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    zenryoudeyasasi

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    遅刻と未完成申し訳ありません、前半のみ一度掲載致します。

    2023/06/03
    支部の方に完成版上がりました!

    #蛸吉
    takoji

    ヴェール・ダウン 蛸の研究をして、十五年経った。ハワイで生物の祖とされる蛸は、その生態も知性も、未だ解明されていない。devil fishという名が表す通り、その恐ろしい印象は特に海外諸国で顕著であり、生物の名を冠する悪魔達の中で、「蛸の悪魔」はひときわ強力な能力を発揮し続けている。

     

     ドアをノックされ、私は立ち上がり、扉を開けた。奇妙な青年が、親指と人差し指で名刺をぶら下げ、此方に見せていた。
     「どうも。研究協力として派遣された、Yです。よろしくお願いします」
     私は虚を突かれた心地がして、黙ってしまった。彼は、墨を注入した様な、底まで黒い目をしていた。本来ならば、そんな瞳の色はあり得ない。人間の瞳の色素は限られているし、また、それとは別に、メラニン量によっても変化する。太陽光に晒されるほど、人の虹彩は黒く染まる。だがそれでも、完全に真黒な瞳というのはあり得ない。彼は肌が真っ白なのに瞳だけが黒い。それは生物として、ちぐはぐで、不自然な有り様なのだった。肌が日に焼けず、瞳だけが焼かれるなど、そんなことがある筈ないのだから。
     私が何か言葉を返す前に、彼は身を乗り出してきた。それで私は扉の横に体を退かせ、彼は遠慮なく、研究室にぐいぐいと入ってきた。
     「それにしても、こんな依頼は流石に初めてですよ……彼女とコミュニケーションを取りたいなんて」
     挨拶がなかったことを気にも留めていないのか、彼はまた、ひとりでに喋りだした。
     「公安なら許可が降りなかったでしょう。あなたが民間のデビルハンターで助かった」
     そして私も、彼の会話に乗っかる形で、先程の沈黙をなかったことにしてしまった。彼の独特な間合いに甘んじて、水に流してもらうことにしたのだった。
     「彼女は気紛れというか、気難しいというか……契約を許されるハンターが少ないんです。だから公安が所有したところで、狐のように大勢と契約させたり、上手く力を引き出すことはできないでしょう。今後も公安に収容されることはないと思います」
     私は戸惑いが消えた訳ではなかったが、彼が落ち着いて仕事の話を進めるのを聞き、いくらか安堵した。奇妙な青年だが、話が通じない訳ではなく、常識が欠如している訳でもなかった。
     「なるほど。……では、早速ですが、確認させていただけないでしょうか」
     「はい、勿論。蛸」
     彼は片手を上げ、人差し指と中指を重ねた。悪魔の召喚の方法は、基本的に、民間人には秘匿されている。蛸の悪魔の召喚を、私は初めて見た。
     磯臭い空気が鼻を突いた。咄嗟に私は、悪寒がした。あまりに生臭かったからなのか、私の嗅覚が直感的に、悪魔の臭いを他と嗅ぎ分けた為かは、わからない。
     気付いた時には、もう天井の角に巨大な蛸の足が這い回っていた。私の鼻筋に、蛸の体液か、海水が(海水にしては粘度が高い)一滴落ちてきた。それも構わず、私は蛸を見上げ続けた。
     吸盤の大きさと列が揃っている。一見して雌だとわかるが、実は、悪魔の性別もまた、未だによく分かっていない。悪魔は討伐され、蘇るごとに、その姿も声も性格も、よく変化する為だ。一説には、その時勢の人々のイメージが反映されていると言われているが、蛸の悪魔は、初めて観測・記録されたと思われる1623年6月3日からずっと、雌だった。当時の目撃者の彩色木版画が残っているが、その絵においても、吸盤は形と列が揃っており、その様な足が、青く黒い海から何本も伸びて、船に巻き付いていた。
     いま天井に蔓延る、赤黒い彼女の肌は、ぬらぬらとしている。生々しい。鱗も持たない彼女は、皮膚をひん剥いた生肉の塊のようで、充血していて、呼吸に合わせてやや収縮していて、やはりひどく不気味であった。私はひどく興奮し始めていた。
     「……本当に、文献で見られるクラーケンのようですね。あるいはロゴ・トゥム・ヘレでしょうか。もし北欧神話の伝承に正確に則った姿なら、その全身は島程の大きさにもなる筈ですが」
     「蛸の完全体を召喚できた例は、いまだありません。歴代の蛸の悪魔との契約者達の記録によれば、呼び出せたのは六〜八本の足のみで、彼女の全長は不明です。もしかすると、頭部と呼べるものはないのかもしれない」
     青年の声は冷静なものであった。私と違って、彼女を見慣れているためだろう。
     「しかしこれまでの人類の恐怖心を考えれば、蛸の悪魔が足しか具現化されていないということは、ない筈ですよね。人々は蛸の足のみを恐れている訳ではないのですから……足の長さは?」
     「不明です。呼ぶ度にサイズが変わっていて……此方の用途に合わせて、勝手に伸縮してくれているような気がします。討伐対象が巨大だったり、使役する場が広い時には彼女の足も大きいし、路地など場が狭い時に召喚すると、小さく細い」
     「蛸は軟体動物であることから、液体の様に何処へでも滑り込める。その印象が、肉体の伸縮能力に関係しているのかもしれません」
     早口になっていることに気付き、私は閉口した。青年は部屋に来てからずっと、薄ら笑うばかりで、私の失礼に眉をひそめることも、私の早口を笑うこともなかった。

