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    支部にあげたドラエマドルパロの続きっちゃ続き。なんか気に入らないから供養。

    ドルパロ「もうカメラ回ってる?」
    「聞こえるかー?」
    「聞こえてるみたいだネ」
    「じゃあはじめよっか」

     画面に映る5人の少女たちは、今現在人気絶頂のアイドルユニットMoiraのメンバー。突然SNSでのライブ配信が開かれると今日の朝告知されたのにも関わらず、閲覧人数は5桁を軽く越している。
     場所はMoiraのシェアハウスのリビング。それぞれ個性の出る私服で、柚葉が選んだふかふかのソファに5人身を寄せ合って座っている。

    「こんばんは、ヒナです。今日はMoiraがカメラの後ろのマネージャーさんと一緒に、みんなからもらった質問に答えていきたいと思います。質問は先にマネージャーさんがちょっと厳選してて、その中からくじ引きしていきます。よろしくお願いします!」

     それじゃあまずは誰が引こうかなんて言ってるうちに、千壽が既に手を突っ込んでいる。

    「これだー!」

     出てきた質問は、きょうだい仲良しエピください。Moiraのメンバーはそれぞれ兄弟がいる。
     ヒナは1歳下に弟がおり、俳優、橘直人として今活躍している。そんな2人の仲良しエピソードはSNSのヒナのアカウントを見れば手に余るほど出てくる。今日はどこに出かけた、現場で直人に会った、アイス美味しい。何かとツーショットを上げるおかげで、ナオトのファンから女神と称されるに至っている。
     千壽の2人の兄が、伝説とも称される事務所である黒龍の創設メンバー明司武臣と、現在最も勢いのある事務所のひとつ東京卍會の主力メンバー三途春千夜であることは有名である。

    「この間は武臣がパフェ奢ってくれて、合流した春兄が死ぬほど注文して怒られてた」

     普段は伝説としてカッコいい姿しか見せない武臣と、東卍で澄ました顔で厳しい言葉ばかりの春千夜が兄妹の前だと結構ダメダメな兄貴だったり、ワガママな弟だったりするのでよく話題に上がる。兄妹の話をすると毎回頼むからやめてくれと訴えられるのが千壽。イメージが壊れるからと泣いてせがまれてそこでは頷くのだが、実際はこうやって話す。
     エマは3人兄がいることは公表しているのだが、一般人ということになっていて名前すら出てこない。けれど、実家に帰った時には一緒に出かけたり、甘えたり甘やかしたりしているということはよく話す。

    「4人でツーリング行ったよ!ウチは一番上のオニーチャンの後ろに乗せてもらったんだ」

     次に赤音。弟は黒龍の8〜10期の主力メンバーとして活躍している乾青宗。

    「青宗が初めてわたしにプレゼントくれたの」

     なんとまあ。そのプレゼントはあまり高価なものではなかったけれど、気持ちが嬉しいと微笑む赤音にファンは涙を流した。

    「うちはそんな仲良しエピソードとか……」

     弟、八戒のネタなら死ぬほどあるけど全部最近話した気がする。じゃあ兄の大寿?仲良し……って感じじゃないしな。
     柚葉がうんうん唸っていると、ヒナが何か閃いて柚葉に耳打ちする。

    「あ、それ?いいの?」
    「うん」
    「えっと、このソファ大寿に買ってもらった」

     そろそろ買い替えようと話になっていて、実家でもインターネットで調べていたところを大寿に見つかり、翌日家具屋に強制連行された。
     コメントでどこの家具屋かと聞かれる。

    「スグノキっていう」

     めちゃくちゃ高級なことで有名な老舗の家具屋である。コメント欄は荒れた。大寿の収入についてと、愛されてるなというコメントで。
     こういった具合でファンからの質問に答えつつジュースをとりに行ったり、アイスを食べたり自由に過ごすMoiraの面々。
     配信が始まって2時間、そろそろ終わりにするようにとカンペが出る。

    「じゃあ次で最後の質問にしようネ」

     赤音が引いた質問はライブのときのファンサービスの差について。
     ヒナと千壽はノリノリでやってくれる。指ハートも、バーン!も投げキッスも、団扇が見えたらなんでも。
     赤音は団扇に気づかないことが多いが気づいたときはやるし、カメラを見つけるのはめちゃくちゃ上手いので全員にファンサをしていると言っても過言ではない。
     可愛い系のファンサは少し躊躇う柚葉。バーンして、はやるけれど、ハートちょうだいは照れながら指ハート。

    「なんか恥ずかしいじゃん」
    「かわい〜!」
    「柚葉ちゃんかわいい」

     赤音とヒナに挟まれて、ハートをつくる羽目にあった。
     エマはライブ中のファンサが一番少ないことで有名。握手会やトークなどでは一番多いのだが、歌ってる時のファンサは少ない。エマは自分の歌とダンスに求めるレベルが高すぎるあまり、精一杯なところがあってファンサができない。

    「もっと頑張って、みんなと同じくらいできるようになりたい」
    「エマはほんとに努力家だな」

     さて、投げキッスは一度たりともくれたことがないことに関してはどうなのか。

    「……だって、ちゅーは好きな人とだもん」

     顔を赤くしながらどんどん画面からフレームアウトしていくエマを赤音が捕まえて引き戻す。

    「エマちゃんも可愛い〜!」
    「もー!赤音ちゃんだって可愛いでしょー!」

     そこから可愛いの言い合いが始まって収集がつかなくなってしまった。ファンはMoiraが幸せそうならそれでいいと見ていた。カメラの後ろでマネージャーが額を押さえてため息を吐いているのに気づいた柚葉が、一旦全員を大人しくさせる。

