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    カヴェアルBAD√if周回モノ抜粋2。こっちの方が先。

    ゼン発狂+夢脱出失敗したジュニャ日後のシティに何も知らなかったカヴェが帰ってくるところから始まる、手遅れナイトメアモードBAD√の冒頭部。

    ※ゼン不在

    ※大体全部手遅れ

    0: Sumeru in the Nightmare Ⅰ

     その日、何も知らず呑気に砂漠の工事から帰還したカーヴェを出迎えたのは、死の都となったスメールシティだった。街行く人々は、俯いたまま、誰も口を開こうとしない。カーヴェがシティを離れていた間に、伝染病でも流行ったのだろうか。人の往来もカーヴェが記憶するよりずっと少なかった。あっちを見ても、こっちを見ても、やつれ切った人間しかいないのだ。
     市場に行けば殆どの店も閉じていて。どの家庭も扉と窓を閉め切って、人との交流を徹底的に拒んでいるように見えた。時々すすり泣く様な声が聞こえる他は、嘘みたいに静かで。街なんて呼ぶのも烏滸がましいと思わせられる位、どこにも活気がなかった。
     カーヴェは砂漠でしこたま浴びた砂嵐のせいか調子の悪くなったアーカーシャ端末を少し伸びた爪先で突きながら、情報開示請求を送る。しかしカーヴェの端末の調子が悪いのか、システムに何らかの異常があるのか、応答が一向にない。何だか本当に元気がないように見える人々に声をかけ、色々と問い詰めるのも憚られる。仕方がないので情報は後で集めることとして、工事中の仮住まいではなく、このシティにある本来の住所へ向かう。
     カーヴェは色々あって、元友人のアルハイゼンの家に住んでいる。常にあらゆる情報の流れの中心にいるアルハイゼンのことだ。一目でわかる程の異変がスメールシティに起こっているというのならば、何かしら必ず把握している筈。
     しかし、家には誰もいなかった。それどころか、ここ数日、帰って来た気配がない。……食糧庫の中の食べ物の一部が醜く腐り、独特な臭気を放っている。いつも通りのアルハイゼンなら外泊の予定を殆ど入れない筈だ。もし予定を入れていたとしても、このように食材を放っておくことはないだろう。その上、読みかけのままリビングテーブルに置かれている本の上に、埃が薄く積もってもいる。食べ物に関しては、意外とズボラなところもあると考えることもできるが。朝も昼も夜も隙あらば読書に耽溺しているようなあの男が、埃が積もる程長い期間、自分の読みかけの本を放置するなんてことはあり得ない。彼の身に何かあったとしか考えられない。
     いるだろう場所を総当たりしても、アルハイゼンが見つからない。カーヴェは焦った。教令院内の人間に聞いて回っても、誰もアルハイゼンの居場所を知らないようだった。まあ、アルハイゼンの居所が割れていないのはいつものことだ。別に、誰も彼の動向を知らなくとも、不自然でも何でもない。……普段ならば。
     無気力気味だったシティの人々の様子とは打って変わって、大賢者派の学者たちは何やらずっと忙しそうにしている。しかしその動きはどう見ても不自然かつ、非効率的なもので。研究や採点などで忙しい時期の動きとも違う。
     ――彼らは、自分たちの研究をしているのではない。
     カーヴェがその事実に気付いた瞬間、アルハイゼンの居所を探して教令院内を彷徨うカーヴェを、複数の視線が捉えた。耳元でジジ、と虫の羽音のような音が響く。
     何かがおかしい。先程からカーヴェの感覚がずっと、そう叫んでいる。カーヴェの知らない間に、アルハイゼンは正道からこぼれ落ちてしまったのではないだろうか。そんな不安が絶え間なく湧き出てくる。背筋をつう、と伝う冷汗。
     荒れ狂う内心を包み隠せず、頬が引き攣る。そんな不格好な表情のまま、同じく不格好な薄笑いを浮かべながら近付いてくる学者たちに問いをぶつける。彼らはカーヴェの動揺などには微塵も興味がないかのように、えらくゴキゲンな様子を隠さない。お前も喜べ、と。そう言われているようだった。
    「何か、喜ばしいことでも、あったのか?」
     たどたどしい言葉と共に、ギシギシと音が鳴りそうな程ぎこちなく首を傾げたカーヴェに。何にも考えていないような空っぽな頭で、へらへら笑う愚かな賢人たちは、カーヴェにとって最悪な報せを、告げた。
    「アルハイゼン“前”書記官が教令院から姿を消してから、研究の予算が通りやすくなったんですよ」
     カーヴェは、彼らが己とアルハイゼンの関係の表面的な部分しか捉えられていないことを理解した。彼らはカーヴェが本当に彼のことを心底きらっていると思っていて。自分がスメールシティを離れている間にアルハイゼンが権力を失ったことを、カーヴェは吉報だと思うのだと、心から信じているのだ。
     カーヴェは彼らの態度に、言い様のない嫌悪感を覚えた。彼らは明らかに、物事の裏側にある理由というものを考えようとしていない。家の中で無惨に腐っていた食物たちと同じように、芯までぐずぐずに腐り切った脳みそがそこにあった。教令院もまた、生ける屍で溢れていたのだ。
     死。死。死。どこもかしこも、死で溢れている。あんなに荘厳に見えた教令院も、こうなっては、他より少し大きなだけの棺桶でしかない。気持ち悪い。
     たった一夜で? そんな訳がない。カーヴェは長い間、この都から離れ過ぎていたのだ。
     カーヴェは聡明であったために、今の状況がどれだけ破滅的で、取り返しのつかない程悲惨なものか、克明に理解できてしまった。
     耐え難いような腐臭がもたらす吐き気に耐え、カーヴェは思考を放棄したような顔で、にへら、と表情を崩す。そうすれば、目の前の愚人たちは、カーヴェからのお墨付きを得られたのだと勝手に勘違いして、安心したように息を吐く。カーヴェが“天才”だから。何にも考えず、疑わず、天才の言うことだから正しいのだろうと、盲目な信頼を向けている。
