ジェイ監♂(全年齢)あまりにも強い日差しで、貴方が茹だってしまいそうだったから。
その理由を告げずに向けたホースの先。そこから勢い良く出た水は狙い定めた背中ではなく、ちょうどこちらを振り向いた美しく整った顔の真ん中で。
それで……。
「――…ユウさん」
「は、はい」
「仕掛けて来たのはそちらです」
そう言ってニヤリと鋭い歯を見せて笑ったジェイドが手のひらを広げる。するとどこからともなく水が集まり、ゴムボールサイズの水球がいくつも出来上がった。
「あ!ジェイドせんぱいまってっ」
「待ちません」
ヒュッとジェイドが軽く投げたその水球達は不可思議に動き、直撃を避けるために顔の前でクロスした腕の隙間に潜り込んできてユウの顔を濡らす。
あっという間にジェイドよりも顔を濡らしたユウは雑に顔を拭うと、今度はきちんと狙いを定め、ジェイドの顔に向かってホースの先を軽く潰してさらに勢い良く水をかける。
それを皮切りに、オンボロ寮の小さな畑で参加者2名によるびしょ濡れのスプラッシュフェスが始まった。
「わぷ……っ。せんぱいズルい、魔法で弾くのダメ!」
「魔法障壁は使っていませんよ。ほらほら、尾びれががら空きですッ」
「ぎゃー!長靴にはいった!」
ギャーギャーワーワーと楽しげにはしゃぐ二人の声と水飛沫が、青々と育つ夏野菜の葉を濡らす。
トマトやシシトウ、ナスに枝豆トウモロコシ等々。ユウお気に入りの小さな畑は、全力の水遊びのおかげであちこちに水溜まりが出来きるほど白熱した。
それから、
「はい、捕まえました」
「ふはは……、は、捕まっちゃった。降参、こうさんです〜」
暑さと湿気に追いやられ、早々に畑の中を脱出しても続いたスプラッシュフェスは、オンボロ寮の壁際まで追い込まれたユウの言葉で幕を閉じた。
しかしお互いに全身びしょ濡れになったにも関わらず、涼しさよりも不快感が勝ってしまった。
着ていた運動着も肌にピッタリくっついて気持ちが悪い。これは早くシャワーを浴びてさっぱりした方が良いなと、ユウはジェイドに声をかけようと顔を上げると、間近にあったのは物理的に水の滴る色男の顔。
その色男の高い鼻先がユウの低いソレに触れ、伺うような目配せをしてくるからユウは思わず笑って、つま先を立てた。
「……ふふ、ここは冷たく感じますね」
「ジェイド先輩のも冷たいからお揃いです。あ〜でも余計暑い。なんでこんな事しちゃったんだろ」
「おやおや、貴方が始めた事じゃないですか」
「そうなんですけど……。あ、先輩の身体も冷たい。でもあつーい」
「貴方のも。ここもお揃いですね」
クツクツと笑いながらお互いの首に腰に手をまわし、暑い暑いと言いながら触れ合う矛盾にまた笑いながらユウはもう一度つま先を立てる。
「暑いからシャワー浴びましょうか。終わったらご飯食べて、一緒にお昼寝しましょう」
「……こんな可愛らしいことをする貴方と一緒にお昼寝ですか。僕は試されているのでしょうか?」
シクシクと分かりやすく嘘泣きをするジェイドに強く抱き寄せられ、ユウは息苦しさに少し呻く。
しかし張り付いた服のおかげで分かりやすくなったお互いの『変化』に口をモゾつかせると「だから」と口を開いた。
「だから、シャワー浴びて、ご飯食べて、それでまだお互い身体がまだ冷たかったら……あっためてからお昼寝したらどうかなー……って」
もうすでに触れ合う箇所以外も夏の暑さで熱いのだけど、ジェイドはそれを揶揄うこともせず、真顔のままユウを抱き上げ、過去最高の速度で二本の尾びれを動かして走った。
その後、しっかりお昼寝をしすぎた副支配人が珍しくラウンジに駆けて来たのだとか。