマさん。この現代に於いて、最早男性性女性性などといった旧時代の観念で個人を推し量るのはナンセンスとしか言いようがありませんねェ。誰が何を装おうが、肝心なのはその能力と本質―――ガワに振り回されては本末転倒ではありませんか、ねェ。」
    「う、うぅ…。時代に取り残された、デリカシーのないおじさんでゴメンナサイ…。」
     塩をかけられたナメクジのようにしょぼくれてみせるモクマに、溜飲を下げる―――というよりは、存分に揶揄からかって満足を得たチェズレイは。薄い唇を緩め、目尻を微かに和らげてフ、と息を吐いた。
    「ですが―――貴方が違和感を覚えられるのも当然かと。…これは―――母が身に付けていたバレッタと同じ型の品ですから。」
    「――――、…!」
     ハッと顔を上げた男に青年は独り言のように語り始めた。
    「母は几帳面で潔癖な性分でしてね。普段はきっちりと髪を結い上げているのが常ではありましたが―――それでもやはり、時には髪を下ろしてバレッタで留めていることもありました。所謂ハーフアップ、と呼ばれるヘアスタイルですね。…今思い返せば、一際穏やかな心持ちの日にそうしていたように思います。」
     取り分けロングのヘアスタイルは区別のつかないモクマではあるが、それでもあれか、と類推が付く程度にはポピュラーな髪型にぼんやりと脳裏で像が夢結ばれる。たおやかで繊細、儚い面影の女性が、長い髪を揺らして微笑む様。その後頭部を飾る野花の髪飾り。遠い日の、陽だまりのような記憶は青年の心の奥底で彼を支え続けていたものに違いなかった。
    (―――だが…)
    「しかし―――ご存知の通り、母は命を落とし。私は父を弑殺しいさつしました。組織を乗っ取る事に成功し、彼の権力はおろか財産、不動産―――ありとあらゆるものが私の手に渡りました。…その時までは、髪留めも確かにまだ手元にあったのです。」
     手袋に包まれた長い指先が、確かめるように髪留めを撫ぜる。その後―――チェズレイの人生に何が起こったのか。モクマもよく知っている。幾度思い出しても、痛ましい気持ちを禁じ得ず――眉根を寄せて男は呟いた。
    「―――その後の諸々で、見失っちまった―――…?」
    「今更お気遣い頂かなくとも。」
     ク、と喉奥で僅かに苦い笑いを噛み殺しながら、チェズレイは返した。
    「最早隠し立てする事でもなく、裏社会に身を置く物には周知の事実ですよ。―――その後…私はファントムを側近として迎え入れ、彼に全てを突き崩されました。」
     ゆっくりと瞬きをし、アメシストの瞳に憂いとも懐古ともつかぬ色を浮かべて青年は呟く。
    「組織は崩壊し、私自身も重傷を負わされ―――身を隠さざるを得なくなりました。その際に手元に残しておけたのは、極々一部…。不動産の所有権も、家屋の中の品物も…全て散逸してしまいました。」
    「――――…そう、か…。」
     恐らくチェズレイにとって、組織の頂点としてほしいままにできた財産の殆どは、無くしても惜しくないものだったに違いない―――と、モクマは理解していた。ただ、たった一軒の家と、その中に在る金銭的価値の低い―――けれど彼の心身を育んだ心の支えが失われてしまった事の方が、どんなものを奪われた事よりも辛かっただろう。
     あの日、ヴィンヴェイで見た、一面雪に覆われた、痕跡すらない屋敷跡地が脳裏をよぎった。己でさえ寂寥の念に駆られるのに、当事者はどれ程心掻きむしられる辛さだったことか。
     加えて当時は―――心酔対象のファントムに裏切られたやりきれなさも抱えていたのだから―――。
    「………。」
     思わず心の中に重苦しい感情が滲みそうになって、モクマは息を吐く。そんな相棒を察しながらも敢えて淡々と、チェズレイは言葉を続けた。
    「モクマさん…私ね。アンティークは趣味に合わないのですよ。」
    「――――うん…?」
     辛い過去の述懐から急に話が飛んで、男は思わず顔を上げて目を瞬かせた。そんな彼の正面で、青年はアルカイックな微笑を浮かべて告げる。
    「この髪留め―――亡き母のそれを何とか手元に再現しようと、何度か各地の名工に依頼して同じものを造らせました。質も形も問題ない、完璧なものを。なのにね…どうしても、あの日の母の髪を彩っていた風合いが、エッセンスが…抜け落ちているように感じられて。納得が行かず、それらはどうしても手元に置けませんでした。そんな折、オークションでこのアンティークのバレッタを見つけて――――あァ、これを探していたのだ、と手に入れたのです。」
     言われてみれば確かに、彼の手なの中でひっそりと収まっている髪留めは、端々に新品は持ち合わせない古色で化粧をしていた。モクマ辺りからすれば暖かみにすら思えて好ましいが―――確かに、目の前の潔癖な相棒からすれば気にかかるところではあろう。
    「…俺は、古道具って気にならんけどなあ。いいじゃない、他人の手を渡ってきたものって。歴史も感じられるし、案外新品よりも身に馴染むもんだよ。」
    「―――貴方はそのように仰るだろうと思っていましたよ。全く――――どこまでも私の主義の真逆を行く人だ…。」
     敢えてあっけらかんと笑って見せる男に、青年もまた大仰に嘆きを返す。互いに悲しみに沈み過ぎないように。心を軽く持ち直すために。
     けれどね、モクマさん。
     チェズレイは呟く。
    「本当にここのところ―――どうしたものかと思っておりまして。」
    「…潔癖なお前さんの事だから、しっかり手入れはしたんだろう。となると後は、気持ちの問題じゃない。」
    「それも、自覚した上で煩悶はんもんしているのですよ。…身に付けるでもなければ、保管して飾ることすら躊躇している己の中途半端さに。実物ですらない紛い物を手元におき心を慰撫する、己の愚行に…。」
    「チェズレイ…。」
     今でこそ―――今でこそ、仲間を得、己という伴侶も得ている青年が、人生の大半を幼き頃の母との思い出をよすがに孤独に乗り越えてきたことを、モクマはよく知っている。そんな彼にとって、失われた母親の遺品を求める気持ちは痛いほどに理解できた。
    (―――恐らくこいつの事だから、この髪留め以外―――家具から調度品まで、探し続けているに違いない。)
     そんな確信を得て、男は眼前の伴侶の情の深さに改めて慈愛を抱いた。なんと愛が深く、濃く、健気な男だろう。
    「……大事な人との思い出の品を求める事の、何が愚かな事があるもんか。…そっか。お袋さん、そんな髪型もしてたんだねえ……。」
     だからこそ、モクマはただただ、心の中に浮かぶ想いを唇に乗せ、心を寄り添わせるように囁いた。
    「―――きっといつもに増して可憐で清楚で、お前さんそっくりに綺麗な髪を揺らしてピアノを演奏してくれたんだろうね。お前さんもさぞ心が弾んだ事だろう。」
    「―――モクマさん……、」
     懊悩おうのうで緊張に揺れていた紫眼が、番の言葉を受けて柔和に緩む。
     