    「それじゃ、今日はここらへんで終わり。見てくれてありがとね」

     最後に見せた優しい微笑みに柚葉のファンは心臓を撃ち抜かれ、心臓を奪われた他メンバー担当も少なくなかった。



     今回の配信、閲覧者の中にはエマのファンである龍宮寺ももちろんいた。仕事が長引いたせいで移動しながら見ることになってしまったことに関しては納得いっていないが、エマが可愛いから許した。
     それにしたって私服があまりにも可愛い。こういうのプレゼントで送ったら流石に重いよな、彼氏じゃあるまいし。
     きょうだいエピソードでエマを後ろに乗せられる兄貴が羨ましいというコメントが多く流れて、一度だけエマを後ろに乗せたことのある龍宮寺は優越感を覚えた。
     そして最後のファンサの質問。エマはファンサしないとこですら魅力なんだよとコメントしたいくらいだったが、エマ自身が変わりたいと言っていることに関して口を出せるわけもない。そもそも龍宮寺はエマのこういう努力家なところに惹かれたので。



     後日、とある現場にてエマと龍宮寺が遭遇。

    「ドラケン!」
    「お〜エマ。今度ライブあるんだってな、忙しい?」
    「知っててくれたの?ありがとう」

     いちひゃくでの共演から少しずつ距離を縮めている2人。すれ違うたびに手を振り合うのはもちろん、時間があればこうして近況報告をしあうのもなれたものだ。今度何の番組に出るとか、そういう情報交換。
     エマが何か思い出したようにカバンの中を漁る。

    「ドラケンもしよければなんだけど、ライブ来ない?」

     関係者席に何人か招待していいって言われたから。前回実家に帰った時に誘った兄たちは残念ながら予定が空いていなかったようで、死ぬほど悔しがっていた。よって席が空いているので、もし龍宮寺さえいいならアイドルをやっている自分の姿も見てほしいと思ってのお誘いである。
     龍宮寺はそのチケットとエマを何度も見比べて一瞬手を伸ばした。しかし、それはファンとしての龍宮寺の矜持が許さなかった、というより

    「チケット取ったんだわ」
    「ほんと!?」

     わざわざ取ってくれるなんて嬉しい。エマはいまいちシステムを理解していないから忘れていたのだが、この時チケットはファンクラブ会員先行の結果しか出ていなかった。龍宮寺はファンクラブの一桁ナンバーなのだが、エマがそれを知るのはまだまだ先のことになりそう。

    「じゃあ、会場で絶対見つけるから!」
    「おーおー、楽しみにしとくわ。ファンサ練習しとけよ」

     ファンサが苦手なことまでバレていたのかと、エマは顔を赤くして龍宮寺をぽこぽこ殴ったが、全て龍宮寺の大きな掌に収められた。
     周りは慣れたものでずっと「早よ付き合え」としか思っていない。



     ライブ当日。

    「ヤバい緊張してきた」
    「エマちゃん大丈夫だよ」
    「今日は練習の成果見せるんでしょ」
    「うん」

     いつもは周りを励ます側のエマが珍しくメンバーに励まされている。それもこれも、今までの練習の成果を出す大事な日だから。
     緊張で震える手はMoiraのみんなに握られて、ようやく治る。

    「よーしこのまま円陣しちゃおっか」

     赤音の言葉に周りのスタッフも集まる。円陣の中心はMoira。

    「今からたった2時間、世界で一番幸せな空間にしちゃいましょう!」

     円陣の前のヒナの言葉はデビュー当時からずっと言い続けている、Moiraの約束。そして、円陣の掛け声はリーダーであり最年長の赤音。一気に心が一つになったところで会場の照明が落とされた。
     開演から上々、会場のボルテージは最高潮。団扇に書かれた文字にも次々応えていくMoiraの面々に、ファンは次々虜にされていく。
     さて、途中途中にトークを挟みながらライブも終盤に差し掛かってきた。そこで初めて披露される新曲はよくある片想いのラブソング。絶対君を振り向かせてみせる、なんて強気な言葉とたまに弱気な言葉。
     それを龍宮寺はアリーナ席で聴いていた。アリーナ席万歳。すぐ横に中央ステージがあるおかげでエマが近くに来るかもしれない。
     目立たないように髪型も服装も変えて来た龍宮寺だが、エマに気づいてほしい気持ちもちょっとある。
     まあエマはファンサ少ないからな、仕方ない。この目にエマの姿を焼き付けよう。そう思いながらペンライトをエマの色で振っていると、Moiraの面々が中央ステージに移動し始めた。エマはなんだかキョロキョロしている。
     ドラケン来るって言ってたけど全然見当たらない。来てないのかな、忙しいもんね。あと見ていないのは中央に向かう間のアリーナ席だけ。
     もしかしたらいるかもしれない、一縷の望みをかけて観客席を探す。色とりどりのペンライトが輝く中に自分のカラーを見つけた。自分のファンだ、嬉しい。
     そう思ったのも束の間、なんだかシルエットに見覚えがある。あれは、まさか。メガネもマスクもしてるけど、週刊誌の盗撮で何度も見たから見慣れている。
     バチっと目があって、まさか目が合うとは思ってなかった龍宮寺も目を見開く。他の観客には気づかれないほど短い間があって、エマは間奏であることを確認して龍宮寺に手を振った。まさかエマがファンサをするなんて。会場でそこだけが大きく騒めいた。

    「見てて」

    そう口が動いていたのに気づいたのは何人だろうか。
     エマのアイドル人生初のファンサをもらったのは俺だ、私だ、いや僕だと皆が思っていたが、本当は龍宮寺である。ファンサをもらった本人はエマの成長に流れそうになる涙を堪えながら、その姿を目で追いかけた。
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