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    1_raru3

    ブレワシリーズ書いてます。
    感想はマシュマロに。貰えたら私がめちゃくちゃ喜びます。→ https://marshmallow-qa.com/1_raru3

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    1_raru3

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    司覚醒ネタ。強すぎた想いと見つめあう話。

    光は迷って、想いを示して 天馬司操られ事件から1ヶ月後。セカイを持つ者達はあいも変わらず日常を過ごしながら穢れの怪物達と戦う日々を過ごしていた。件の事件の被害者である天馬司も同じである。しかし、彼は悩みを抱えていた。日に日に強くなっていく怪物達。仲間を守りきれなくなってきた自分。率直にいうと、天馬司は明らかな力不足を感じていた。だが、ワンダーランズ×ショウタイムを始めとした仲間達からすると、彼が支えとなって守ってくれる、それだけで十分なのである。司自身もそれは理解している。こればかりは自分自身の問題であり、仲間に言えるようなものではなかった。司は今日も、真夜中の自分のベッドの中で悶々と悩んでいた。
    (今日の敵も強かった…今回はえむが負傷してしまった。確かにオレ達は戦っているんだ。負傷なんて当たり前だ。初めて戦う時にカイトにも忠告されたし、そんなことは解っている。だが、オレはみんなをできる限り守りたい。それがこの戦いにおけるオレの想い、願いだからだ。だからオレの力は戦うよりも守る方に寄っている。でも、恐らくこれからは守るだけじゃ護りきれない。オレだって、みんなを護るために前に出て戦わなければならないかもしれない…でも、どうやって?)
     考え込んでいるうちに、司の意識は夢の中へと落ちていった。夢の中で、どこか見覚えのある景色を見る。ワンダーランドのセカイ、いつもの練習場よりも遠く離れた、比較的静かな場所。そこに佇むセカイの雰囲気に合わないようで、パステルカラーのおかげか強い違和感は持たない、謎の祠。確実に自分の想いが生んだ場所ではないとわかる、謎の建造物。
    (あぁ、確かここは…)
     司の意識は、夢の中から回想へと旅立っていった。

     それは数ヶ月前のこと。その日はワンダショとしての練習はなく、司はなんとなくセカイに訪れ、セカイを改めて見回っていた。一人で歩いていると、いつの間にかいつもいるような場所から遠ざかってしまったらしい。その場所は音楽も遠く、建物もない静かな草原だった。その草原の真ん中、ぽつんとそのパステルカラーの祠は佇んでいた。
    「ここは…」
    「相対の祠だよ」
     謎の祠を発見し、見上げていた司に後ろから声がかけられた。司が振り返ると、そこにはKAITOが手を振って立っていた。
    「なんだ、カイトか…驚いたぞ。で、相対の祠…とは?」
    「簡潔に言うと、自分と向き合う為の場所だね。だけど…今の司くんには必要ないのだろうね。」
    「そうなのか?」
    「導かれて、というよりかは迷い込んでたまたま見つけちゃったようだしね。きっと、何かが変わらなければいけなくなったときには、ここに来ることになると思うよ。だから、今はここのことは忘れて構わない。必要な時に思い出してくれれば、ね」

     目を覚ますと、まだ真夜中らしく空は暗かった。夢と記憶を思い返す。KAITOにあくまで必要ではないと言われたからか、夢を見たこの瞬間までこの祠の存在は忘れていた。ここで思い出した、ということは今があの祠が必要なときなのだろう。確か今日はショーも練習も無い日だった筈である。
    「今日、あいつらを誘ってあの場所へと行ってみるとするか…」
     司は、予定を聞くメッセージを仲間達へと送ると、再び眠りへと落ちていった。

     司が2度目の眠りに落ちた時刻と同時刻、神代類も眠りへと落ちていた。夢なのだろうか、ふわりと意識が浮上する。目を覚ますと、類は遺跡のような場所に立っていた。
    「ここは一体…?」
     夢を見ているという自覚もあるし、自由に動くこともできる。いわゆる明晰夢というものであろう。類がきょろきょろと周りを見渡していると、見覚えのありすぎる青年…司の後ろ姿が見えた。しかし、“彼”の後ろ姿には違和感を感じる。すぐにその理由は服装であると気がついた。イエローのカーディガンを着た制服、ライトブルーを基調とした私服、白を基調としたステージ衣装、どれとも違うマントをつけ、王冠を被った服装であった。ふと、声が聞こえた。
    「お前には、覚悟があるのか?」
     声は司の声にノイズがかかったようなものだった。謎の声は畳み掛ける。
    「お前には、本当の想いを受け止める覚悟があるのか?隠されていたものを受け入れる覚悟はあるのか?」
    「それは…一体…」
     困惑する類を他所に、声はひたすらに覚悟を問う。
    「その覚悟があるのかどうか、確かめさせてもらおう。“相対の祠”で待っているぞ、類」
     その言葉と共に、青年が振り返る。青年の顔には黒い仮面が付けられていた。
     その目と合った瞬間、類は目が覚める。ふと携帯の方へと目を向けると、2件のメッセージが通知されていた。1件は司からで、仲間へのメッセージで今日空いているか、という内容であった。もうひとつは寧々から。直前のメッセージで、内容は「変な夢を見た」といった内容であった。読むと、自分と全く同じ内容であった。類は寧々へと返信を送る。
    「寧々、その夢を僕も見たよ。」
    「え、嘘、類まで見たの?えむからもさっき返信が来て、同じの見たって言ってた」
    「司くんは?何か言っていたのかい?」
    「ううん、司には送っていない。司には悪いけど、なんだか…司には言ってはいけないものだって、なんとなく思ったから。」
    「成る程ね…確かに、あの夢には司くんに似た何かが出ていた。司くんの何かに関わる以上、司くんを下手に刺激してはいけないか。」
    「まぁ…そういうこと、かな。司に何か誘われている以上
    、とりあえずしっかり寝なきゃね。類も寝なさいよ?」
    「ふふ、わかっているよ。おやすみ、寧々」
    「おやすみ」
     先程の夢の中の青年の言葉と、寧々との会話が頭の中を巡るのを何とか抑えて、類は目を閉じた。