     そんな番の綻ぶ顔を見つめながら、モクマは一息置いて―――表情に癖を滲ませて、ニヤリと笑った。
    「時に、チェズレイ。お前さんどの拠点に移っても、身支度の手入れ品は鏡台周りに置いとるだろう。…髪留めも同じだ。」
    「――――…えェ、その通りですが、何か?」
     肯定を示す青年に、男は続ける。
    「何故今日、この髪飾りだけ棚の上にあったんだろう、と思ってさ。…もしかして俺の考えすぎだったら謝るが――――チェズレイ。お前、この事をずっと俺に話す、切欠が欲しかったんじゃない?」
    「――――……。」
     紫眼を内より湧き出す思惑と情で揺らめかせながら、チェズレイは髪をかき上げた。
    「あァ、モクマさん……自ら宣言した言葉を再現するのは如何かと。―――全く…デリカシーの無い野暮な方だ…。」
    「はは。そりゃ失礼。」
     そう言葉を返しながら指摘の否定をしない辺り、事実なのだろう。
    (まったく、不器用な奴だ―――)
     そう思いながらも、モクマの心の内からは、見た目よりずっと必死に世の中を生き抜いてきた眼前の相棒に対する愛が溢れて止まらなかった。目尻を下げながら、男は続ける。
    「ま、お前さんがどうしたいかは解らんが―――…その髪留め、俺は純粋に良いなと思うがね。」
    「…貴方にはそうでしょうがねェ。………、」
     未だ心にしこりを感じている様子の青年に、男は朗らかに笑いかける。
    「デザインだってなかなかお目にかかれない凝りようだし、色合いも深みがあっていいじゃない。」
    「…形ばかりの慰めなど、結構―――」
    「それにさ。」
     トン、と装飾品を差しながら指先を机に軽く乗せて、モクマは囁いた。
    「もしかして、お袋さんが持ってた髪留め、そのものかもしれないでしょ。」
    「―――そんな。…そんな…都合の良い事…」
     動揺するように目を伏せて、チェズレイが反論する。それを制するように、男は言葉を続けた。
    「お前の事だから、その可能性も考えなかった訳じゃないんだろう。それでも確証が得られていないのは、単純にその髪留めの出処が追えなかったのと―――」

