恋人同士になってから、あの子の帰りが待ち遠しくなった。
早く会いたい。触れたい。溢れる想いを伝えたい。
あの子は嫌そうな顔をするけど、それでも、俺を引き剥がそうとしたりはしない。
それは不器用なあの子なりに、俺の愛情を受け入れてくれている証だと思うのだ。
「お帰り、愛弟子!」
今日もいつも通り、無事に帰還した愛弟子を抱き締める。愛弟子は少し眉をしかめるけど、今日もやっぱり、逃げる素振りは見せない。
「今日も元気で帰って来てくれたね! 俺は嬉しいよ!」
「だーから人前で抱き付くなって……まあそれは今日はいいや。今日はアンタに、土産があんだけど」
「俺に?」
問い返すと愛弟子はポーチを探り、小さな何かの鉱石を取り出した。黄金色をしたそれは、夕日の光を受けてキラキラと輝く。
「それは?」
「今日狩ったバサルモスの体に付いてたんだ。珍しい色だろ? 素材としちゃ使えないだろうが……」
「これを、俺に?」
胸がじんわりと、温かくなるのを感じる。目に付いた綺麗なものを贈り物にしてくれるなんて、まるで小さい頃のようだ。愛弟子のそんな変わらない純粋さが、心から嬉しかった。
「ありがとう、愛弟子。大切にするよ」
「……」
だからそう言って、笑って受け取ったのはいいのだが。愛弟子の反応は、何故だか芳しくなく。
「……愛弟子?」
何か、俺は間違えてしまったのだろうか。そう不安になった瞬間、愛弟子の手が俺の頬に触れた。
「……ホント、ハッキリ言わねえと解んねえんだな、アンタ」
「……え?」
「同じだろ。アンタの目の色と」
言われてハッとなる。確かにこの鉱石の色は、俺の瞳の色——。
「アンタの目の色だから、アンタにやりたかった。……ま、カッコ付けとしちゃ失敗したが」
「愛弟子……」
「——綺麗だ。この鉱石も、アンタの目も」
そう優しく笑う愛弟子に、頬が熱くなる。ああ、この子ときたら普段は可愛らしいのに、どうして時折こう——。
「今夜、アンタの家に行く」
男の顔で笑う愛弟子に、胸が高鳴る。
「今夜は、俺がアンタを抱く。……何となく、そんな気分なんだ」
そう宣言すると、愛弟子は俺の肩をポンと叩いて去っていった。残されたのは、黄金色の鉱石を手に立ち尽くす俺。
(……ああもう)
顔がどんどん熱くなる。本当は俺の方が、君をこんな気持ちにさせたいのに。
(これじゃあ君の事がすごく好きだって——また思い知らされるじゃないか)
ああ、愛弟子。やっぱり俺は、君には敵いそうにないよ。
今夜、愛弟子に組み敷かれるだろう自分に思いを馳せながら、そんな事を俺は思った。