「彼女が好きだ」
「……いや、どうしたんですか急に」
事務所の責任者兼上司、日車寛見は重なる終わりの見えない残業についに壊れてしまったようだった。用の済んだ書類をファイリングしていたかと思えば、突然恋人が好きだと言い出したのだ。
思わず事務の手を止めて顔を上げると、彼は壁を見つめながらバチンバチンとホチキスで書類を綴じ始める。手元をほとんど見る事もなく狂いなく紙面の左上を正確に留めていく様はまるでロボットのようだった。
「すまない、取り乱した」
「いや、そんな取り乱し方あります? っていうかどこ見てんですか」
「壁だな」
しっかりしてください先生、と淡々と仕上がっていく書類をまとめて端を揃えると、彼が今度こそため息をついた。
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