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    nuru_nurukinoko

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    熱砂の国を支配するモクチェズ【3】

    熱砂の国を支配するモクチェズ【3】***

    「ふ〜〜〜……。」
     ―――先の宣告から数十分後―――。空調の効いた広いリビングのソファで、モクマはチェズレイから与えられた指令を厳守するべくじっと『待ち』の姿勢で相棒の入浴完了に備えていた。勿論その身は―――モクマ・エンドーという男にしては珍しく―――多めの頭髪の隙間から臍の中、果ては金玉の裏っ側まで丹念に汚れの除去と洗浄が成されている。バスローブで簡素に包んだだけの肉体の内側では、これから起こるであろう出来事に期待して心臓がドクドクと跳ねている。
    (――――て、初めてのガキじゃないんだから……。)
     ふと―――そんな己の滑稽さに客観的に気付いて、モクマはガリガリ頭を掻いて背凭れに寄りかかる。泊まるだけの空間に何故そこまで豪華さが必要なのか―――四人も五人も広々と腰掛けられそうなアイボリーのソファは軋む男ひとつ立てずに鋼の身体を受け止めた。
    (…ちゅーてもなぁ。ここンとこ本当にバタバタしてて…この国への侵攻も急場だったから…休みなんぞ無かったし。)
     世界征服が夢―――そう偽悪的に言って憚らない相棒の真の目的が、裏社会の不条理を廃し世に安定を齎す為であることを、モクマはとっくに知っている。だからこそ、それに協力は惜しまないし否やを言うつもりもない。理解はあるが、基本的に裏社会の機微に関してはことそれの上層で生き続けてきたチェズレイの方が詳しいし、組織の運営も次の征服地域も彼が決定する事の方が圧倒的に多く―――故に、こういった想定外の繁忙もまま起こる事ではあった。
     しかし。
    (――――一ヶ月と五日。あいつとねんごろかになって以降で…こんなに禁欲したのは、今回が初めてだもんなあ…。)
     そう。チェズレイと身も心も結ばれて、愛欲を注ぎ合う間柄になって以降では―――今回のブランクは想像以上に長かったのである。
     チラ、と見下ろす視線の先、今は大人しくバスローブの合わせの奥で治って見える股間は―――正直なところ。
    (――――期待と興奮がデカすぎて、気ぃ抜くと今にも勃っちまいそう……。……落ち着け、え〜と…、)
     算額の九九でも唱えて気を散らすか、とソワソワ彷徨わせていたモクマの視線に―――ローテーブルの上に置かれたペットボトルが映った。
     先程帰宅時、チェズレイが喉を湿らせる為に煽ったミネラルウォーター。未だ九割ほど残っているそれに、誘蛾灯のように惹きつけられる。
    「――――……、」
     ゴク、と男の喉仏が大きく上下した。


    「――――、―――……。」
     ―――と、空間に微かな扉の開閉音が響き。控えめな足音に続いて、芳しく華やかな気配に空気がサッと支配された。
    「――チェズレイ…。」
    「モクマさん…。」
     任務の最中にあっても優美な気配を放っていた青年は、先の言葉通りに全身隅々まで穢れを雪ぎ―――湯上がりの今に於いては輝かんばかりの美しさげ顕現していた。軽く頭を振るだけで黄金の髪がしゃらしゃらと広がって靡き、頬や首筋には血色が戻り、手指や足先の爪はぴかぴかに光っている。血肉の通った美術品の様な青年は、薄い唇を笑ませて悪戯っぽく囁いた。
    「フフ…。…随分とお待たせしてしまったようですねェ。」
     言いながらふわりと軽やかな足取りで隣に座り込んできた相棒に、モクマは気を抜くとみっともなく欲深に求めそうな己を戒めながら軽い調子で返した。
    「いや〜〜〜お前さんは綺麗好きだからねえ。烏の行水の俺とは大違いで。」
     頭を掻いて滑稽に振る舞う空気を保ちつつも、三白眼の瞳が物欲しそうにチラチラと番のバスローブの胸元や脚を行き来しているのに相手は気付いているだろう。しかし、敢えてそれに触れずに―――チェズレイはゆったりとした仕草で脚を組み替えながら、白い指先ですっと男の腿を撫でた。
    「いけない人だ…。きちんと隅々まで洗ったのですか、烏さん?」
     触れるか触れないか、ギリギリの縁を指先で擽られて、モクマの腰奥でマグマの様な熱が噴き出しそうになる。
    「……連勤明けの相棒のお願い無視するほど、俺も人が悪い訳じゃないからね。」
     そう返しながら、彼の方からも青年の腰に腕を回した。そんな相棒の求めを甘受しながら、チェズレイは嫣然と微笑む。
    「それは重畳。――――ですが。」
     柔らかな色を湛えていたアメシストの瞳がスッと鋭利に尖って、男の眼前に透明な物体が突きつけられた。
    「――――?うん?」
     ぱちぱちと瞬く垂れ目に映るのは、ペットボトルである。―――先程までテーブルの上に置かれていた、―――チェズレイの飲みかけの――――。
    「あ、まだ、喉乾いとる?湯上がりに水飲むの気持ちいいもんね〜。おじさんも風呂上がりにクイッとするのが大好きで――――」
    「誤魔化しは結構。」
     へらへらと口元を緩めながら喋るモクマの言葉を遮って、青年はピシャリと告げた。
    「――――このミネラルウォーター。……中身が少し減っていますね。」
    「そぉ?気のせいじゃない?」
     視線を斜め上に向けて白を切る男の腿を右手で撫ぜながら、左手で持ったペットボトルをゆらしてチェズレイは囁く。
    「喉乾とったし、思ってたより飲んでたって事でしょ?透明だし量も錯覚し易い。」
    「フ――――それで逃れられるとでも?まァ、錯覚と仰る点を譲った所で。……このペットボトルの蓋ね…。」
     わざと緩く閉めておいたんです。
     チェズレイは変温動物のような光沢を放つ瞳で下から男を眺め上げる。
    「ところが――――今は固く締まっている…。視覚だけならともかく、触覚面でも施しておいた細工に変化があったとなれば、違えようもない。」