    「…そう信じられなかった。」

     台詞を継ぐように、薄い唇から言葉が漏れる。
    「当然です―――裏社会を生きる上で辛酸を舐めさせられた事、一度や二度ではありません。ファントムの件を抜きにしてもね。」
     眉根を寄せて、じとりと挑むような視線を向けながら青年は続ける。
    「だからこそ、そんな都合の良い妄想は考えられなかった。」
    「お前さんの力をもってしても、元の持ち主が追えなかったんなら―――おじさんにゃお手上げだ。だからその言葉を否定する材料もない。」

    「でもね、チェズレイ。誰かに造らせた新品じゃない、人の手を渡ってきた品って事はさ。その可能性もゼロじゃないって事だよね。古道具にゃ、そんな浪漫がある。」
    「…それは…認めますが…。…それは歩いていて隕石に当たるような確率でしょうに。」
     ハァ、とため息を吐いて青年は背凭れに体重を預ける。そんな彼に微笑みながら、男は言った。
    「現実ってのは、時に想像を超える奇跡が起こるもんだよ。あのミカグラでの出来事も、俺たちの関係だって―――もう二度と起こせないような奇跡の延長線上に存在してる。」
    「――――モクマさん……、」
     無二の絆と仲間を得た過去を引き合いに出されて、紫眼が惑うように揺れる。そんな彼の心を後押しするように、男は暖かく呟いた。
    「奇跡は起こる。でも、それは信じようとしないと起きないもんだよ。…その手の中の宝物を、その切欠だと感じても良いんじゃないかね。」



    「――――……。」
     しばらくの沈黙の後。青年は深く長い息を吐き、ゆっくり目を開いて――――正面の相棒を真っ直ぐに見据えた。
    「――――気が変わりました。」
    「うん?」
     小首を傾げて頭上に疑問符を浮かべる男に、青年はフ、と唇を吊り上げる。
    「モクマさん。このバレッタで、私の髪を留めて頂けますか?」
    「――――へ…???そ、そりゃまた急な…いや、全然良いけども。」
     深く長い苦悩から一転髪留めを受け入れる姿勢を見せるチェズレイに驚きつつも、モクマは困ったように頭を掻く。
    「でもさ、おじさん美容師とか床屋は未経験なもんで…。ましてやお前さんの髪をいじる度胸なんて」
    「おや…。そんな所だけは頼りなくていらっしゃる。」
     はァ、とため息を吐いて悲哀の表情を浮かべたのも一瞬のこと。すぐにクスリと笑って、青年は返した。
    「下拵えは私が致しますので、貴方は仕上げだけして下さるだけで結構ですよ。子供の手伝いより簡単です。」



    「さァどうぞ、モクマさん。バレッタは開いてお渡ししましたから、先程私が留めた――――結び目に沿わせるように金具を通してください。」
    「こ、こうかな……。」
     一度鏡台の前へ行き、リビングに戻ってきたチェズレイの後ろ髪は軽く纏められていた。モクマのする事といえば、椅子に座った彼の後ろに回り込み、手渡された髪留めを留めるだけである。
     指先に微かに触れるだけでも、零れ落ちてしまいそうな――――燦然と輝く朝日を採り集めたような黄金にそっと触れ。その上に、野花の意匠連なる愛らしい髪留めを真っ直ぐ美しく映えるように挟み込む。
     実際に触れてみれば、なるほど簡素な機構であった。パチン、と音をさせて金具を止め、左右から回り込んで仕上げのチェックをした後―――モクマはうん、と頷いた。
    「出来たよ。これでいいはずだ。」
    「――――…、」