     夜が明け、午前11時頃。司に誘われたワンダーランズ×ショウタイムの面々は、ワンダーステージにいた。3人よりもほんの少しだけ遅く集合場所にやってきた司に、寧々は問う。
    「おはよ、司。あんたが当日の真夜中に予定聞くなんて珍しいじゃん。何かあったの?」
    「急にすまなかったな。だが…どうしても一緒に行ってほしい場所がセカイにあってな。セカイに行くことになるし、人目につきにくいここを指定させてもらった。…急な願いだったが用事等は大丈夫だっただろうか?」
     全員が頷いて返事をする。では行くか、と楽曲を再生し、4人は虹色のプリズムと共にセカイへと向かった。
     セカイへと着くと、いつもとは違う、開けた草原にでた。
    「あれあれ〜?いつもと違う場所に出たね!」
    「ふむ…今更だが、到着場所はある程度指定できるのだな…」
    「司くん、目的地まで案内してもらえるかい?」
     司があぁ、と返し歩き出す。しばらく歩くと、このポップでファンシーなセカイに不釣り合いのようで、だがパステルカラーで統一されたおかげか強烈な違和感は覚えることのない、謎の祠が現れた。
    「ねぇ司、ここは…?」
    「相対の祠、というらしい。まぁオレもここの存在は真夜中に思い出したのだが」
    (っ!?)
     相対の祠。3人にもつい最近聞き覚えのある地名が司から飛び出したことと、ここが夢で謎の仮面の青年に指定された場所だと知り、3人は驚いた。
    (そーたいの祠かぁ…ここからみるとほわほわ〜っな見た目に思うんだけど、本当にここにチクチクーッな司くん?がいるのかなぁ?)
    「こんにちは、司くん、みんな。よく来たね。そろそろ祠に呼ばれてしまうのかな、とは思っていたよ。…変わる覚悟ができた、ということなのかな」
     4人が相対の祠の前で立っていると、後ろからKAITOが話しかけてきた。彼の口から飛び出た不可解な言葉。疑問を寧々が投げかけた。
    「こんにちは、カイトさん。呼ばれてしまう…というのと変わる覚悟、ってどういう意味…なの?」
    「ここは、想いの持ち主達が何か道に迷ってしまった時に、“自分”と対面して“可能性”と向き合う場所。新たな可能性が生まれる場所…といえばいいかな」
     さらに要領を得ない言葉となったKAITOの言葉に、今度は類が聞き返す。
    「“自分”と“可能性”とは…?」
    「“自分”というのは、可能性を形にした存在…と言うのが1番近しいのかな。可能性を与える存在でもあり、本当に与えるのが正しいのか見極める存在でもある。ここで言う“可能性”は君達の本来の夢への可能性じゃなくて、この穢れとの戦いにおいての“可能性”なんだよね。夢への想いは自分達の力で掴むものだからね」
    「ふむ…まったくわからん…程ではないのだが、難しい話だな。つまり…ここで新たな力が手に入る、ということで正しいのか?」
    「うーん、あっているけれど違うと言うのが正しいのかな。“自分”が“可能性”を与えるどうか見極める存在といったよね?彼等は言うなれば対象者に試練を与える。それを達成すれば可能性が目覚めるんだよ」
    「ねぇねぇ、その試練って1人じゃなきゃダメなの?」
    「うーん、その人による、かな。一人でやらなきゃいけない人もいればみんなで協力しなきゃいけない人もいるよ」
    「ねぇ、試練の対象者ってもしかしなくても司で合ってる…?」
     司がその問いに頷いて答える。
    「まぁ、だろうな。ここに来ることになったのもオレが昨晩ここを夢で見たからだしな。オレは、みんなと共にこの試練に挑戦できるのか?」
     司の問いに、KAITOは首を振る。
    「いいや、ここから先は司くん1人で行ってもらうことになる。君が向き合わないといけないことだからかね。…大丈夫かな?」
     司はKAITOからの宣告に一瞬目を見開いたが、直ぐに覚悟を決めた顔をする。
    (オレ1人で行かなければならない、のか…あいつらには迷惑をかけてしまったな。だが、オレはあいつらを護りたい。そのための力が欲しい。結果がどうあれ、あいつらにプラスになることだ。どのようなものと向き合わなければならないのかもわからないが、オレは…行こう)
    「大丈夫だ、ちょっと行ってくる。心配しなくても大丈夫だ!どのような試練が現れようとも、オレは乗り越えて見せるからな!ハーッハッハッハ!」
     司は心配をかけまいとにやりとしながら扉の前へと立った。4人は心配そうな顔をしながら、見送る。司がその扉を押すと、最も簡単にその扉は開く。司は祠の中へと入っていった。
     司を見送った4人は、祠の前で立ち尽くしていた。
    「わたし達はここで待っているだけしか出来ないのかな…」
     寧々の言葉を否定したのはKAITOだった。
    「いいや、違うよ。君達にも、司くんの試練を受けてもらわなければならないんだ」
    「え、でも試練を受けるのは司くん1人だけだって…」
    「いいや、確かに僕は司くんに『この先に行くのは君1人』と言ったけれど、『試練に挑戦するのは司くん1人』とは言っていないよ。3人には、もう一つの司くんの試練を受けてもらわなければならないんだ」
     KAITOから言われた言葉に、考え込んでいた類は口を開く。
    「確かに、そうだね。司くんの先程の言葉、覚えているかい?司くんは『この祠のことを昨晩の夢で見た』と言っていた。さて、昨晩僕達にも謎の現象が起こったよね?」
    「うーんと、えーっと、あっ!司くんみたいな男の子が出た夢!」
    「えむくん、正解。では、その司くん(仮)が言った言葉を覚えているかい?」
    「えぇと…覚悟はあるか、と相対の祠で待ってる、だっけ」
    「そうだよ、寧々。そしてカイトさんはここは試練を受ける場所だと言った。簡単に要約したけれど、合っているかい?」
    「うん、その解釈で構わないよ」
    「ここまで確認すると、あの夢と試練は関係があることは思い付ける筈だ。ここまで情報が出ているのに、僕達に試練がないなんておかしいよね?」
    「なるほど…そんなことがあったんだね。その司くん…?が何かまでは僕はわからないけど、その夢が確実に試練に関係していると僕は言えるよ。一緒に、挑戦してくれるかな?」
    「もっちろん!」
    「あんだけ覚悟問われたんだもの、逃げ出すわけにはいかないじゃん」
    「僕達だって司くんの力になりたいんだ。僕達は、その覚悟とやらに向き合う」
    「よく言ってくれたね。さぁ、みんないってらっしゃい」
     3人は扉の前へと立ち、扉を開く。振り返ると、KAITOはひらひらと手を振って見送ってた。

