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    レイチュリ🧂🦚
    ワンウィーク 6回目
    手つなぎ・ギャップ

    強かである君 スターピースカンパニーでは、寝る間も惜しんで仕事に打ち込む社員が少なくない。金のため、名誉のため、昇進や人との繋がりのためなど目指すところは人それぞれではあれど、それらが必要とする「成果をあげる」という部分においては共通していた。故にカンパニー本社には泊まり込みで働けるように、もしくは過労で倒れそうなものたちを押し込むために仮眠室が設けられているのである。
     そんな風に身を粉にするどころかその粉を舞わせて火を放つような行為は、まさしく愚鈍のいたすところである、と言わざるを得ない。常々そう思ってはいるのだが、レイシオの恋人でさえも例に漏れず仮眠室の住人と化すことが多いのだから笑えない。そんな彼に会うために、用事が終わったはずのカンパニー内を歩いている自分も。そもそも手渡す必要もない資料を持参した上で彼を探しているあたり、もう手遅れのところに来ている自覚はある。
     仮眠室はあらゆる場所に点在しているが、彼が使う場所は固定されていない。なんでも、高級幹部が常に使用している場所があるのはあまりいいことでは無いのだとか。使いたい人が遠慮して使わなくなっても困る。そう言って、彼は毎回場所を変えるのだ。その真意にレイシオが気付くことを分かった上で言葉にし、明確なことは全てその裏へと隠して。
    「あれ、レイシオ教授?」
     そしていくつ巡っただろうか。片手を超えるか超えないかくらいの時に、珍しく呼び止めるような声が聞こえて足を止めた。
     まず第一として、レイシオに好き好んで声をかける物好きはあまりいない。取り入りたいという野心あるものは一定数いるだろうが、そのリスクが高すぎるのだ。気に入られるのならいい。しかしそこまでたどり着かなかった場合、価値ある話題や会話を提供できなかった場合。それはレイシオがカンパニーに抱く印象にまで影響するだろう。それを理由に今の契約まで打ち切られる可能性だってある。そうなれば無駄な時間を浪費させられたという彼の認識と、価値ある時間を奪って何をしているのだというカンパニーからの評価が待っているのだ。
    「……トパーズか。出張中だと聞いていたが」
    「お久しぶりです。ちょうどその出張から帰ったところで……歩きながらでも良ければ、事前に頂いていたご質問について少しお話できますけど」
    「あぁ、頼む。恐らく方向は同じだ」
     故にカンパニー内でレイシオに声をかけてくるのは技術開発部の一部と、あとは十の石心くらいだ。見た目も声もやかましい彼が筆頭ではあるが、同期であるらしい彼女とも会話をすることは多かった。今回の話題も、元を辿れば彼から提供された情報の一部でもある。
     彼女の出張先の星で充満しているガスが、人には無害でもそれ以外には影響を与えるらしい。そんなことを耳打ちされてしまえば、そしてそれが今の研究分野との共通点を多く含んでいれば、彼女に直接問い合わせるのも時間の問題だった。次元プーマンと常に行動を共にしている彼女だ。後からしっかりとした報告書が回ってくるだろうが、事前に教えて貰えるならそれに越したことはない。
    「影響自体は軽かったんだと思います。でもカブ、お酒に酔っ払ったみたいにふらふらになっちゃって」
    「ふむ……猫がまたたびを摂取したような状態か? 人に無害なのが疑問だな……先住民に影響は?」
    「一切ありませんでした。ただ確かに、人以外の生き物はかなり少なくて……食べ物も畜産じゃなくて魚介が多かったですね」
    「ふむ……魚には影響がないか、それとも水に溶けにくいか……持ち帰りの資産はどれくらいある?」
    「まだなんとも。でもカンパニー内では持て余すようなものになりそうなので、最大限学会の方に回せるよう進言してみます」
    「助かる」
     かつん、かつん。博識学会のべリタス・レイシオ、そして十の石心トパーズが並んで歩いているとすれば、人目を引くのは当然である。しかしそれ自体には慣れている二人だ。気にすることも無く会話を続け歩いていれば、目的地はすぐ目の前だった。
    「……今回は何日帰ってないんです?」
    「僕が把握してるだけで四日になるな」
    「あぁ……もう、自動給餌器も万能じゃないのに」