     蛸の心理を解明し、あの軟体動物とのコミュニケーションを可能にすること、または、可能にできなくとも、可能な状態へと近づくこと。それが、今回の私の仕事だった。










    ⅰ【蛸であるとはどのようなことか】


     悪魔を殺すのはデビルハンターの仕事だが、殺す以外にも、悪魔を倒す方法はある。それが、さまざまなアプローチによる悪魔の弱体化である。悪魔を衰弱させる毒、その他薬物の開発。メディアやその他媒体による悪魔と、その『名前』の印象操作。キャラクター、又はコンテンツ化。そして、悪魔に付与された能力の分析と解明。

     「蛸はどうして恐れられているんですかね」
     私は、青年の声が甘く掠れていることに気付いた。昨日は、青年の容姿に気を取られて気が付かなかった。
     聴覚情報は大脳辺縁系に届く為、他者からの好意を大きく、本能的に左右する。大脳辺縁系は快・不快をジャッジする脳部位であるからだ。この青年は、その容姿だけでなく、声音も他者を惹きつけるように出来ているということが、私には特筆すべきことのように思われた。正確に言うなら、これ程に人を魅了する要素を持ち合わせているのに、何故、役者などの人前に出る仕事ではなく、悪魔狩りという危険極まりない仕事に手を出しているのか、ということが、特筆すべきことのように思われたのだった。若くして働く以上、彼は金が欲しくて働いているのではないか。もしそうでないのなら、悪魔への復讐心からこの仕事に就いていると考えるしかない。そうでなければ、辻褄が合わないだろう。しかし彼は、自身の契約悪魔に対してあまり嫌悪を抱いていないように見えたのだ。故にこれもまた、辻褄が合わないように思われる。まあそれは、この先、自ずとハッキリしていくのだろう。
     私はその様な思案を巡らせながら、彼のことをじっくりと眺め、カメラの前で蠢く蛸に、目を戻した。
     「見た目の影響が、大きいでしょうね」
     「見た目……」
     「我々の肉体とは、程遠い形をしているでしょう。蛸を地球外生命体だと本気で信じている人もいまだにいます。陰謀論者とか、悪魔グノーシス主義者とかがね」
     「この世界を作った神が全能ではなかったが為に、世界に悪魔は生まれてしまった、というやつですね」
     「はい。だから、この世界の創造者ではなく、それよりも上位の神がいる筈だから、その神を信仰しよう、という考え方です。今でもそれなりに人気がある」
     「蛸が地球外生命体だというのを、その悪魔グノーシス主義者はどうして信じてるんですか?」
     「クトゥルフ神話の影響ですね。この世界にははじめいなかった、外部の存在で、蛸の先祖が悪魔達をこの世界に持ち込んだ、という見方もあるんです」
     「ユニークですね」
     「他人事だと思えば、面白い話です。……まあ、こうした神話が出来てしまうくらい、蛸は異質なイメージがある。とにかく『わからない』という感覚がある。それがエイリアンなどという発想と結びつくのではないでしょうか」
     蛸に対する恐怖は、その哺乳類とかけ離れた姿も大きいが、その「かけ離れた容姿」の根本的な問題は、「未知」であり、未知を強調することにも由来する。人は本能として、未知を恐れる。
     「賢いことは知られていますが、意思疎通は取れないし、見た目もあまりに違う。動いている姿を気持ち悪いと思う人も多い。海洋生物だから、普段どの様に過ごしているかも見かけないし、馴染みがない。『何を考えているかわからない』……未知と違和感は恐怖の源泉です」
     「なるほどなぁ。人間同士でも、肌の色が違うだけで恐れたり見下したりするんだから、あれだけ形がまるっきり違えば尚更か」
     「そういうことになりますね」
     「蛸はやっぱり賢いんですね?」
     「はい、勿論」
     聞くところによれば、デビルハンターは、悪魔の知識をそれ程求められないらしい。契約悪魔以外の識別や、能力がわからないことはザラだと聞く。彼も、蛸の生態には詳しくないのだろう。まだ学生だとも聞いている。
     「蛸は、あの複雑な肉体を使いこなします。それだけでも、高い知性を有していなければできないことです。自分の身体を想像してみれば、どれだけ難しいことかよくわかるでしょうが、蛸は骨がなく、胴体もなく、足は八本あります。その身体を使って天敵から身を隠し、獲物を狩り生きていくなんて、もし自分がやれと言われても、なかなか難しい気がしませんか?」
     「いわれてみれば、確かに」
     「蛸が人の顔をすぐに覚えられることも、判明しています。服を着替えても、髪型を変えても、それが誰か同定できる。研究機関で飼育されていた蛸が、嫌いな職員には墨を吹きかけた例もあるくらいで、相手を選んで態度を変えます」