     司が祠の中に入ると、薄暗い石造りの建物にランプで灯りが灯された空間が広がっていた。
    「このような空間になっていたのか…」
     きょろきょろとあたりを見回していると、暗闇から突然声が聞こえてきた。
    「こんにちは、「オレ」。試練に来てくれたのだな」
    「っ、誰だ!」
     司は警戒心を顕にして声の方へと問いかける。暗闇から、「天馬司」が現れた。
    「はじめまして、「オレ」。オレは…お前の中の強い「想い」や「感情」、と思ってもらえればよいだろうか?」
     「感情」の具現化たる「天馬司」は、いつものステージ衣装の青と白の部分を反転させたような衣装を身に纏い、人懐っこい笑顔で自己紹介をした。
    「ふむ…“自分”とはそういうことか…さて「オレ」、試練とは何なのだろうか?やはり試練といったら戦うのか?」
     その問いに、「感情」はまさか!と答えた。
    「戦うなんてことはしないぞ。…というか、1対1ならば「オレ」にまず勝ち目が無いしな」
    「んなっ」
    「だってそうだろう?この穢れとの戦いにおいての力の源は想いだ。それは強くなればなるほど力も強くなる。そしてオレはそのような強い感情を具現化した存在だ。同一人物だから戦闘スタイルも同じ。これ以上は言わなくてもわかる…だろう?」
    「む、やる前から決まっていると言われると不満ではあるが、そうなのだろうな…では、オレに対しての試練とはどのようなものなのだ?」
    「それは簡単だ。オレを受け入れればいい」
    「…は?それは…どういうことだ?お前はオレが受け入れられていない何かだと言うのか?」
    「オレは「オレ」が抑え込んだ強すぎる感情やそれに纏わる記憶を抱えている。そして、先ほども言っただろう?この戦いにおける強さは想いの強さだと。まぁ、そういうことだ」
    「なるほど理解した。だが、どうしたら受け入れることができるのだろうか…?どのような感情かさえもオレは理解していないぞ」
     そんなの簡単だ、と言い「感情」は司の手を握る。
    「この状態で、「オレ」の心の準備ができたら、記憶と想いの譲渡を行う。「オレ」が受け入れられなかったら、そのまま記憶はオレの下へと帰ってきて試練は失敗、ということだ」
    「やってみなければわからない、だろうな。よろしく頼む」
     覚悟を決めた瞳を見て「感情」はニヤリと笑う。
    「そういえば、オレ達はそういう奴だったな!さぁ、いくぞ」
     2人の天馬司は目を閉じる。本体たる司の中に、遠い記憶が流れ込んできた。

