Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    Ugaki_shuuu

    @Ugaki_kakkokari

    ※※※くさってます!!!!※※※
    コバ/カブとジロ/クガとアサ/キド/アサです。
    腐など興味がない!という方はゴーバック願います。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 85

    Ugaki_shuuu

    ☆quiet follow

    【なんとなく下げてたものを再掲】キド+アサ。特に何を書こうと思ったわけでもなく、ただ情景描写がしたかった。
    なにげに自分の中では一番気に入ってる小説だったりします

    #きど+あさ
    brightness+Wetness

    ただキドアサがタバコを吸っている情景描写がしたかっただけある日のことだった。
    その日はなんの変哲もないただの水曜日だった。朝起きて、飯を食い、テレビのニュースのヘッドラインだけ確認して、10時ごろフロント企業の事務所が入っているビルへと足を向けた。
    そこで城戸の兄貴に会い、諸々のことを確認し、一緒に昼飯を食い、午後は兄貴について人に会いに行った。そんなことをしていたら、時刻はすでに夕方の7時だった。切った張ったのドタバタ劇も何もない、本当に平凡で平坦な、あくびのでそうな1日だった。
    この後もせいぜい2、3軒のキャバクラへ守り代を回収に行くくらいしかやることがなかったので、事務所にいた他の連中と一緒に、出前で寿司でも取ろうということになった。寿司桶いっぱいに入った寿司を、その場にいた4、5人の組員たちとともに、わいわい言いながらつつく。そうして腹もくちくなって、食休みに一服しようということで、城戸とともに、ビルの裏手の非常階段のところへとやってきた。重たい鉄の防火扉を開けると、そこには事務所の連中が、空き缶で作った灰皿を針金で窓の鉄格子にくくりつけた、簡易的な喫煙所があった。城戸がスーツの裏ポケットから白地に赤い丸印のタバコの紙箱を取り出す間に、浅倉もまた、ポケットからタバコの紙箱を取り出した。紙箱の中にタバコと一緒に入れておいた100円ライターを引き抜き、火を灯して、タバコを咥える城戸の前に差し出す。城戸はニッコリ笑って「ありがとぉ」と言ってから、浅倉の手の中に灯されたライターの紅に、スイと額を寄せた。ライターの灯りに照らされて、城戸の顔が薄暗闇の中に数瞬、ぼんやりと浮かび上がる。やがてそれが薄闇の中に沈んでいき、それと引き換えにフーー、と息を吐く音がした。男の吐き出す煙の、甘みの混じった香ばしい匂いが、浅倉の鼻腔をくすぐった。
    煙草の火に照らされて、暗闇にぼんやりと浮かびあがる城戸の口元を確認してから、浅倉自身もまた、タバコを取り出す。黒い紙箱の中の、ライターがなくなってできた隙間に指を突っ込み、一本引き抜くと、その白いフィルターを唇に咥えた。と、最初の一口を吸い終えた城戸が、自分の持つタバコを口元から離して、浅倉の前にひょいと差し出してくれた。「ありがとうございます」と礼を述べ、城戸の指先に挟まれた、白と茶色のタバコの先端に自分が咥えたそれの先端を押し付ける。ゆっくりと深く息を吸い込めば、肺の中へと送り込まれたメンソール味の煙が気管支部分をザラリと撫でた。頭の芯の部分がじんわりと曖昧になる。その恍惚とした感覚に、浅倉はホウ、とひとつ、ため息をついた。

    時刻はPM8時20分。11月も中旬に入った今日この頃、太陽は疾うに地平の彼方に身を伏している。それと引き換えに、昼間のうちは燦々と輝く太陽に圧倒されて身を潜めるばかりだった、街の灯りがゆっくりと輝き深めていた。希ガスによって生み出された色とりどりの原色が、これからさらに、ギラギラと色彩を増していくことだろう。

    「城戸の兄貴、今日はこのあとどこへ行かれるんですか?」
    「◯◯筋の◯◯ちゅう店と、◯◯っちゅう店やな。今日は俺らはそれでお終い、閉店ガラガラや」
    「それだけですか。今日はえらい暇ですね。兄貴、干されとるんとちゃいますか?」
    「おとろしいこと言うのやめてー。俺が干されたらお前も一蓮托生や。一緒に極貧生活せないけんようになるで」
    「そうなったら俺、兄貴の舎弟やめさしてもろてもええですか」
    「えー、俺とお前の仲やんか、置いてかんとってー」

    遠くに浮かぶ街の光を眺めつ、タバコをふかしながら、軽口を叩きあう。平坦で平凡で平和で、あくびを噛み殺したくなるような一日だった。こんな日がずっと続いたとしたら、飽いて、倦んで、頭に茸でも生えてしまいそうな一日だった。もし、こんな日がずっと続いたら。

