「愛弟子、今俺、お菓子持ってないよ!」
「……は?」
夜、久々に二人きりになった教官は、開口一番そう言った。
……いきなり何言ってんだ、この人は。しかも何か、やたらキラキラした目でこっち見てくるし。
「お菓子! 持ってない! よ!」
俺がどう反応すべきか迷っていると、教官が更に重ねて言ってくる。何なんだ? そもそもお互いガキじゃねえんだから、菓子をありがたがったりもしないだろ。
「……あ」
そこまで考えて、気が付いた。そうだ。今日は確か、ハロウィンとかいう日だった。
確かハロウィンでは、トリックオアトリートと言われた時に菓子を持ってないとイタズラされてしまうのではなかったか。となるとつまり、今教官の言わんとしている事は……。
「……へえ。俺に悪戯して欲しいんだ、アンタ」
俺が指摘すると、教官は否定も肯定も口にせず、ただ笑みを深めた。つまり俺の推理は正解なのだろう、とその反応から判断する。
「……」
……何だろう。正直イラッとくる。
あのな、確かに普段抱かれてるとは言え、こっちは普通にアンタに欲情もする大人の男なんだよ。それを何? 好きに悪戯していいと?
いくら何でも、ちょっと警戒心がなさすぎるんじゃないだろうか。て言うかアレか? 俺を舐めてるのか?
「……そんなに、俺に悪戯して欲しいワケ?」
沸き上がった苛立ちを隠さずに、教官との距離を詰める。教官はどうやら俺がイラついてるのは察したのか、少し引け腰になっている。
「あ、あれ? ……愛弟子?」
「そんなにして欲しけりゃ、してやるよ。その代わり……」
そのまま教官に馬乗りになったところで、ようやく向こうは自分が俺の地雷を踏んだのを理解したらしい。さっきまであんなにキラキラしてた笑顔が、今は少し引き攣っている。
「ま、愛で……」
「途中で泣き入れても、止めてやんねえから。……トリックオアトリート」
そうして、言い訳を口にしようと動きかけた教官の唇は、俺の唇によって塞がれたのだった。