     3人が祠の中へと入ると、そこは石造りの遺跡のような場所であった。3人にはその場に見覚えがあった。
    「あの夢の場所だ…!」
     そう、昨晩夢の中で仮面の青年が現れた場所であった。祠の扉が閉まった瞬間、奥の暗がりから青年が現れた。
    「お前達、ちゃんと来たんだな」
    その青年は夢で出会った通り、天馬司に瓜二つの容姿、頭に乗った青地にオレンジの宝石の王冠、黄色のマントに本人のステージ衣装の色を赤と黒を基調にしたような暗い衣装。そして何より顔に付けられた黒い仮面が全員の目を引いた。
    「えーっと…司くん?で、あっているの?」
    「あぁ、あっているぞ、えむ。正確に言うと、「オレ」が無意識的に隠していた“感情”を見せないための「仮面」と言ったところだろうか。どっちも司だと面倒くさいだろうから、オレのことは仮面で構わない」
    「え、えぇ?ちょっとまって、仮面?司は、わたし達に隠し事してたってこと?」
     困惑したような寧々の反応と声色に、仮面は苦笑して答える。
    「そうだな。まぁ無意識的ではあるのだが。それを知っているのはオレと「感情」だけだ。どんなものを隠していたのかは…オレの試練を突破して「感情」に聞いてもらうほうが早いかもな」
    「成る程ね。さて、ここからが君にとっても本題だと思うのだけれど、君が僕達に課す試練とはどのようなものなんだい?」
     類の核心を突く問いかけに、仮面は目を細めて答える。
    「オレと戦い、勝つことだ。先程言った通り、オレは自分勝手な「オレ」の心を隠すための仮面だ。オレと戦って勝つことで、「オレ」がお前達に対して感情を真の意味で曝け出してもいいのかを試す。オレと戦い覚悟を示し、心を預けるに値するのか示してみせろ」
     そう言い、威嚇するように旗槍を召喚して穂先を3人へと向ける。
    「ひぇぇっ!仮面くん?ピリピリしてるよぉ…どうしても戦わなきゃいけないの?」
    「オレと戦わなければこの試練を放棄したと見なすぞ。たしかに、この試練は「オレ」本人の試練とは関係ない事だがこれは「オレ」が変わることに必要な試練でもある。ここまで言えば受けてくれるよな?」
     その言葉を聞いた寧々は、覚悟を決めた顔で杖を呼び出す。衣装も変わり、臨戦態勢となった。
    「ふぅん?そこまであいつにとって大切な試練になるんだったら、わたし達はやるしかないよね?」
    「まったく、寧々に美味しいところを取られてしまったようだね。司くんが成長するきっかけとなるのであれば、僕も挑戦しようじゃないか!」
    「…!そうだよ!あたしだっていっつも支えてくれる司くんのお手伝いをしたいもん!この試練、突破してみせるよ!」
     寧々の言葉に発破をかけられた2人も、臨戦態勢となった。仮面は笑う。
    「ッハハ、流石「オレ」の大切な仲間達だ!そうこなくてはな!さぁ、試練開始だ!」
     仮面が旗を掲げると、旗は黒く光り出した。すると、ぬいぐるみの形をした黒い影が現れた。旗を振り下ろすと、影達は一斉に襲いかかった。影の数自体は司が使役する数よりは少ないが、一体一体の強さは本来のぬいぐるみ以上だと3人は感じる。
    「えむ!わたしと類でできる限り影の対処をする!えむはつか…仮面本人の方お願い!」
    「はーいっ!いっくよー?…とりゃーっ!」
     えむの蹴りは仮面の体にクリーンヒットした…と思われた。が、その攻撃は当たる前に武器によって防がれていた。
    「そんなぁ!」
    「この程度を当てられると思われるとは、オレも舐められたものだな!もう少し本気でぶつかってこい、えむ!」
    「むむむーっ!あたし、もーっと頑張ってみせる!」
     仮面に乗せられてえむのやる気がどんどん上昇していく。仮面とえむの戦いを邪魔されないよう、寧々と類は影を相手取っていた。影達の攻撃は重く激しく、2人で押しとどめるので精一杯であった。
    「ちょっ…強い!『木の根よ、足止めして!』」
     寧々の魔法に応じて、地面から現れた木の根が数体の影に絡み付く。類がすぐさまその影を撃ち抜くが、そこまでダメージは負っていないようであった。
    「くっ…この子達も流石にそう簡単にはいかないか。『獅子舞ロボ、水流全力噴射!』」
    「ガブガブー!」
     類は獅子舞ロボを呼び出して、援護をさせる。ロボから噴出された強力な水流は影を吹き飛ばす。
    「よし、結構なダメージが与えられたかな。厳しいだろうけれど、このまま着実に数を減らしていこう!」

     司は、「感情」と共に深い記憶の海へと落ちていた。そのまま、とある記憶へと辿り着く。それは、あの強力な結晶と戦った大聖堂のセカイの記憶であった。
    「この場所は…」
    「覚えているか?オレ達が絶体絶命の危機に陥った時の記憶だ」
    「忘れるわけがないだろう!だが、あれは確か…オレが気絶した後にあいつが自滅したはずでは…」
    「そうではないとしたら?その説明が記憶のないお前への優しい嘘だとしたら?」
    「なっ…!?」
     司の言葉を遮る「感情」の言葉に、司の言葉が詰まる。
    「これは辛い記憶だろうが、「オレ」にとっては大切な記憶でもある。しっかりと目に焼き付けて、できれば受け入れてほしい」
     そう言って、記憶は再生された。場面は4人が倒れ、ゆらゆらと結晶が近づいてくるところ。司の意識が途切れる直前である。司の中に、声が響いた。