     青年はジッと私を見た後、蛸を見た。彼が手を差し出すと、蛸の方も、ひときわ細い足先を伸ばし、彼の指に優しく絡めた。私はひどく驚いた。悪魔が人間に恭しく触れる例は、見たことがなかったからだ。
     「なら俺は、顔を彼女に覚えてもらって、気に入ってもらえてるんだな」
     「素晴らしいですね。素晴らしいことだと思います」
     私の頭の中で、二つの事項がぶつかり合っていた。『悪魔が契約者にひどく友好的であるという、希少なケースの観察』への期待と、『悪魔と契約者の稀な信頼関係により、偏りのない平均的な蛸の悪魔の能力観察が、できないかもしれない』という懸念。彼が昨日口にした通り、蛸の悪魔は本来、人間に友好的ではないというか、思考が不明で、人間と頻繁に契約したりしない。そのため、他の人間に蛸の悪魔と契約させて中央値を取ることは難しいのだ。
     「蛸の知性が驚異的であると繰り返し称賛されるのは、蛸が無脊椎動物である為でもあります。脊椎動物と無脊椎動物というだけである区分はとても大きいです。一般的に、知性が高いのはどう考えても、脊椎動物の方ですよね?しかし蛸は無脊椎動物でありながらあそこまで賢いのです。それが謎なんです。無脊椎動物の頂点に立つ知性であり、そして、脊椎動物の我々には、無脊椎動物でありながら、あれだけの賢さを持つ蛸の内面というものを、根本的に理解することは未来永劫無い」
     「未来永劫ないとは、どういうことですか。いまだかつて〇〇先生は、まさにその蛸の内面を暴こうとしているのではなかったのですか」
     「メリーの赤い部屋と同じ話です。赤色を見たことないけれど、本の中で文字の説明によって、赤色がどの様な『感じ』なのかは知っている。燃えるような、エネルギッシュで、興奮させる強い色……そのことを熟知していても、赤色は、実際に見るまでどんな色なのかは、絶対にわからない。主観経験は重要だ、という話ですね。我々は『蛸として生きるとはどんな感じなのか』を絶対に知ることはできない」
     青年は考え込むように首を傾けた。蛸の足がゆっくりと離れていく。
     「蛸の悪魔が好む代償などはありますか?」
     「そうですね……彼女は普段、本体が北海のかなり深いところにいて、自由に捕食が可能です。なので、契約者の皮膚や臓腑を食べたがることはあまりありません。代わりに所有や契約の証を肉体に残したがります」
     「傷を残すなどする、ということですか」
     「そういう例も過去にはあります。俺は目です」
     彼の目が普通でないことは、私も初めに気が付いていた。
     「確かに、あなたの目は奇妙ですね。人間の虹彩の色素からして、そんなに真っ黒になることはない筈だ」
     「流石、お気づきでしたか」
     「義眼ということですか?」
     青年は愉快そうにくちびるを歪めた。そして自らの目を指差した。
     「いいえ、これはちゃんと、俺の肉眼です。ただ、代償として彼女の墨を眼球に注入しました。眼球タトゥー?というやつかもしれない。かなり痛かったし、失明どころか眼球を摘出するリスクも背負いました」
     知能の高い悪魔が複雑な代償を要求することがあるのは、知っていた。しかし、契約者の肉体に悪魔の体液を注入する例は、初めて聞いた。
     「あなたと話していると、新規性の高い話題ばかりで、研究者としては興奮しますね。不謹慎ですが」
     「はは。面白がってもらえるなら、不気味がられるより余程いいです。目玉にタトゥーを施す方法、ご存知ですか?まず麻酔を打つんです。それから、生理食塩水で薄めたインクを注射する……生理食塩水が気化したら、インクが定着するという寸法ですよ。けど、これはあくまで強膜に人工インクを施す場合の話です。俺は白目の部分である強膜ではなく、虹彩に、人工インクではなく悪魔の体液を、入れました」
     蛸の方を見、反応を観察してみる。悪魔は鼻が利くし、人間の言葉をある程度理解している筈だった。でなければ、契約を交わすことができない。蛸の悪魔は、契約者がこの話をしているのを聞いて、なにか思うことはないのだろうか。
     彼女は私の用意した海老や蟹を足先で持ち上げ、足の付根に持っていき、蜷局を巻いて、そしてまた足を伸ばして他の餌に足を伸ばしていた。蛸は建造物や地表を顕現の地点と定め、様々な場から足を出現させることができる。だから、足の付根は壁や床から生えていて、その先は見えないのだ。私は海老や蟹にGPSタグをつけていたのだが、彼女の位置は割り出せなかった。壁や天井の向こうに消えると、GPSの反応も消えてしまう。悪魔の能力を科学技術が凌駕できていないという、そういう現実があった。
