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    310mitotim

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    パプリカさんところのハロウィンイラストが性癖にぶっ刺さったので、ハロウィンパロ小説(かきかけ)

    ハンサムさん→教会勤めの聖職者
    クチナシさん→???

     最近、ペットを飼い始めた。
     私がお勤めをしている教会は、ペットを連れて礼拝にくることを禁止している。そして私は聖職者としてその教会の居住スペースに住み込んでいるため、ペットの存在はあくまでも秘密裏だ。
     まあペットと言っても半野良みたいなもので、腹が減ったらふらふらっと帰ってきて、気が済んだらどこかに行ってしまう。それに抜け毛や換毛が気になるような生き物でもないので、信者の皆様にペット飼育が露見する可能性は低いと思う。
     じゃあ私が何を飼っているのかというと……なんと言うか、まあ、非常に答えづらい。
    「おーい、牛乳ねぇのー?」
     一人で住むことしか想定されていない狭い居住スペースの台所から、我が物顔の喧しい声が響き渡る。
     ひとりでに眉が寄っていくのを感じた。
    「五月蝿い。冷や飯食いの分際ででかい声を出すな」
    「無いなら無いで別にいいけどよ。代わりのもんはお前がくれんの? それとも外で適当に……」
    「……今出すから黙って待ってろ」
     渋々鍵付きの棚を開け、信者の方から寄付していただいた牛乳を取り出した。
     心のこもったご寄付をこんなものにくれてやらなければならないのは胸糞が悪い。しかし、やらなければ何をするか分からない。
     イライラしながら机に牛乳の容器を置いたら、思いの外力が入ってしまっていたのか、ドン! と不機嫌めいた音を立てた。
    「おーこわ。嫌なら別に無理しなくてもいいんだぜ?」
     これ見よがしにコウモリに似た鋭利な八重歯を見せつけながら、それはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべた。
    「ごちゃごちゃ喋るな、耳が腐る」
    「俺はお前の守護天使様だぜ? そう邪険に扱うなよ」
    「何が守護天使だ、卑しい吸血鬼風情が。妄言も大概にしろ。滅さず飼ってやってるだけありがたいと思え」
    「おいおい、言葉は正しく使うべきじゃないか? 滅さないんじゃなくて、滅せないんだろ? なぁ、敬虔なる聖職者様?」
    「……腹が膨れたらとっとと失せろ、悪魔の手先め」
     吸血鬼はケラケラと笑いながら、くれてやった牛乳を美味そうにあおった。



     一週間ほど前の夜のことだった。
     お勤めが終わった礼拝堂の掃除をしていたら、いつの間にか見知らぬ人影が最前列の椅子に腰掛けていた。
     ロマンスグレーの髪に、よく整った身なりをしている、やや猫背気味で、およそ私と同じか少し年上くらいの、四、五十代の男だった。
     少し驚きながら『懺悔ですか』と尋ねたら、それはまるで親しい旧友に声をかけるように、『よぉ、久しぶり。元気にしてたか』と答えた。
     再び驚いて顔を見たが、いくら記憶をたどっても覚えのない人物だった。
     人違いでは……と答えたら、男は途端に不機嫌そうに顔を顰めた。
    『オメーの前職で世話になったモンだよ』
    『!』
     その一言で、すぐにそいつが人外の悪魔だと分かった。
     咄嗟に聖水を投げつけて十字架を掲げたが、それは微動だにせずケロリとして言い放った。
    『信仰してる宗教が違ぇんだわ。悪いがそれは効かねぇよ、元エクソシストさん』
    『……は?』
    『俺の信仰は追々語るとして……まあ、とりあえず時間がない。ちょっと多めにもらうぞ』
    『おい、意味が……』
     途端に目の前の男の姿が煙のように消えたかと思うと、次の瞬間背後から首根っこを鷲掴みにされた。
    『痛くねぇから安心しろよ』
     チクリと細い針が刺さったような痛みが首筋に走り、唐突に強い眠気が襲ってきた。
    『ま、しばらく寝ててくれ。また来るよ』
     何が何やら分からぬまま、どこか心地よさすら感じる眠気に抗えず、礼拝堂の床で意識を手放してしまったことだけは覚えていた。


     次に目覚めたのは礼拝堂の硬い床ではなく、居住スペースのベッドの上だった。
     グルグルと回転するような目眩を覚えながら身体を起こすと、当たり前のように例の男が椅子に腰掛けてこちらを眺めていた。
    『お前っ……!』
    『元気そうでなによりだ。割と遠慮なくもらったんだが……やっぱり無駄に頑丈だな、オメーは』
     男は何かを懐かしむように目を細めて苦笑した。
    『お前、悪魔か』
    『惜しい。吸血鬼だよ』
    『……』
     思わず台所に目を走らせると、男は声を上げて嗤った。
    『おっと、俺にはニンニクは効かねぇよ? 無駄なことはやめときな。言ったろ、信仰が違うんだって』
    『五月蝿い、嗤うな! 何が吸血鬼だ、サタンの手先め!』
     小馬鹿にするような男の態度に無性に腹が立って、枕元に置いてあった聖書で思い切り殴り飛ばした。すると男はギャッ! と悲鳴をあげて椅子から吹っ飛び、呆気なく床に倒れ込んだ。
    『いってぇ! 何すんだよ!?』
    『なんだ、聖書は効くのか? それとも単に殴れば効くだけか? 試せば分かるか』
     そのままベッドから下りて馬乗りになり、思い切り拳を振り上げた。
     しかし男は再び煙のように消えて、呆れ顔で私の背後に立った。
    『おい止めろ、この暴力エクソシスト。殴られたら痛いに決まってるだろ』
    『そうか。じゃあ心臓を一突きにしたらどうなるんだろうな』
     立ち上がってテーブルの上に置いてあった果物ナイフを手に取ると、男はハァー、と深いため息をついた。
    『やってもいいけどよ、どうなるか分からんぜ? 飛び散った俺の血液と肉片のひとつひとつが自我を持って、手当たり次第この村の人間を襲う──なんてことになるかもしれねぇよ? ……ま、そんなことになったことがないからどうなるかは知らねぇけどさ。試してみたいならどうぞ?』
    『……何が目的だ、この腐れ外道が』
     男はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに下衆な笑みを浮かべて、機嫌良さげに答えた。
    『お前、俺を飼わねぇか? 俺は吸血鬼だ。飯は一日三食の牛乳だけでいいからお手軽だぜ? 血はたまにお前のをもらえりゃそれでいい』
    『……全く意味が分からん。ここは神聖な教会だぞ。お前のような悪鬼羅刹が存在していい場所じゃない。身の程を弁えろ』
    『おー、怖い怖い。そう構えるなって。俺ぁ夜な夜な適当な家に忍び込んで、そこら辺の人間から血をもらって回ったっていいんだぜ? ……オメーがそれを許容できればの話だけどな?』
    『……』
     男はククッと下卑た笑みをこぼした。
     男の提案は全く許容できるものではなかった。が、罪もない村の人達に危険が及ぶ可能性があるのなら、それは絶対に見過ごせない。
     はらわたが煮えくり返るような気分だったが、他に選択肢などないのも事実だった。
    『……礼拝にいらっしゃる信者の皆様には絶対に姿を見せるな。村の人には絶対に手を出すな。血を啜るなら私だけにしろ。いいな』
    『ククッ……熱烈だねぇ? 私だけにしろ、なんてな。いいねぇ。じゃあ交渉成立ってことで』
     男はクチナシと名乗り、早速牛乳を寄越せと横柄に言い放った。
     それが全ての始まりだった。
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