    『オレ達はこのままこいつにやられてしまうのか?』
    『それは嫌だ。オレ達はまだまだ前へ進む。』
    『大好きで大切なこの場所を守りたい』
    『オレがあんなことをして、一度崩れかけて、でもみんなが戻ってくれたことでまた立ち上がって。あんなことをしたオレを受け入れてくれて。』
    『もう二度とあいつらを傷つけさせたりなんてしない。させない。あいつらが崩れてしまったらと思うと、怖くて怖くて仕方ない』
    『あいつらを傷つけているあいつが許せない。オレの居場所を崩そうとするあいつを絶対に許さない。』
    『あんな奴からこの場所を守りたい、守ってみせる!』

     覚えている。これは、意識が途切れる直前に考えていたこと。司は、敵が憎い、みんなを守りたいと全力で想った。その時であった。司の身体はゆらりと立ち上がる。既に、司本人の意識なんてないのに。
    「ここからは、オレが体を使っていた。「オレ」は意識を閉ざしていたから、ここから先の記憶がないのは当然だ」
     突然の不思議現象に驚く司に、「感情」は答える。司は問う。
    「どうしてお前が出てきたんだ?」
    「オレを形作る想いが爆発したからだな。「オレ」の意識が切れたことによって、いてもたってもいられずにあいつらを連れて「仮面」を押し退けて飛び出した」
    「…?あいつら?」
    「ここから先を見ればわかるぞ」

    「許さない」
     その言葉をきっかけとして、旗が怒るように赤く輝きだす。すると、ぬいぐるみ達が呼び出されてきた。だが、彼らの様子がおかしい。いつもは泣いて笑って時には喧嘩して、それでも「誰かの笑顔のため」に動く彼らが、「目の前の敵を排除する」ただそれだけの為の存在となっていた。彼らを見たえむが怯え、不穏な空気を読み取った寧々と類の表情は強張った。

    「オレの激情はあいつらを怖がらせてしまったのか…」
    「そうだな。今見返せばそうだ。しかし、あの時のオレはその激情に塗れて目の前の存在を排除するためだけに動いていたからな…」
    「なぁ、この中で咲希のうさぎのぬいぐるみがいないような気がするのだが。あいつは、オレが呼び出すと真っ先に来てくれるのだが…」
    「あいつには拒否されたぞ。あいつはぬいぐるみの中でも強い想いが込められている。「オレ」の異常と呼び出したのが「オレ」でないことに直感的に気がついたのだろう」

     皆の視線を一身に集める中、司は叫ぶ。
    「許さない、お前を絶対に許さない!オレの居場所を、大切なワンダーランズ×ショウタイムを、傷つけ、崩して、破壊しようとするお前を許さない!」
     司の激情は、この空間を支配した。明らかに相手に対してどうしようもない絶望を与えようとするその姿に、3人は固まった。司が旗を振り下ろす。「感情」によっていつも以上に強化されたぬいぐるみ達はひたすらに攻撃をする。が、急所は狙わず、消滅のためのトリガーは引かせない。相手をいたぶる為だけにひたすら攻撃を続けていた。
    「お前を、絶望さえも生温いような目に遭わせる。お前にそのような感情があるかどうかはわからんがな。だがお前は、オレの大切なものを傷つけた。当然の報いだ。」
     淡々とした口調、しかし激情にまみれた言葉はただ動けない3人の胸に突き刺さる。えむと寧々は怯え、類も唖然としていた。
    「司くん!もうやめてくれ!これ以上は無意味だ!早く止めを…」
     酷い光景に耐え切れなくなった類の呼びかけに反応して、司が類の方を向く。しかし、司の激情は収まることもなく。
    「何故だ、類?あいつは、お前達を傷つけたんだ。こんなものじゃあ、まだ足りない。お前が満足していても、オレが満足していない。オレの今の苦しみを、あいつに。こんなもので終わると思うな」
     当然とばかりに返された言葉。言葉が届かない事に、類の表情は悔しさを滲ませていた。

    「オレは、結構酷いことをしていたのだな」
    「あぁ、だが当然の報いだ。この行為に対してオレは、反省も後悔もしていないぞ。…さて、「オレ」。そろそろ、オレを形作る「想い」を、「感情」を理解しただろうか?」
    「…」
     司は答えない。「彼」の正体。形作る「想い」。それを理解はしていた。だが、この記憶を最後までしっかりと目に焼き付けようと、じっと見つめていた。

     司がひたすら追い討ちをかける中、KAITOと3人が話している。4人の会話は序盤以外殆ど司の耳に入ってはいなかった。えむと寧々が先にワンダーランドのセカイへと帰っていく。類が行く末を見つめていた。
     司は気が済んだのだろうか。ぬいぐるみは結晶を拘束していく。旗を持ち直し、駆ける。跳ぶ。旗槍の先を、寸分の狂いなく穢れの結晶のコアへと、急所へと目掛けて振り下ろした。
    「終わりだ。消えろ」
     司は呟く。結晶は溶けて消えていく。と同時に、司の意識は急速に遠のいていった。類が駆け寄ってくる姿を見ながら、司の意識は切れた。