     青年は蛸の反応を気にしていないようで、どこかやる気がなさそうな、適当そうな、しかし妙に愛想のいい、不快感を与えない話し方で、その代償の詳細を語り続けた。
     「注射して最初の頃は、目から蛸の墨が溢れてきたんです。黒い涙みたいに。目蓋が痛むし、墨が目から流れ出すと服も周りも汚れるから、一ヶ月程は療養して屋内で過ごしました。施術については随分調べたけれど、上手くいっていればインクが目から溢れるなんてことは起こらない。けれど、俺が注入したのは悪魔の一部だから、普通とは勝手が違うかも知れない。最悪、失明するかもしれない……不安に駆られながら一ヶ月を過ごすと、段々と、目から墨は溢れなくなりました。俺の虹彩に蛸の墨が定着したようです」
     彼はそっと丸い目蓋を撫でた。
     「彼女は俺が代償に耐えたことを評価したのか、契約して以来ずっと優しくしてくれていますよ」
     蛸は相変わらず反応を示さず、私の用意した餌を貪っている。壺の中に入れた蟹も、蓋を容易く開けて取り出すし、鍵をかけた水槽の蓋も力尽くでこじ開けたり、割ったりして中身をごっそり持っていった。無機物の容れ物ごと食べたりはしない。知的な振る舞いだった。
     「……蛸の雌は母性本能が強いから、あなたのような若い男には、特に弱いのかもしれません。一般的に、雌蛸は、卵を産んだ後は急速に衰弱します。食事をやめ、自傷行為に走り、自分で皮膚を剥ぐこともあるほどです。昨今の研究によれば、視神経腺という、哺乳類には無い器官が雌蛸のコレステロール代謝を変動させ、ステロイドホルモンが変化することが原因らしいのですが、詳細はまだよくわかっていません」
     「視神経腺?」
     青年の反応が強くなった。というか、今まで青年は、派遣された職員として当たり障りのない態度と距離感を保っているような気がしていたのだが、それが急に、剥き出しの、本心の、強い関心を表したように見えたのだ。私は少し気が良くなり、べらべらと長いスピーチを始めた。
     「機能としては、我々の脳下垂体に近いと言われています。視神経を切断し雌蛸を盲目にすると、その卵巣は百倍近くまで成長するからです。脳下垂体は性成熟を司る為、視神経腺が同様の働きをするならば、脳下垂体のようなものとして位置づけることができます。雌蛸から視神経腺を除去すると、卵を守るのをやめて捕食活動を再開し、数ヶ月長生きするとの報告もあります。母性や性成熟に関しては、やはり視神経腺が鍵なのです」
     「母性と性欲の鍵ですか。そういうの、身体の臓器をいじれば、愛も操作できるんですね」
     「ショウジョウバエなんかも、脳をいじれば雄同士でしか交尾しなくなります。そうした実験は盛んです。心がどこにあるのか、学者も興味津々なので」
     彼は可笑しそうにまた笑った。若者相手に学術的な会話は受けないだろうと踏んでいたが、これはなかなか刺戟的な話題だから、思春期であろう学生の興味も引くことができたのかもしれない。
     「視神経腺を除去せずに蛸を長生きさせてやる方法はないんですかね。ほら、蛸って近年、西洋でも徐々に食されるようになってきて需要が高まってますけど、一方で養殖が難しいんでしょう?食用となると雄より雌の方がいいし……長生きするようになれば、色々役に立つんじゃないですか?」
     「その鍵は恐らくスミス・レムリ・オピッツ症候群ですね」
     「スミス……症候群?」
     案外、彼は興味津々なかんじだった。私は段々と面白くなってきた。
     「これは人間の遺伝病なんです。7-デヒドロコレステロールをコレステロールに還元する酵素があるんですが、その遺伝子が変異し、コレステロール産生の低下によって発生する症候群です。この遺伝病は実に様々な症状を引き起こすのですが、その一つに『自傷行為を繰り返す』というものがあります。これが、卵を産んだ雌蛸の行動に似ていると、とある研究チームが述べています。なかなか説得力があります」
     「なるほど……その病気の治療法は?」
     「確立されていません。難病です」
     私は、青年がまた面白そうに笑うと思っていた。だが青年は、先程のように首を傾げ、考え込む素振りを見せた。やがて「そうですか」と呟き、真面目くさった目を悪魔の方へと向け、そのままずっと見つめていた。私は、人の感情の機微があまり読めない自覚があったが、彼のことは、人並み以上に読めなかった。それは、私の能力不足だけのせいではないのだろう。彼はやはり、不思議な青年だった。
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    zenryoudeyasasi