    「モクマさん。貴方――――私のミネラルウォーターの飲みさしに口を付けましたね?」

     青年の言葉は事実であった。否定し切るには分が悪い流れに諦めて、男は視線を下げて息を吐く。
    「あ〜〜〜まぁ…喉乾いてたもんで…。」
    「…………。」
    「ご、ごめんて。お前とはもう色々しとるからさ〜、回し飲みくらいで怒るとは思わんくて…」
    「フ、……フフフ、フフフフ…。喉が乾いて、ねェ。」
     眉尻を下げて、片腹痛いといった表情を作りチェズレイはボトルをトン、とテーブルに戻した。
     ―――次の瞬間。
     シュル、と腿を撫でていた掌がモクマのバスローブの裾から入り込み、体の中心を捉える。
    「――――わッ……!ちょ、チェズレイ…‼︎‼︎」
     慌てて目を剥くモクマの――――明確に充実している太い肉竿を指で握って、青年は頬を紅潮させ舌先で唇を舐め上げた。
    「単なる喉の渇きだけで、私の飲みかけのボトルを手を伸ばしたと?こんなに身体の猛りを堪えていらっしゃるのに…」
     細く長い五指がするすると表皮を軽く握って撫ぜる、そんな簡素な動きですら感じ入る程に男の肉体は臨戦体勢に入りつつあった。
    「――――ッ、く……、」
     眉間に皺を寄せて打ち寄せる劣情―――それが唆すままに眼前の肢体を押し倒し貪りたくなる衝動を抑えるモクマに身を寄せ、吐息が触れ合わんばかりの距離に顔を近づけながらチェズレイは囁く。
    「勝手に私が得るべきであった水分を奪った仕置きは受けて頂きませんと。―――そうですねェ…まずは―――ピチャ、と湿った音を立て、男の耳元に移動させた唇で告げる。
    「貴方の身体から滲み、湧き出し、溢れる水分を―――堪能させて頂きますねェ…。」
     ふふ、と視線を合わせて蠱惑的に微笑む番に、男は観念して小さな黒曜の瞳から明白な肉欲を解放した。


    【続】
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    nuru_nurukinoko

    DOODLE彼と彼女のバレッタと。
    彼と彼女のバレッタと。「モクマさん。そちらの飾り棚の上に置いてある髪留めを取って頂けますか?」
    「うん?」
     揃って休日のとある日の朝食後。食器をシンクに持って行った帰りがけ、相棒にそう声をかけられてモクマはきょとりと首を巡らせた。国から国へ、裏社会の統一のために渡り歩く二人の棲家は物でごった返すということがない。主にチェズレイがチョイスするシックな家具が殺風景にならない程度に置かれ、そこに互いの日常で携わる小物―――ニンジャジャンショーのチラシやら、季節の花々を生ける花瓶やらが溶け合って寂しさを感じさせない彩りになっていくのが常であった。
     そんな風景の一部―――日当たりの良い窓際に設置された飾り棚の上。よくよく見れば、見慣れないものがぽつんと置かれている。近寄って手に取り見れば、それは連なる野花が彫り込まれた髪留めであった。生まれ故郷のマイカではもっぱら簪が使われるものであったし、自身は雑に髪紐で括っていた記憶しかないモクマにとっては金具のついた西洋風のそれは随分と馴染みのないものである。おっかなびっくり、手のひらの上にそっと持ち上げて、万が一にも壊さないように相棒に手渡した。
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    nuru_nurukinoko

    DOODLE南国イチャイチャモクチェズ
    南国イチャイチャモクチェズ ブ……ン……
     耳障りにならない程度の駆動音をたてて空調設備が働く。湿度と温度を完璧に調整するそれらの働きによって建物の外とは別世界かの如く快適な環境が保たれる中、カタカタとキーボードを打つ音が伴奏に加わった。時折入れ替わる様にして、タブレットのタップ音、書面を捲る音、ペンが紙面を引っ掻く音がアンサンブルを奏でていく。
    (―――ハーモニーが取れている、とはとても言えないが。まったく…ワーグナーでもここまでは掛かるまい。)
     第一、観客の居ないオペラなど噴飯物だ。そう呟くのは、部屋の最奥に設置された広いデスクに座して黙々と事務作業を続ける青年であった。プラチナブロンドの長髪を首の後ろでひとつに括り、滑らかな白磁の肌を持つ絶世の美貌の彼は―――しかし常には無いほどに分かりやすく疲労の影を顔に滲ませている。チェズレイ・ニコルズ。仮面の詐欺師の二つ名を恣に裏社会を破竹の勢いで己の支配下に置きつつあるその様に、同業者からは畏怖の眼で見られがちな青年は而して人智を超えた異能の持ち主では決して無い。会得した変装や催眠術等と同じく、血の滲むような努力と研鑽のもとに成り立っているのだ。そう、丁度新天地の征服に係る雑務で忙殺されている今現在の姿そのままに。
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