     ああ、教令院は終わりだ。素直に、そう思った。そう思いながら、わらった。
     笑うしかないだろう。こんな、どうしようもない絶望を目の前に差し出されてしまったら。
     そしてそうやって、彼らと同じように権力闘争に明け暮れる愚かな生き物を演じた。
     ――彼らは明らかに何かを知っている。というより、今のカーヴェが知り得ないことへの接続権限を持っている。
     何せカーヴェのアーカーシャ端末は沈黙したまま、依然何の回答もしてこない。大本のシステムに問題がある訳ではないらしいから、恐らく、カーヴェの端末が故障しているのだろう。
     異音はいつの間にかピーピーという不快な警告音に変わっていた。その無様な悲鳴が、カーヴェの精神をどこまでも逆撫でする。
     カーヴェは周囲の関心が己から離れたのを確認してから、耳元の端末を勢いよくもぎ取った。そしてそれを妙論派で使っている研究室の机に置き去りにする。壊れて使えないものを持ち歩いても意味がない。しかし、捨てるのも問題がありそうだ。研究室の机なら、後でメンテナンスしてもらうつもりだった、と言い訳することもできるだろう。
     そもそも、知恵の神クラクサナリデビの権能の一部であるアーカーシャ端末が壊れるなどということは、聞いた試しがない。まあ、スメールシティがこんなに崩壊しているというのも、前代未聞のことなのだが。
     つまり、情も義も気にしてられない位の、特大の異常事態という訳で。
     非合理性を重視するカーヴェは、同時に論駁の標的となる合理性というものについてもよく知っている。論証を組み立てるためには、論拠が必要であるということも分かっている。カーヴェはアルハイゼンが目の前にいなければ、合理的に、残酷に、振舞うことだってできるのだ。カーヴェは建築デザインを己の特別な才を注ぐべき専門分野と心得ているが、それはそれとして、学問領域の端から端まで貪るもう一人の天才との議論を放棄できる訳ではないのだ。己の信念にそぐわないから、積極的に追求しないというだけで、カーヴェはこの世には芸術性と人間性以外の美徳というものが存在することをほんの少し……それこそ頭の片隅に軽くひっかける程度に、理解することだけはしている。だってアルハイゼンに話を振られたとき、その分野については何にも解らない、だなんて、恥ずかしくて答えられたものじゃないだろう。
     それからカーヴェはなりふり構わず、自身に貼り付けられた“輝かしい”レッテルと、人より多少は良い見目を最大限に利用し、全力で情報を収集した。ノイズを気にせず、一つのモレもないよう、徹底的に周囲の人間から話を聞いて回った。
     曰く、彼は大賢者が行っていた素晴らしいプロジェクトの邪魔をしていた。曰く、彼はある日突然発狂し、森の奥に消えた。曰く、彼がいなくなったことで、停滞していたプロジェクトが上手く回り始めた。曰く、ようやく、このスメールに真の神が誕生した。曰く、カーヴェにとっても、目の上のたん瘤であった彼がいなくなったのは、喜ばしいことである筈だ。
     誰も彼も、ろくでもないことしか言わない。空虚な賛辞を掻き分けながら、カーヴェは真実を探した。教令院を、スメールシティを、息が切れて散り散りになっても構わず、まともな知的存在を探して駆けずり回った。
    「あなたには、私の姿が見えるのね。アーカーシャの影響を受けていないのかしら」
     そしてカーヴェは、シティの外へゆっくりと運ばれる棺桶の一つを切なげな目で見つめていた、一人の少女と出会った。ナヒーダと名乗った彼女の、若芽のような瞳の奥には、計り知れない叡智の光が宿っている。一度見れば忘れられない程存在感があるのに、自分以外誰もその存在に気付いていないようだった。というより、彼女の口振りからすると、人間の思考を喰い始めた今のアーカーシャに思考の殆どを依存する今のスメール人では、アーカーシャに彼女に関する情報が記録されていないために、存在を認識できない、というべきか。
    「ああ。……確かに僕は他のやつらみたいに、何をするにもアーカーシャの演算に頼りっきり、なんてことはないだろうね」
     カーヴェは今の状態がアーカーシャによって引き起こされたのだという仮説を立てていた。上から下まで例外なく知識の操り人形と化した今の学者たちと、そうでないカーヴェの最大の違いは、アーカーシャ端末をつけているか否かだ。
     そのような考えを抱くことができたのは、カーヴェが元々アーカーシャに対して、懐疑的であったからだ。自身の専門分野に対して飛び抜けた才を持つカーヴェは、自分で計算した方がアーカーシャ端末を操作するより楽で早いと感じていた。それに、アーカーシャが出す答えはいまひとつ芸術性に欠けていて、それほど魅力的には思えなかった。
     賢者たちが操っていたアーカーシャにできたのは、怠惰な無能に下駄を履かせ、勤勉な凡人に過去の天才と相まみえる機会を与えることだけ。カーヴェの求める創造性は、アーカーシャに蓄積された過去の中にはない。スメールにおける研究とは、まさに、アーカーシャに収録する新しい知識を創り出す作業なのだから。既に現在のスメールの主流とは異なる答えを持つカーヴェにとって、アーカーシャは絶対的なものではなかった。それは、アーカーシャの知識に依存する今のスメールではあまりにも異端な考えであったけれど。お陰で認識災害をすり抜けられたのだと、カーヴェの優秀な直感が告げていた。
     彼女は、カーヴェの空いた耳元と腰元に下げられた神の目を見た。そして少し考えるような仕種をしてから、鈴のような声で告げた。
    「私についてきてちょうだい」
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    Psich_y

