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    @naiteirunokai

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    クロアジ本「眩いだけでは知れぬものを」の特典としてつけたペーパーの小話です

    #グッドオーメンズ
    goodOmens
    #クロアジ

    good day for you(あなたのためのよきひ)ここ最近晴れの日ばかりが続いて、曖昧な空が売りのこの街もついに気分が変わってしまったんじゃないかと思う。そうなったのは街を歩くやつらも同じで、こぞって家族で外に出かけたり、犬と散歩に出かけたりしている。気にくわない。俺はあの、アッシュグレーの分厚い不愛想な老人のような天気を愛していたのに。

    「最近晴れない顔をしているね」
    「〝晴れない〟だって? そうだよ天使さん。
    俺は曇天を愛しているからな。今にも俄か雨の降りそうな空がいちばん好きだ」

    書き物机に乗っているインク瓶を手に取り、底を無意味に覗く。黒く荒れた海を思い出した。そう、俺はモーセの十戒を傍から見て、雨に打たれた時から獰猛な空が好きなんだ。天使は抱えていた本を棚に戻し、ぐるりと俺の周りを一周してから、もったいぶったように話し出した。

    「でもね、実は……晴れているからこそ愉しめるものがあるんだ。
    たとえば一緒に行きたいねと言っていたあのカフェのテラス席。あそこは晴れないと空けてもらえないんだ。そこでサラミピッツァを食べる。するとどうだろう、途端に気分が晴れやかになる」
    「ああ確かに、あそこの食い物はやけに美味いと評判らしい」
    「そう! そうなんだよ、いつかあそこで君とランチを食べるのがずっと愉しみだったんだ」
    「それは正真正銘の、今しかできないお前からの〝誘惑〟だよな?」
    「ああ、そうだ。今しかない。清々しく、遠くの峰々まで見えるくらいの祝福されし晴天のこの日のために誘うのを待っていたんだ。どうかな、乗るかい?」
    「ああ、そうだな。乗った」

    俺は立ち上がり、定位置からサングラスを手に取って扉を開けると同時に、窓際に置かれている薔薇の挿さった花瓶を見た。硝子を隔てた外から漏れる木漏れ日に薄く翳っているそいつを見て、俺は言った。

    「……これをどこで」
    「ああ、この前きみを花園に連れて行った日、木陰に落ちていてね。
    なんだか放っておけなくて持ち帰ってきた」

    太陽の光を遮るものの奥から、花を見つめる。花は応えるように微かに揺れた。

    「なんだか不思議と、愛おしさが抜けないんだ。独りでいたからだろうか。
    いつか枯れてしまうと分かっていながらも、ここにいさせてあげたくて」
    「……そうか」

    その言葉を聞きながら半身を外に乗り出し、燦々とかがやく陽を睨んだ。スミレ色のスカーフを巻いた婦人とすれ違い、微笑みを向けられる。

    この世界は理不尽だ。けれど、それを選んだのも、お前の隣を選んだのも俺だ。そんな世界が、お前の隣が、好ましいのだと気づいてしまったから。
    木陰がある場所に連れて来られて良かったな、お前も。世界にはそういうところがある。見上げるとふいに影が落ちていることが。

    「行くぞ」
    「ああ、今行く」

    空から鳥の鳴く声がする。天使の喜ぶ声も。
    絵に描いたような呑気な日々は、これからもしばらく続きそうだ。
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    ink

    DONEMP41の無配で書いた同棲ヘルテセ。天然たらしなテセとツンデレヘル。
    My suger muffinオーブンの前で仁王立ちし、数分にいちど中を覗き込んでいたら、匂いにつられてテセウスがやって来た。

    「そんなに覗いてたら日焼けしてしまうんじゃないか」
    「心配ありがとう。大丈夫だ」

    お前の皮肉にはもう慣れたよ、と言うと、皮肉のつもりはないんだけどなぁ、と返ってきた。両手にミトンをしたままである事に気づき、さりげなく外してテーブルの上に置く。俺は今、誰がどう見ても浮足立っているように見えるだろう。実際、焼き上がるのが楽しみであることは事実だった。小麦が焼ける匂いの元をたどってきた犬、もといテセウスにそれを勘づかれないよう、オーブンから適度な距離を取り他愛のない会話の端を投げかける。
    この家に来てからというもの、元々の趣味――趣味というには粗末な、最低限度の生活の一部、からの成長――である料理を良くするようになった。最初は酒のつまみや軽い朝食くらいだったのが、だんだん手の込んだものを作り始めるようになった。自分でもなぜこんなに頻繁に料理をしているのか分からない。ただ、新鮮な野菜の瑞々しさだったり、母国にいた頃は飽きるほど食べていたマッシュポテトのまろやかさだったりが、なんとなく昔より強く感じるようになって、理由も明白になっていないまま、本能に近い何かでキッチンに立つことが多くなった。
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