    「僕の家がペットホテルという名称に変わるのも時間の問題だろうな」
    「えっ彼、まさかずっとあの子たちを預けっぱなしなんですか!?」
    「それが四日前だ。まだ迎えに来ていない」
    「……私からも言っておきま、」
     どんがら、がっしゃん。深いため息と同時にトパーズがそう言った時だった。まるでその声を遮るようにして仮眠室の中からものが割れ、倒れ、そして切り裂かれるような音。仮眠室という場所の特性上、その防音性はかなり優れたもののはずなのだけれど。そして確信するのだ。探し人はこの中にいる。
    「うわー……」
    「はぁ、」
     中から叫び声が聞こえる。男の怒声と、男の悲鳴。そしてまた何かが割れる音。どたんどたん。これは足音だろうか。部屋の中で楽しく追いかけっこでもしているのかもしれない。追いかけられている側からすれば、命の危機を感じるほどの追いかけっこを。
     そして扉が開かれるのと、見知らぬ男がそこからぶん投げられるのはほぼ同時だった。一直線に飛んでいったそれは壁に背中をしたたかに打ち付け、それから地面に落ちた。あまりにも無様な、べしょりという効果音が似合いそうな落ち方である。
    「……あれ、レイシオ? トパーズも一緒なんて珍しいね」
    「……………………はぁーーーー、」
     これにため息をつかずにいることが出来るだろうか。無理だろう。ひょっこりと部屋から顔を見せた彼に見せつけてやれば、心外だと言わんばかりに眉が顰められた。が、レイシオに対する彼からの追求はない。逆に片手に持つ割れた花瓶を見て、まだこれが終わってはいないことを知った。
    「おい、」
    「ちょっと待っててレイシオ。ほぉら、起きて新人くーん? いい夢見てたんだろ? 寝るなんてもったいないじゃないか」
     地面に落ちたままの男の傍へとしゃがみ、手に持った花瓶を顔のすぐ横にごん、と置く。その振動で割れた細かな粒子が男の顔にかかっているが、彼からすれば知ったことでは無いのだろう。目に入ったら失明も有り得るかもしれない。まぁ、同情はしないけれど。
    「僕の服の切り心地はどうだった? あぁいや千切り心地か? 随分好き勝手にまさぐってくれたけど、君は豊満なのよりもこんな薄っぺらい胸のほうが好きみたいだ……あれ、でも恋人は女の子じゃなかったっけ。家同士で決めた許嫁のはずだよね? あちらのご家族も君のカンパニーへの就職を心から喜んでくれてたのに」
     悲鳴さえ上げられない男が実に哀れだ。アベンチュリンの言動の裏にあるのは、「恋人がいながらこんなことをして、それが彼女の家族に知られればどうなるだろうね?」だ。馬鹿なことをしたものである。そもそもが犯罪であるし、それを理由に解雇も有り得るという社内規程だって存在するというのに。
    「でもこんなことをしでかす君だ。今のうちに婚約を解消して、お相手には別の人との機会を与えてあげた方がいいと思うんだけど……ねぇ、君はどう思う?」
    「ぁ、ひ……っ」
    「おーい、僕が聞いているんだけど。答えてくれないかな」
     にっこり。美しい笑顔で問いかけるその様は、今後の彼にとって最も恐ろしいものの象徴となるだろう。
     開いたままの扉から仮眠室を見れば、仕切りとしてかかっていたカーテンは破かれ、置かれていた観葉植物たちは全て床で寝そべっていた。四つ足の簡易椅子は壁に足が突き刺さっているし、散らばった枕も布団もその中身が飛び出てあまりにも無惨である。他の社員がいなかったというのが唯一の救いだろうか。いや、もしこの二人以外に誰かがいたのなら、彼も留まることが出来たのかもしれない。まぁ、後の祭りだけれど。
    「アベンチュリン」
    「なんだい教授。ちょっと待ってね、まだ彼と話さなきゃいけないことが、」
    「気絶している」
    「え」
     ため息混じりにそう伝えるのと、男が泡を吹くのはほぼ同時だった。心底嫌そうに、冷ややかなものを見るようにそれを見た彼の顔は、レイシオへと振り返った時にはもう掻き消えていた。
    「残念。まだ話し足りなかったのに」
    「それよりも君は、この部屋の修繕依頼を早急に出すべきだろう」
    「本当にね。はぁ、新人の給与からの天引きでこれ直せるのかな……これって僕のせいになると思う?」
