始まりは、久々にアイテムボックスを整理しようと思い立った事だった。
「ヤベェ、これ一日潰れるな……」
「マメに整理整頓しない旦那さんが悪いニャ」
手伝いに来てくれた相棒のヒナタにそう言われてしまえば、返す言葉もなく。それでも少しずつ、整理が進んできた頃にソレは起こった。
「旦那さん、このエキス類はどこに置くニャ?」
そう言ってヒナタが差し出したのは、狂走エキスやら古龍の血やらが束になったもの。一応どれも密封されてはいるが、万が一混ざったら厄介だ。
「そうだな、一つずつ貸してくれ。仕分けるから」
「了解だニャ! じゃあまずはこれを……あっ」
その時ヒナタが、盛大に手を滑らせ瓶を落とした。更に落ちた一つを拾おうとした拍子に、持っていた全部の瓶を床にぶち撒けてしまう。
途端、様々なエキスがグチャグチャに混ざり合ったその場所から、勢い良く煙が上がってきた。
「っ、ヒナタ!」
咄嗟に俺はヒナタを抱き上げ、煙の届かない場所へと放り投げた。その代わり俺自身は、全身を包んだ煙を思い切り肺へと吸い込んでしまう。
「ゲホッ、ゲホッ! 何だこれ、意識が……」
「旦那さん!」
急激に、遠くなっていく意識。抵抗も虚しく俺はその場に崩れ落ち、そして、全てが闇に染まった。
「……う、ん……」
ゆっくりと、意識が浮上する。見えるのは、ゼンチ先生の病院の天井。
「あれ? 俺……」
ボンヤリする頭を、精一杯働かせる。何で、俺、こんなとこで寝てるんだっけ……?
「愛弟子、目が覚めたのかい!?」
そこに勢い良く視界に飛び込んできたのは、ひどく焦った様子の教官だった。教官は俺の手を取り、矢継ぎ早に言葉を繰り出す。
「体調は!? 気持ち悪いとか頭痛いとか!」
「強いて言うならアンタのバカデカい声が耳に痛い……って、ん?」
そこで初めて、自分の声に違和感を感じる。何だか自分の声のはずなのに、別人の声なような……。
「これこれウツシ、ちょっと落ち着くニャ。サクヤが余計混乱するニャ」
その違和感に少し不安になっていると、教官を押しのけてゼンチ先生が顔を出した。いつものんびりしてる先生には珍しく、何やら少し難しい顔をしている。
「何があったんだ、ゼンチ先生? 俺は一体……?」
「あー……どう説明したらいいかニャ。まあ、百聞は一見にしかずと言うニャ。……サクヤ、お前さんの体をよく見るニャ」
「体……?」
身を起こし、言われるままに自分の体を観察する。すると見慣れた筋肉はどこへやら、肩も腕もほっそりと白く小さくなって。
トドメに胸元には、胸筋とは明らかに違う膨らみが二つ、ささやかながらも存在を主張していた。
「え? ……は?」
恐る恐る、股間に手を遣る。そこには産まれた時からそこにぶら下がっていたはずのモノが——カケラすら、存在していなかった。
間違いない。これは……。
「……っなんじゃこりゃああああああああああ!!」
体が女になっている、その事実を認識した瞬間。俺の口からは、特大の悲鳴が飛び出していた。