    SPUR ME尻を叩かせてください。
    10/27オンリー発行予定


    今世は比較的「普通」に暮らせているある子供が、喋る古代遺物と出逢って運命を知る話。

    ※アベンシオ(広義)
    ※無知転生カカワ×自分をシオだと主張する対概念級古代兵器な火
    ※現代風未来+武器精霊化パロのようなもの
    ※スク→シオの匂いがする
    「知らない天井だ……」
     カカワーシャがこうして覚えのない天井の下で目覚めるのは、二回目だった。
     慣れた様子で上体を起こし、周囲を見回す。
     不思議な紋様の描かれた白い石の壁。少し湿ったような空気。左右対称に立つ、古めかしい装飾の掘られた柱たちが示す先には、閉じた石の扉がある。何らかの呪術的な紋様が施された――それは植物文様か、巨大な鳥の顔のように見えた――扉の奥からは青紫色の光が溢れていて。聳え立つそれらは、まるで美術の教科書に出てくる、古代遺跡の見本のように見えた。当然記憶はない。記憶はないが、心当たりはある。
     かたん。慎重に動かした手が、固いものに当たった。見れば、カカワーシャが寝ていたところのすぐ傍に、透明なキューブが転がっていた。中で、扉の向こうから漏れているのと同じ、青紫色の炎が、眠っているように、緩やかに揺れている。
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