    「さて、これでこの記憶は終了なわけだが。どうだ?オレのことがわかったか?」
     司は、眉を下げて笑いながら答える。
    「あぁ。お前は『ワンダーランズ×ショウタイムをはじめとした仲間達のことが大切で大切で仕方なくて守りたいと強く想っているオレ』だ。…だが、何故お前がいるのかわからない。仲間が大切だと思う気持ち、それはオレも強く持っているからな」
     理解できないという様子の司に対し、「感情」はしっかりと目を見て言う。
    「それだけ想いが強すぎたんだ。それこそ、「守る」ことに寄った戦闘スタイルになるくらいには。そして、守れなかった事に対しての強い怒りや強い「守りたい」という想いから、過剰に相手を害してしまうくらいには。その守りたいと思う気持ちを暴走しない程度に収めたものを「オレ」は持っている。逆に言うと、暴走する分をオレという形として封印した訳だな。だが、あの日。守るために身を投じてその結果敵に操られて彰人達と戦う羽目になった日。あの日から「オレ」は明確に『仲間を守るために相手を倒す』ということを考え始めた。違うか?」
    「いいや、違わないぞ」
    「だからこそオレという試練が現れた。この強すぎる激情を受け入れ、仲間を守るために刃とすることができるのか試す試練が。「オレ」の意識を保ちながら、オレが出てこれるほどの心の強さを持ち合わせているのか。オレという激情を完璧に制御し、時には全力で解放して、仲間を傷つけず守るための力とできるのかどうか。…この記憶を見てもなおそうやってオレと向き合うことができるということは、そういうことなのだろうがな」
     そう言い、「感情」は笑った。
    「あぁ。オレはこの激情を受け入れる。オレは、仲間を守るために、全力でこの力を振るおう。絶対に間違えない」
    「…試練、合格だ。おめでとう、「オレ」。…さて、もう少し、ここで待たないか?」
     突然の「感情」からの提案に、司は目を丸くする。
    「…は?待つも何も、オレはあいつらを待たせているだろう?」
    「何も間違ってはいないぞ?あいつらも試練を受けているからな。…まぁ、3人が帰ってきたら、その想いを話してみるのはどうだ?きっと、自然に出すことができるはずだぞ」
    「…?あぁ…?」
     司は、困惑しながらも「感情」と共に待ちぼうけの時間を過ごすことになった。