    PAST⚠シリアス 笑えるところ一個もない
    ⚠捏造
    ⚠ちょっと岸←吉ブロマンス感ありですが腐向け要素はありません カプ抜き

    17巻の表紙も裏表紙も吉田祭り♡♡いっぱいしゅきしゅき♡♡とか浮かれてたら中扉見て気絶したって話です なにあれ?
    命は地獄に置いてきた 彼が笑わなくなっていたことには、すぐに気付いた。落としたコンビニの握り飯を拾い食いし、安いハンバーガーのチェーン店に屯するだけでひどく楽しそうに生きていたのに、学校は楽しくないのか。そう思ったが、彼が笑わなくなった理由など、あまりに明らかであった。












     目覚めた。眠い。
     重く倦怠感に満ちた身体を起こし、目覚まし時計を止める。窓の外を見ると、曇り空だった。きっと午後から天気が崩れるだろう。微かに片頭痛がする。
     嫌だと思いながら、ベッドを降りて、トイレを済ませて、歯を磨いて、着替える。六個入りで売られている安いバターロールを袋からひとつ取り出して、齧る。朝は食欲がないのだが、少しでも腹になにか入れておかないと身体が動かない。それから頭痛薬を水で流し込み、外に出る。電車は混むし彼も乗らないから使わない。徒歩で通学する彼のために、吉田もまた徒歩で学校に向かう。
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     ドアをノックされ、私は立ち上がり、扉を開けた。奇妙な青年が、親指と人差し指で名刺をぶら下げ、此方に見せていた。
     「どうも。研究協力として派遣された、Yです。よろしくお願いします」
     私は虚を突かれた心地がして、黙ってしまった。彼は、墨を注入した様な、底まで黒い目をしていた。本来ならば、そんな瞳の色はあり得ない。人間の瞳の色素は限られているし、また、それとは別に、メラニン量によっても変化する。太陽光に晒されるほど、人の虹彩は黒く染まる。だがそれでも、完全に真黒な瞳というのはあり得ない。彼は肌が真っ白なのに瞳だけが黒い。それは生物として、ちぐはぐで、不自然な有り様なのだった。肌が日に焼けず、瞳だけが焼かれるなど、そんなことがある筈ないのだから。
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