    「どう、でしょうか。」
     その言葉に、青年がゆっくりと振り返った。腰まで伸びる豊かなプラチナブロンドを揺らして、血の通った彫刻のような美麗な青年が花の髪留めで髪を纏めている様は―――言葉で言い表せないほどに愛おしく、性の別などあやふやになってしまうような麗しさで。どうしようもなくチェズレイにしか放てない魅力に溢れていた。
    「――――うん―――とっても素敵だ……。」
    垂れ目を細めながら囁き、白磁の頬を掌を沿わせる。無骨な男の手の甲の上から、青年の掌が静かに沿わせられた。
    「似合いますか?」
    「ああ。よく似合ってる。」
    「見慣れない髪型でしょうが。」
    「いつもの髪と任務の一つ結びもいいけど、今のお前は初めてで新鮮だね。」
     いつも以上にお前に夢中だ、と低く告げられて、彼の目元が桜色に染まった。刷毛のように生え揃った睫毛を伏せて、チェズレイは静かに囁く。
    「貴方に言葉で後押しされて尚―――心底から、この髪留めを母のものとは断言できません。」
     けれどね、と艶めく唇が緩み。
    「何処の誰のものとも分からなかった、誰のものでもないこのバレッタは―――今日この時をもって。モクマさんがてずから私を飾ってくれた、この世に二つとない特別なものになりましたよ。」
    「……、」
    「そんな相棒殿の心遣いに免じて…信じてみましょうかねェ。―――奇跡、とやらを。」
    「―――チェズレイ……、」
     軽く目を見開いた後。
     そんな相棒の姿を愛情深く見下ろして、モクマはニッコリと笑いかけた。
    「いや〜〜〜おじさんね、昔古道具屋のお手伝いしてた事があって〜〜〜。……そういう髪留めも、使いはした事なくともお手入れはしたことあるのね。」
     フ、と目を細めて笑いかける。相棒の心の奥底の、最も繊細な襞を優しく愛撫するように。
     「今度さ、改めて俺に磨かせてよ。その時またたくさん話してくれる?“お姫様”の話…。」
    「――――…、……」
     青年はうっとりと目を閉じて、番の手のひらの温度に甘えながら囁いた。
    「お心のままに――――…。」
     
     
     二人の心と精神が限りなく溶け合い、寄り添い合う。その交歓を何もいわず古い野花の髪飾りが繋いでいる。
     窓からは、暖かな日差しが静かに降り注いでいた。


    《完》
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺☺💞🌼🌼🌼👏👏👏👏👏👏☺☺☺😭😭☺☺☺☺☺☺😭😭😭🙏🙏🙏☺☺☺💞🌼😍😍😍😍😍🙏🙏🙏🙏🙏😭😭😭👏👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    nuru_nurukinoko

    DOODLE彼と彼女のバレッタと。
    彼と彼女のバレッタと。「モクマさん。そちらの飾り棚の上に置いてある髪留めを取って頂けますか?」
    「うん?」
     揃って休日のとある日の朝食後。食器をシンクに持って行った帰りがけ、相棒にそう声をかけられてモクマはきょとりと首を巡らせた。国から国へ、裏社会の統一のために渡り歩く二人の棲家は物でごった返すということがない。主にチェズレイがチョイスするシックな家具が殺風景にならない程度に置かれ、そこに互いの日常で携わる小物―――ニンジャジャンショーのチラシやら、季節の花々を生ける花瓶やらが溶け合って寂しさを感じさせない彩りになっていくのが常であった。
     そんな風景の一部―――日当たりの良い窓際に設置された飾り棚の上。よくよく見れば、見慣れないものがぽつんと置かれている。近寄って手に取り見れば、それは連なる野花が彫り込まれた髪留めであった。生まれ故郷のマイカではもっぱら簪が使われるものであったし、自身は雑に髪紐で括っていた記憶しかないモクマにとっては金具のついた西洋風のそれは随分と馴染みのないものである。おっかなびっくり、手のひらの上にそっと持ち上げて、万が一にも壊さないように相棒に手渡した。
    7549

    nuru_nurukinoko

    DOODLE南国イチャイチャモクチェズ
    南国イチャイチャモクチェズ ブ……ン……
     耳障りにならない程度の駆動音をたてて空調設備が働く。湿度と温度を完璧に調整するそれらの働きによって建物の外とは別世界かの如く快適な環境が保たれる中、カタカタとキーボードを打つ音が伴奏に加わった。時折入れ替わる様にして、タブレットのタップ音、書面を捲る音、ペンが紙面を引っ掻く音がアンサンブルを奏でていく。
    (―――ハーモニーが取れている、とはとても言えないが。まったく…ワーグナーでもここまでは掛かるまい。)
     第一、観客の居ないオペラなど噴飯物だ。そう呟くのは、部屋の最奥に設置された広いデスクに座して黙々と事務作業を続ける青年であった。プラチナブロンドの長髪を首の後ろでひとつに括り、滑らかな白磁の肌を持つ絶世の美貌の彼は―――しかし常には無いほどに分かりやすく疲労の影を顔に滲ませている。チェズレイ・ニコルズ。仮面の詐欺師の二つ名を恣に裏社会を破竹の勢いで己の支配下に置きつつあるその様に、同業者からは畏怖の眼で見られがちな青年は而して人智を超えた異能の持ち主では決して無い。会得した変装や催眠術等と同じく、血の滲むような努力と研鑽のもとに成り立っているのだ。そう、丁度新天地の征服に係る雑務で忙殺されている今現在の姿そのままに。
    5413