「俺が写真のモデルに……ですか?」
俺の要望に、年下の友人は軽く目を瞬かせた。
「ああ。風景写真は一人でいくらでも練習出来るんだが、人を撮るには、やっぱりモデルが必要だからな」
「で、でも、それなら俺でなくても……」
「俺がアルを撮りたいなって、そう思ったんだ。嫌か?」
更に問うと、アルは恥ずかしそうな困ったような、でも嬉しそうな表情で俯いてしまう。こういうところが可愛いんだよなあ、とそれを見ながら、俺は密かにニヤニヤした。
「……い……」
「い?」
「嫌じゃない……です」
「よし、決まりな。じゃあお互いの都合のいい日を擦り合わせて、日程決めようぜ」
顔を赤くしながら頷いたアルに笑みを返しつつ、俺はカバンの中から手帳を取り出した。
そして撮影当日になった訳、だが。
「いらっしゃい、サクヤさん!」
「……おー……」
撮影場所をアルの家に決め、やって来たはいいものの。重い。アルの隣の視線が、重い。
「今日はうちのアルが世話になるようで。俺も横で、じっくり見物させてもらうぜ」
そう表向きはにこやかに言うのは、アルの同居人のヒバサさん。アルから話を聞いて、なら自分も見物すると予定を合わせてきたらしいが……。
何が見物だよ! この人の目的、完全に俺がアルに何かしないか見張る事じゃねえか!
どうも俺は、この人にあまりよく思われていないらしい。何が原因なのか、自分ではサッパリ検討がつかないのだが。
まあ、撮影会自体が中止にならないくらいには信用されてもいるようだけども!
「その、せっかくの撮影会なので最大限のオシャレをしようと思ったんですが! ……ヒバサにぃに止められまして……」
「……そうなのか?」
「さすがにアレを、写真として残す訳にはな……」
少し不満げに言うアルに、そう言って目を逸らせるヒバサさん。……いやどんなコーディネートしようとしたんだアル。逆に見てみたいんだが。
「それじゃアル、今日は出来るだけ自然に、いつも通りにな。俺が撮りたいのは、普段のお前なんだから」
「は、はい!」
明らかに力んでいるアルに大丈夫かなと苦笑しつつ、俺は家に上がらせてもらったのだった。