桜雨 風が強く吹くと目の前が見えなくなるほどに花びらが降る。駐輪場の脇に一本ポツンと忘れられたように立っていた桜が、この季節だけ存在を主張するように満開に花開いていた。
三井がこの木が桜だと知ったのも卒業した後だった。春休みに母校に報告がてらバスケ部に顔を出した折、流川と待ち合わせた駐輪場で見事に咲いた桜を見てそれと知ったのだ。
その後輩と今日また待ち合わせたが、流川が指定してきたのは「湘北で」と一言だけだった。雑な男だと知ってはいたが、湘北と聞いて三井も細かく聞き返すことはしなかった。
二人とも湘北の卒業生とはいえ不法侵入であることは重々承知で、見つかれば面倒になるだろうことは予想がついた。三井は裏門からそっと入り、体育館に行こうとしてその脇にある駐輪場にまず辿り着いた。
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