     花瓶を床に放置したまま立ち上がった彼は、端末でぽちぽちと何かを打ち込んでいく。手馴れている。立ち上がって尚自分よりも下にあるそのつむじを見ていれば、視線に気づいたのか彼が顔を上げた。
    「どうかし、っぅわ!?」
     そしてその顔を見て、もっと言うのであれば彼が見上げてきたせいで見えた胸元を、力任せに破られたらしい服の合間から見えてしまったその頂きを見て。反射的にその腰を引き寄せた。そして引き寄せたと同時に、いつもなら巻いているベルトが無いことにも気がついてしまう。
    「れ、レイシオ?」
    「トパーズ。君の行先はジェイドの執務室か?」
    「はい。今回の出張の報告をしに」
    「彼の休暇申請もしておいてくれないか。彼女ならどうにかするだろう」
    「ここの処理も私の方でやっておきますので、お気になさらず。取りあえずそれは持って帰ってください」
    「そのつもりだ」
    「え、何? っちょ、おい!」
     彼女から言質が貰えたなら十分だろう。抱えていたその荷物を米俵の如く肩へと担ぎあげれば、荷物であるはずのそれがじたばたともがき始めた。とはいえ力の差は歴然であり、彼がレイシオの顔や頭を狙わないのも十二分に知っているのだから放置だ。
    「ではトパーズ、先に失礼する」
    「はい。学会向けの報告会で、また」
     こういう時、位相霊火は非常に便利である。一歩も歩くことなく大抵の場所に移動できるし、今に限れば、彼のこんな姿を誰にも見せずに済むのだから。

     にゃうにゃうと寄ってくる彼らには申し訳ないが、まずはこれを風呂に入れなければならない。そうしなければベッドに投げ入れることも、百歩譲ってソファーに放り投げることもできはしない。決してレイシオが嫌がっている訳では無いのだ。これはアベンチュリンが、潔癖なレイシオの為にと気遣ってやりたがらないだけで。
    「全部脱がすぞ。これらは捨てていいのか」
    「自分でやるって、おい! 聞けよ!」
    「却下だ。とりあえず証拠として残しておくか……おい、手をどけろ」
    「っ、くそ……ッ」
     拒む腕やら何やらを力任せに押さえつけて、その衣服を全てはぎ取っていく。細い手首をひとまとめにしてしまえば観念したようでされるがままだ。裸なんてお互いにもう見慣れてしまっているからこそ、彼が嫌がる理由は何となく察せてしまう。
    「どこに付けられた」
    「……言わせるんだ? いい趣味してるね、レイシオ」
    「僕にくまなく探させたいならそう言うといい。お望み通りにしてやろう」
    「っ、」
     すり、と意図的に太ももの付け根に指を這わせれば、細い肢体がびくりと揺れた。拒んでいる訳では無い。これはそうではなく、罪悪感や後ろめたさの類だろう。アベンチュリン、と問えば、特徴的な瞳がおずおずと向けられる。
    「首……たぶん、右」
    「……あぁ、あるな」
     抵抗しなくなった腕は解放して、言われた通りに右側の髪を少しだけよける。奴隷を示すコードとは逆に赤い、ひとつの斑点。服では隠せないだろう。髪で隠れる位置でまだ良かったと思うべきだろうか。そう思えるほど、レイシオも寛容ではないのだけれど。
    「っ駄目!」
    「……何故」
    「いまは、いやだ」
     上書きしたいと思ったのだ。あの見知らぬ男が付けたものではなく、レイシオが付けたものにしてしまえばいい。より赤く、より大きく。それを許されている自覚はあった。
     なのに、アベンチュリンから返ってきたのは拒絶である。行為中の拒絶しているようでしていない声ではなく、本当に心の底からの声。解放した腕のうちのひとつが、それを守るように覆い隠してしまう。何故、それを。
    「アベンチュリン」
    「……これ、君が付けたものじゃない」
    「知っている」
    「さっき、付けられたんだ」
    「だからなんだ。そんなに大事に取っておきたいのか?」
     苛立ち任せにそう問えば、ふたつの瞳が愕然と揺れる。失態だ。彼ではなく、レイシオの失態だ。そんなことを言うべきではなかったのだ。彼があの部屋で見知らぬ男に襲われたのは事実であり、それを対処したのも事実であり。
    「れいしお、」
    「すまない……僕は、思ったよりも怒っているらしい」
    「っ、ごめ、」
    「君にではなく、あの男にだ。……僕も一度くらいは殴っておけばよかったか」