    「っ!」
     一方、仮面と戦っていたえむ、寧々、類の3人。仮面の強力な攻撃に、苦戦を強いられていた。仮面の槍の攻撃が、えむと狙う。
    「えむ、危ない!」
    「僕に任せて!」
     類が呼び出したワイヤーでえむを捕まえ、類達の方へ引き込む。
    「うわわわっ!」
    「よし…!『樹よ、わたし達を守って!』」
     えむが引き込まれると同時に、樹が3人を覆い、盾となった。寧々がえむを軽く治療する。
    「えへへっ、ありがとう寧々ちゃん!よーし、私も寧々ちゃん達の力にならなくっちゃね!寧々ちゃん、類くん、仮面くん達を笑顔にしたいって思ってる?」
    「当たり前でしょ」
    「フフ、それを僕達に聞くのかい?」
     えむの問いに、2人は即答した。えむは目を輝かせ、2人の手を握る。
    「よーしっ、それじゃあその想いを力に変えちゃうよ!ガンガンいっちゃおう!」
     えむは2人の想いをトリガーとして、能力を発動させた。その想いは魔力に、力に。湧き上がる誰かのための想いは、彼等を強くさせる。と同時に、影や仮面によって盾は破られた。
    「えーいっ!」
     彼女の能力は、自分自身を強化することはできない。だが、改めて2人の想いに触れたえむの力は、先程以上に膨れ上がっていた。仮面と1人で戦えるほどには。それは、寧々と類も同じ。撃ち出される弾は、放たれた魔法弾は、明確に先ほど以上の力で影を撃ち抜いていった。
     3人の攻撃に、ぴしりぴしりと、彼がつけた「仮面」にヒビが入っていく。司の意地っ張りで強がりな心が動かされていく。戦っているうちに少しずつ欠けて、割れていき、遂には仮面は完全に割れ、その素顔が露わになった。
    「心を動かし、この仮面を破るとは。さすがだな」
     「仮面」は割れ、司と瓜二つのその顔で仮面は笑っていた。どこか晴れやかで、けれどその闘志は瞳から消えず。どんなに激しい戦闘でも落ちない王冠とマントは、王者の風格を示していた。
    「えーっと、これで試練はクリア、でいいのかなぁ?」
    「何を言っているんだ、ここからが本番だぞ。誰が仮面を壊したら終わりだと言った?意地っ張りな男の抵抗心はまだ残っている。ちゃんと、この心を昇華させてみせろ」
     そう言い、仮面はマントを脱ぎ捨て身軽な姿へとなる。その手に握る武器は旗槍から片手剣へと変わり、その鋒を3人へと向けていた。いつしか影達は消え、えむ達と仮面の3体1の構図となる。
    「あぁもうほんと、司ってば意地っ張りなんだから!さっさと素直になって欲しいんだけど!」
    「いつものビシーッ!ギュンギューン!な司くんだって大好きだけど、司くんのきゅーっ、しゅーんなところも見せて欲しいよ!そのためならあたし、頑張るから!」
    「君が思っているよりも結構僕達は司くんを大事にしているんだよ!早く僕達に甘えてもらうことを覚えてもらわないとねぇ!」
     仮面は今まで以上の速さで3人へと突っ込んでくる。仮面の剣とえむの蹴りと類の銃剣が打ち合い、えむと類を寧々の魔法が支援する。人数差をもろとももせずに仮面は3人と渡り合う。が、その決着は意外とすぐに訪れた。
     カン、という高い音と共に仮面の剣が弾かれる。仮面の手から離れていった剣は、遠くへと転がっていった。仮面は両手を上げる。
    「…降参だ。おめでとう。試練、合格だ。オレはこれ以上何もしない。武装を解除してもいいぞ」
     その言葉を聞き、3人は武装を解除する。寧々は戦いの疲れからかへたりこんだ。
    「つ、疲れた…あんた、頑固すぎ…」
    「ねねちゃーん!大丈夫?」
     えむが寧々に駆け寄り話しているのを、仮面は愛しい目で見つめていた。類は、そんな光景を眺めていた。
    (やっぱり君も、司くんの一部なんだね)
     さて、と言い仮面は先程自ら投げ捨てたマントを拾い、再び羽織る。
    「オレの試練を突破した以上、オレの仕事はここまでだ。ここに、お前達に合わせたいモノを連れてくる。ではな」
     背を向き、去っていく姿に、えむはねぇ、と声を掛けた。
    「ねぇ、仮面くんともまた…会えるの?」
     仮面は、振り返り笑った。
    「オレにまた会いたいとは、えむらしいな!大丈夫だ。オレは「天馬司」の中の一部分。「オレ」と関わっていたらまたいつか会える。また、このような形で会えたら今度は話でもしよう」
     そう言い、今度こそ仮面は去っていった。すると、入れ替わりでまた仮面とも違う衣装を着た「天馬司」…「感情」が現れた。驚く3人をよそに、「感情」は口を開く。
    「おぉ、お前達!ちゃんと仮面の試練を突破できたのだな!信じていたぞ!オレは…そうだな、天馬司の中の強い「感情」が具現化した存在、と言っておこうか。「感情」とでも呼んでくれ。…あぁ、オレからの試練は無いぞ。オレは司本人の担当だからな」
     突然の展開に、寧々は目を白黒させていた。えむは目を輝かせ、類は面白そうににやついている。
    「感情くん!もしかして仮面くんが言ってたのってきみのこと?」
    「あぁ、そうだぞ!…そういえばお前達には「はじめまして」ではなく「久しぶり」と言うべきかもな」
     寧々はその言葉にきょとんとする。
    「何言ってんの?あんたとわたし達ってこう言う形でははじめましてだと思うんだけど…あ、司として会ったってのはノーカンね」
    「いいや、一度だけ、お前達は知らないだろうけれど会っている。「大聖堂のセカイ」といえばわかるだろうか?」
    「あぁ、もしかしてあの時の…カイトさんが言っていた「想いを遂行するための何か」とは君のことかい?」
     期待通りの言葉を得られたことで「感情」は目を輝かせて類の方を向く。
    「よかった…!類ならば覚えてくれていると信じていたぞ!あの時は皆を怯えさせてしまってすまなかったな。だがオレは、感情に従って皆を守るために行動した。それがオレだからだ。できれば理解してもらえると助かる」
     「感情」は眉を下げてそう言った。さて、と彼は話を切り出す。
    「改めて3人とも、試練お疲れ様だ。「オレ」の所へと案内をしようと思うが、今は大丈夫だろうか?」
     3人は頷く。ついて来い、と「感情」は歩いていく。えむ達は慌てて彼についていった。

