千空の勘違い 教えてもらったこんにゃくの料理が美味しそうだった。だからこんにゃくを買ってきた。常温保存の出来る食べ物だから別に冷蔵庫に入れる必要はない。テーブルの上に大量のこんにゃくを置いていたのはただそれだけの理由だった。
それをどうやら兄の千空は違う用途で使うものだと勘違いしたらしい。
「黒、こんにゃくを使うなら白がいいぞ。黒いやつは摩擦した時に細かい傷になる」
「?」
リビングで千空がそう言った時に俺は気が付くべきだったかもしれない。兄が知識欲と探求欲の塊みたいな人間で、好奇心が旺盛な人間であるということを。一緒に住んでいるのだから、兄が自分と同じ用途で物を扱わないことは今までも多々あった。だが、俺は本当に知らなかったのである。食材と思っていたものの別の利用方法があることを。そのため、兄が何を思ってそんなことを言ったのかさえ想像出来なかった。
細かい粒子で口の中を怪我するのを心配するなんて、そこまで兄は神経質で繊細だっただろうか。口に入れてしまえば同じだろう。
「茹でれば平気だろ。もしかしたら粒がいいアクセントになってハマるかもしれない」
そう答えたときに明らかにぎょっとした千空の顔。その表情の理由がわからずにいる俺。しばらく黙って顔を見合ったまま、沈黙を破ったのは千空のため息だった。
「金がないのか?」
灰汁抜き不要が多少高いとはいえ、こんにゃくの値段は流動性がなく年間を通して安い。その中でも安いお徳用ばかりを買ってきたのを見ての発言か。
「同じなら安い方はいいだろ? ひと手間加えるだけで化けるんだから」
美味しく作って食べてしまえばいいだけ。
「だったら……俺が作ってやるから」
ゆっくりと下を向いた千空は眉を顰めて思いつめたように呟いた。俺は料理が下手ではないし、自分が食べるものだから構わないのだが、不味いものを食べさせるくらいなら自分が作った方がマシということか。
「テメーで試すつもりはねぇよ。作った責任は俺にあるからな」
兄に毒見をさせるつもりはない。
もしかして作ってやるから分け前を欲しいということだろうか。そんなに食べたいのなら作った後にわけてやってもいい。俺もケチじゃない。千空がこんにゃく好きだったとは生まれて初めてたった今知ったけれど好物を目の前に必死な気持ちなのだろう。
「ま、待て! 早まるな! とにかく黒いのは止めろ。黒いこんにゃくを試すのは本当に止めておけ! そいつはドットであってドットじゃねぇ」
慌てる兄を疑問に思いながらもそこまで言うならと、俺は譲歩することにした。
「……じゃあ、白ならいいのか」
添加された海藻粉末の何がダメなんだ。健康的でいいじゃねぇか。しかし……ドットって何だ、粒は粒だろ?
千空の必死振りに押されながらも俺の思考は冷静だった。
「あ、ああ。俺が作ってやる」
「いや、別に俺が自分で作れるんだが」
繋がっているようで会話がちぐはぐな気がする。
最終的に千空に押し切られた俺は数時間後に「出来たぞ、こんにゃくオナホール」と見事に食材から形を変えたこんにゃくを見て全てを悟り、そして崩れ落ちた。
【END】
・中国で芋は魔芋、英語圏で花は悪魔の舌。こんにゃくの呼び方かわいそう。
・昔の黒こんにゃくは芋の皮が混じっていたけれど、最近のは「昔の色のこんにゃくがこんにゃくらしい」という人のためにひじき粉末が混ざっているそうです。