「青木」
「……?」
「おい、あおき、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
とんとん、と背中のあたりを軽く叩かれて俺は目を覚ました。
「んえ?」
覚ましたというか、うっすらと目を開けようとしただけだけれど。
「髪濡れたままだぞ、大丈夫か」
井田が何やら心配してくれているみたいだが、まぶたは意思に反して重たく、しっかりと目に蓋をしている。
「う~……んん……かだい、課題が……」
どうしても目が開かないので、もう開くのは諦めて閉じたまま井田の声がする方向に顔を向けて返事をする。
そうだった。今週から来週にかけては偶然課題がいくつも重なって、しかも提出日もほぼ同じ日程という地獄のような二週間なんだった。
「そんな状態じゃ出来ないだろ。今日は諦めて寝た方がいいんじゃないか」
井田に言われてようやく、どうにか目を開けて自分の周囲の状況を見る。真っ先に目についたノートパソコンの中では、作成途中のレポートに連続した同じ平仮名がそれはもう何十文字も打ち込まれていた。
ああやってしまった。髪が濡れたままということは、風呂上がりにちょっとだけ進めようと思って席に着いた途端寝落ちたという事で、確かに井田の言う通り今日これ以上進めるのは無理そうだ。
ぼんやりと考えながら、眠たすぎて動く気にもなれずに、うう~~と唸っていると背後でぶおん、という音がして、同時に温かい風が頭に当てられた。
「せめて髪は乾かした方がいいぞ。俺がやるからそのまま寝てろ」