     司は「あいつらを迎えにいってくる」と言い、ふらっと消えていった「感情」を1人でのんびり待っていた。すると、暗闇から複数人の足音が聞こてくる。待っていると、「感情」と司の大切な仲間達が暗闇から現れた。
    「宣言通り、連れてきたぞ。えむ達に話したいことがあるんじゃないのか?オレのことはその後でいいから」
     その言葉に真っ先に反応したのはえむだった。
    「なになに〜?司くん、なにか話したいことあるの?」
     そう言ってえむは立ち上がった司を覗き込んだ。自らの想いを素直に吐露する事に慣れない司は目を彷徨わせる。しかし、今まで言えるはずもなかったその想いを不思議と話してもいいかもしれないと司の心は感じていた。ふと、司は「感情」と目が合う。
    「大丈夫だ。あいつらはきっと、その想いを受け止めてくれる。その覚悟があるからこそ、仮面の試練を突破できたはずだ。オレだって怖い。というか恐らくオレの方が怖い。だってオレは「オレ」の中の強い想いだから。でも、きっと大丈夫。仲間を信じろ」
     「感情」は真っ直ぐ司を見つめて言う。えむは不思議そうに覗き込み、寧々はしっかりと司を見据え、類は穏やかに見つめていた。司の意思は不思議と固まっていく。
    「なぁ、オレの重すぎる想いを聞いてくれないか」
     3人は無言の肯定を返す。司は3人を見つめ、口を開いた。
    「オレは、自覚している以上にお前達が大切で大切で仕方がないんだ。お前達が危険な目にあって仕舞えば、相手に対しなにをしでかすかわからなくなるくらいに。それは、大聖堂のセカイでの「オレ」の暴走を見ればわかるだろう?」
    「…そうだね」
    「だが、お前達が大切なのはどうしようもなく本物なんだ。それだけはオレは胸を張って言い続けられる。だが、その想いは強すぎた。自ら無意識的に抑え込むくらいには。オレは、この試練を通して、そんな気が狂いそうなほどの激情を受け入れた。オレは、これからもお前達を守るために真っ直ぐ前に立つ。それがオレの願い、想いだからだ。独りよがりだと言われても、勝手だと言われても。お前達は、そんなオレを、受け入れてくれるのか…?」
     この場に、静寂が訪れた。真っ直ぐ目を合わせていた寧々が不意に司の方へと近づく。なにをするかと司達は思うと、寧々は両手でぐいっと司の頬を引っ張った。
    「ね、寧々ちゃーん!?」
    「いっだだだだ!お、おい寧々、どうしたんだ!?」
    「あんた馬鹿?あんたがわたし達が大好きなことなんてことくらいとっくの昔に知ってる。確かに、大聖堂のセカイのときはびっくりしたし、怖かったけど。わたし達だって司のことが大切なの。そんな意地はってないで素直にわたし達のことが大切だって言えばよかったのよ」
    「そうだよ!あたし達も司くんのこと大切だし、司くんがあたし達のこと好きだって知ってる!言っちゃっていいんだよ、そしたらみんなほわほわ〜ってして笑顔になるから!守りたい、って言ってくれるのも嬉しいし、あたしはそんな司くんを支えたい!」
    「まったく…誰が君のその想いが身勝手なものだと言ったのかい?誰も言っていないだろう?司くんはただ胸を張って大切だと言ってくれればいい。不安になんてなる必要はない。受け入れるもなにも、僕達は聞かれる前から既にその想いを受け止めているんだよ」
     三者三様の言葉。だが個性溢れた司への想いは、確実に司の心を潤した。「感情」はその光景を後ろから笑って見つめていた。仲間達にもみくちゃにされているところから司は抜け出し、改めて「感情」と向き合う。
    「素直に想いを吐き出すことはこんなにもすっきりすることだったなんてな。オレの話はこれで終わりだ。「オレ」の話とは何だ?」
    「試練の報酬だ。しっかりと想いを見つめ直し、オレを受け入れた。ほら、手を差し出してこの光を受けとってくれ」
     司が手を差し出すと、「感情」は光となり司の手の中に収められた。その光を握ると、司の体は光に包まれる。その輝きが収まると、その姿は王族のような高貴で煌びやかな衣装に青と赤の王冠を身につけ、その手には剣が握られていた。
    「これは…」
    「司くん、かっこいい!キラキラしてる!」
     司が目を閉じると、その姿はいつもの戦闘衣装となった。が、その武器は剣のままであった。目を開き、えむ達と向き合う。その瞳はキラキラと輝いていた。
    「さっきの衣装は昇華した想いから形作ったものだ。別にこのいつもの衣装でも剣を使って戦うことはできるし、あっちの衣装でも旗槍を使って戦うことができるぞ。…あ、いま強く表に出ているのは「感情」の方のオレだ。だがもうオレは感情と強い想いを受け入れた。感情が出てきてもオレの意識が消えるわけでも記憶が飛ぶわけでもない。オレはオレの意思で感情の力を使う。」
     そう言うと、司は武装を解除する。瞳の過剰な煌めきは落ち着き、いつもの瞳となっていた。
    「司くん、とぉーってもかっこよかった!」
    「あ、あぁ。ありがとう、えむ」
     そう言って司はえむの頭を撫でる。類はふと浮かんだ疑問を司にぶつけた。
    「そういえばさ、司くん。なんで新たな武器が片手剣だったんだい?何かしら理由はあるのだろう?」
    「こればかりは憶測でしかないが構わないか?…ありがとう。みんなが知っての通り、旗槍を使ったいつものスタイルは守る側に寄った戦い方をしていただろう?だが、それだけでは守れなくなった。だから、オレはみんなを守るために真っ先に先陣を切って敵を倒したり今まで以上に注意をオレの方へと向けることでみんなを守ろうと思ったんだ。剣なのは…単純にオレが殺陣とかで慣れているから、というのがあるだろうな」
     ふむ、と類は頷く。寧々は少し不満気に見ていた。
    「守りたいって…それが司の想いなのはわかるし知ってるよ。でも絶対に司1人で無茶しないでね。それだけが心配」
    「あぁ、わかっている。オレだってもう焦ってはいない、そんなことはしないぞ。…そろそろ祠から出るか。カイトが待っているだろう」
     3人は頷く。司が祠の扉を開いた。外で、KAITOが笑って帰りを待っていた。KAITOの目から見ても、司達の表情から結果はどうだったのかは明らかだった。
    「みんな、おかえりなさい。テントへと戻ろうか。ゆっくり休むといいよ」
     5人は連れ立って歩く。晴れやかになった司の想いが反映されているのか、セカイは明るく煌めいていた。
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