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    Ugaki_shuuu

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    8/26日にかいた小説。高円寺のあれは今年は縮小という話しかきいていないので、実際にどんなことをしていたかは実はよく知りません。多分座・高円寺あたりでやってたんじゃねーの? と勝手に思っています。なお、この小説は当該イベントや地域と暴力団組織とのつながりを示唆するものではありません。

    2022年8月26日「阿波踊りって、盆踊りの一種なんですよね」

    中央総武線の高架下で、高らかな笛の音を聞いて、ふと、小峠が呟いた。茹だるような、夏の終りの日のことだった。その日はたまたま用事があって、中央線の某商店街が集中する駅の近くまで来ていた。そのあたりは100年以上もの歴史を誇る中央線の発展とともに街が形成されていった地域であるため、若者たちが好むの街とはいえ、古くからその地域に住んでいるものも多い。そうした古くからの付き合いでちょっとした用があり、わざわざここまで足を伸ばしたのである。
    夏の終りになると、この町では毎年、阿波踊りの一大イベントが開かれている。ただ、ここ数年、感染症の被害が続いているせいで、規模はだいぶ縮小してしまったようだ。例年であれば祭りの前日ということで色めき立っている頃合いだというのに、今日の街はなんだか眠りについているかのごとく物静かだ。ただ、中央総武線の発車ベルの音だけが、まるで賑やかしのように、楽しげな音楽を奏でていた。

    「盆はもうとっくに過ぎたと思うのですが、まだ、盆踊りがあるんですね」

    ドアが閉まります、ご注意ください、という、澄んだ女性の声のアナウンスを聞きながら、小峠が言う。特に明確な答えが必要でもなさそうなその問いに、隣に立っていた野田が顔を歪めて「無知無知無知無知無知無知ィ!」とキレ始める。

    「盆踊りなどすでに形骸化してしまって、地域の予定に合わせて盆の前後に適当にやっているところが殆どなのだ! ウチは神農からの稼ぎもあるのに、そんなことも知らんのかボケェ!!!!」
    「ぐぅぅぅ無知ですいませんーーー!!!」

    町中であるにも関わらず、アイスピックの先端を右目付近につきつけながら、小峠に説教を垂れる。道行く通行人はみなその光景に恐れをなして、大きく迂回するようにして二人を避けて通っていく。

    「そういや、俺たちが見回りに行った祭りは、盆踊りがあったわりに、盆より全然前の7月だったよなぁ」

    首筋をがっつりと抱え、彼のトラウマであろうマル暴に抉られかけた右目をアイスピックの先端で狙い続ける野田に、小峠は顔を真っ青にしてダラダラと冷や汗を垂らしている。このままいくとPTSDで道端でゲロでも吐きそうだった。それを経験上知っていた小林は、別に窮地を救おうと思ったわけではなかったが、ゲロを吐きかけられたりするのはいやだったので、わざとそんな言葉を投げかけて野田の意識をそらしてやる。すると野田が、小峠の首をパッと開放して、小林の方を振り返った。その顔にはありありと、ブルータス、お前もか、と書かれていた。

    「フールボォォイズ? 無知なお前らに俺が説明してやるのだ。耳かっぽじってよぉぉく聞け。そもそも、盆というのは太陰暦では7月に行われるのだ」

    なんでも、明治維新以前には太陰暦が使われていたのが、明治維新後に諸外国と暦を揃えるため太陽暦が導入されたことにより、すべての行事のも太陽暦の日付に移動した。政府のお膝元であった東京などはこれが進んで行われたが、それ以外の地は農業との兼ね合いなどの理由もあり、盆が旧暦の日付のまま残された、ということらしい。7月の盆を新盆、8月の盆を旧盆という。

    「お前らが行った祭りが7月だったのは、新盆のほうの日付に合わせているからなのだ」

    こうした年中行事は、付き合う相手によって時期や挨拶の方法を色々と替える必要がある。よくよく頭に入れとけこのバカチンどもが、と野田は締めくくる。そもそも極道というのは、時候の挨拶だとか決まり事に対して実はかなり口煩い。長年日本を離れていたためそうした習慣を忘れてしまいがちな小林にとっては、野田のこうした話は非常に役に立った。満面の笑みを浮かべて「へぇーそうなのかぁ。為になりますー」というと、野田は苦々しい顔をして「……授業料は1000万なのだ」と返して寄越した。

    「しかし、ここの阿波踊りは8月末ですよね? 8月末というのは、盆踊りにしてもさすがに遅すぎるのでは……?」

    顔色に青白さを残しつつも、なんとか復活しつつあった小峠が、やっと追い付いて二人の会話に加わる。

    「そりゃあ、徳島の本家が盆にやるから、気ぃ遣って1週間あとにずらしたんだろ」

    追い付いてきた小峠に、小林が返す。確か今年は2年ぶりに、徳島でのイベントは再開されたはずだった。と、小峠もそれを思い出したのか、得心がいった様子で「なるほど」と相槌をうつ。傍でその遣り取りを聞いていた黄色い色のトサカ頭が、チィッと舌打ちをした。「ちっとアタマ働かせりゃ分かるだろがい!」と、毛を逆立ててお冠の様子だった。

    「つっても、今年の旧暦7月も、今日で終わるんだけどなー」

    日差しを避け、高架橋の下を次の駅の方向に向かって歩きながら、今度は小林が話し始める。言葉を聞いた野田と小峠は、顔を見合わせ、小林の方を仰ぎ見る。野田の緑と小峠の碧、4つの瞳が、小林の藤色の瞳と向き合う形となる。

    「旧暦ですか?」
    「そ。旧暦だと、今日が7月最後の日なんだよなー。だから明日盆踊りをしたしても、幽霊共はもう地獄の底に戻ってんだわ」

    日本以外の東アジア国々では、実はどちらかといえば、この旧暦に沿って年中行事を行っている国が多い。国によっては、旧暦7月の一ヶ月間がまるごとお盆という扱いになる。日本と同じように、地獄の釜の蓋が開いて、幽霊共が現世に帰ってくる。それを聞いて、小峠はふと、夏祭りのときに見た、見知った人の姿を思い出す。サラサラの青い髪と、ふわふわとした薄い茶の髪。彼らはもう、日本の盆に合わせて地獄の底に帰ってしまっただろうか。それとも旧暦の盆に合わせて、今日までこの世に残っているだろうか。

    「冨樫の兄貴と北岡はもう、とっくの昔に地獄の底にかえっちまってるだろうけどなー」

    いや、もう残ってはおるまい。なにせ暴力団というのは、意外と季節の決まり事やら挨拶やらに厳しいのである。そう思って口にすると、傍で聞いていた小峠が、

    「……帰ったら、線香あげてやりましょうか」

    と言う。小林がそれに「そうだなー」と同調し、野田も「ついでに干菓子かなにか備えてやれ」という。

    夏の終りの、ある暑い日のことだった。
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