    「こんな暇なんが続いたら、頭に茸生えそうやなぁ……」

    タバコの煙をフゥー、と吐き出しながら、ふと、城戸が言った。まるで、浅倉の思考を読んだかのようだった。思わず声に出して何か言っていただろうか、と心配になるくらいの、ぴったりのタイミングでの一言だった。
    その動揺した気持ちを隠しつつ、浅倉は急いで、城戸の言葉を肯う。

    「……俺もそう思てました」

    言うと、城戸が嬉しそうに、くるりとこちらを振り向いた。

    「なんや、俺ら、一心同体やないか」

    もう一生、離れられへん運命やな。言って、ふ、と、笑う。その指の間に挟まれたタバコから、ほそく、ほそく、紫煙が立ち登る。
    城戸が動いたことにより発生した風に揺られて、ふうわりと、煙が撓んだ。


    ーーーーーーーーーーーー


    「……そろそろ行こか」

    少しして、タバコを吸い終わった城戸が、浅倉に言う。タバコを空き缶の灰皿に押し付けると、大きく伸びをする。それから首を左右に曲げて、首をコキコキとならした。そうして今日一日の怠慢で固まってしまった筋肉を、少し動かしてやっているようだった。

    「はい」

    と言って、浅倉もタバコの火を消した。まだ火の残っていた部分をアルミの缶にぐりぐりと押し付けると、それをそのまま缶の中落とし込む。ポトリ、と音がして、吸い殻は空き缶の中で尸となった。
    位置的に浅倉の方が、非常階段の扉から近い所に立っていた。鉄製の重苦しい扉が、建物の外側と内側とを隔てている。その隔たりを開いて中に入ろうと、ドアノブに手をかけた時である。「なぁ、浅倉ァ」唐突に、城戸が口を開いた。

    「明日もお前と一緒に、ここにタバコ吸いに来たいなぁ」

    にっこりと、微笑みながら、そんなことを言う。多分、なんの気もなしに言った言葉だっただろう。しかしそれは、浅倉にとってそれは、何者にも変えがたい、無上の言葉であった。だれよりも、城戸に必要とされたい、浅倉にとっては。

    その日は平坦で平凡で平和で平穏な、あくびを飲み込むような一日だった。毎日こんな日が続いたら、飽いて、倦んで、頭に茸が生えて、ついでに足元から根腐れしてしまいそうな。

    「……俺もです」

    それでも浅倉は、この日を多分、一生忘れることはないだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍☺💖❤💯☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    Ugaki_shuuu

    TRAINING【なんとなく下げてたものを再掲】キド+アサ。特に何を書こうと思ったわけでもなく、ただ情景描写がしたかった。
    なにげに自分の中では一番気に入ってる小説だったりします
    ただキドアサがタバコを吸っている情景描写がしたかっただけある日のことだった。
    その日はなんの変哲もないただの水曜日だった。朝起きて、飯を食い、テレビのニュースのヘッドラインだけ確認して、10時ごろフロント企業の事務所が入っているビルへと足を向けた。
    そこで城戸の兄貴に会い、諸々のことを確認し、一緒に昼飯を食い、午後は兄貴について人に会いに行った。そんなことをしていたら、時刻はすでに夕方の7時だった。切った張ったのドタバタ劇も何もない、本当に平凡で平坦な、あくびのでそうな1日だった。
    この後もせいぜい2、3軒のキャバクラへ守り代を回収に行くくらいしかやることがなかったので、事務所にいた他の連中と一緒に、出前で寿司でも取ろうということになった。寿司桶いっぱいに入った寿司を、その場にいた4、5人の組員たちとともに、わいわい言いながらつつく。そうして腹もくちくなって、食休みに一服しようということで、城戸とともに、ビルの裏手の非常階段のところへとやってきた。重たい鉄の防火扉を開けると、そこには事務所の連中が、空き缶で作った灰皿を針金で窓の鉄格子にくくりつけた、簡易的な喫煙所があった。城戸がスーツの裏ポケットから白地に赤い丸印のタバコの紙箱を取り出す間に、浅倉もまた、ポケットからタバコの紙箱を取り出した。紙箱の中にタバコと一緒に入れておいた100円ライターを引き抜き、火を灯して、タバコを咥える城戸の前に差し出す。城戸はニッコリ笑って「ありがとぉ」と言ってから、浅倉の手の中に灯されたライターの紅に、スイと額を寄せた。ライターの灯りに照らされて、城戸の顔が薄暗闇の中に数瞬、ぼんやりと浮かび上がる。やがてそれが薄闇の中に沈んでいき、それと引き換えにフーー、と息を吐く音がした。男の吐き出す煙の、甘みの混じった香ばしい匂いが、浅倉の鼻腔をくすぐった。
    2507

    recommended works