     その事実に対して、彼が恐怖しているのも事実なのだ。どんなにその対処が手慣れているからといって、それに慣れているわけではない。いや、慣れてはいけない。慣れさせてはいけない。それに恐怖して当然なのだと、そしてその恐怖を隠すべきでは無いのだと、そう言ったのはレイシオなのだから。
    「……これ、さっき付けられたんだ」
    「あぁ」
    「まだ、僕は風呂に入ってないし……拭いても、ないから」
     あれの唾液がまだ残る場所に、そんな綺麗なもので触れないで欲しい。そう言ったアベンチュリンを、何も言わずに抱きしめた。おずおずと回される腕にもう一度その力を込めて、ゆっくりと離す。
    「早く、綺麗にして」

     そんなことを言われれば、応えてしまいたくなるものだろう。できる限りの速さでその身体を磨き上げ、服を着せ、しっかりと髪を乾かしてベッドへと投げる。雑じゃないのかと喚いているそれに乗りあげればすっかり静かになった。
    「……っ!」
     ぎゅう、目をつぶって、シーツを握りしめて。そんな彼の首元に口を寄せた。もちろん、それを上書くためだ。より濃くなったそれに口を離せば、息を止めていたのかと思うような彼がはふ、と息を漏らした。
    「……他に、して欲しいことは?」
    「ぇ、」
    「僕は全部を上書きたい。何をされたか聞いても?」
    「ん……」
     力を抜かせる為に左手を取ってやわやわと揉み込む。今はもう震えていない。けれど、あの部屋から出てきた時には震えていたのだ。彼を投げ飛ばし、脅迫紛いのことをしておきながらも。
    「ふく、を」
     引き千切られて、その中をまさぐられて。何度も何度もベタベタと触りながら、首にあとまで付けて。怒りで震えながら反撃の機会を伺っていたら、それを感じてるって思ったのかベルトまで外しにかかってきて。そのおかげで、一瞬離れた隙にその身体を蹴り飛ばすことが出来たけど。
     これを話すことで、少しでもこの手が震えようものならすぐにやめさせるつもりだった。しかしその懸念とは裏腹に震えることはなく、緊張で固まっていたそれさえ少しずつ緩んでいく。それに比例して声も落ち着いたものになっていった。
    「全部、やってくれる?」
    「君が許してくれるなら」
     とん、と言葉を零すそれに同じものを落とした。片手は繋いだまま、もう片方の手でしっかりととめてある寝間着のボタンをひとつずつ外していく。千切るだなんて勿体ない。ボタンを外すその振動だけで、彼は白い肌を染めるのだから。まさぐるだなんて勿体ない。染まった肌はしっとりと手に吸い付いて来るようで、それを堪能してこそ意味があるのだから。
     レイシオとアベンチュリンの間には、彼の足を滑り込ませることができるだけの空間がある。蹴り飛ばそうと思えば一瞬だろう。でも、しない。レイシオが彼に触れる時、そんな風に拒まれたことは一度もない。寝具や家具を投げつけられたことも、綺麗なだけの笑顔で脅迫されたことも。
    「レイシオ……? っん、」
     ちゃんと抵抗できるだけの隙を与えるように、決して先走って進めることのないように。それでも、彼は決して拒まない。それが愛しい、というのは些かおかしいだろうか。拒む術も、力も、なんならレイシオを社会的に殺すための情報だって集められるだろう彼が。
    「ふ……ん、あは」
    「……どうした?」
    「いや……ふふ。君、可愛いなぁっておもって」
     どっちが、と思う。昼間、仮眠室での彼を見て、あぁまたかと思った。あれは言ってしまえばよくあることで、彼の顔だのなんだのに勝手に欲情したバカへと下された制裁だ。甘い顔と細い身体の裏腹に、彼はそんな暴力的なものを隠し持っている。
     しかし、それを彼がレイシオに向けることは、決して無い。きっと些か乱暴に扱ってしまったところで、相手がレイシオならばと許してしまうのだろう。まぁそんなつもりは未来永劫ないのだけれど、だからこそ思うのだ。地獄の底から這い上がるほどの力を持つ彼を、その逆境を跳ね除けるほどの力を持つ彼を、絶対に大切にしたいのだと。
     扉の反対側から、久方ぶりに見た主人を呼ぶ小さな声が聞こえてくる。申し訳ないが、彼らがその腕に抱き上げられてもらえるのは明日の朝以降になりそうだ。
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