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    kneedeephigh

    @kneedeephigh

    勢いと元気しかない
    一次創作と二次創作、全年齢とR-18が入り乱れてるのでご注意ください!

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    kneedeephigh

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    【Hizatteシリーズ】
    ・Hizatteとは私の作った架空ユニットです。夢ノ咲やESの世界線のユニットではありません。
    ・原作から設定を引き継いでいるものもありますが、基本的にオリジナル設定です。
    キャラの性格、口調等はおよそそのままですがキャラ同士面識がないことがあります。
    ・架空の人物が存在します。プロデューサーの性別はお好みで想像してください。

    Road to Hizatte ~episodo 0~ 冬の一大イベントであるクリスマスも終わり、世間は新しい年を迎えようと忙しなく動いている。しかし、一部の人間だけは暇を持て余していた。
     築六十年の雑居ビルにある、テナントの一角に彼らは集まっていた。おんぼろのドアに似つかわしくない、ピカピカのプレート。
     『ヒザムリンク芸能事務所』と書かれたその奥から、一人の少年の叫びが今日も聞こえてくる。
    「だから~っ! もう町おこしのイベントには出演なんてしないってば! 前にプロデューサーに言ったよね!?」
     姫宮桃李は渡されたチラシを見るなり、プロデューサーに詰め寄った。小柄な身体から煙が出ているのかと思う位、憤怒している。桃李の激怒をどうにかかわそうとするプロデューサーは、へらへらと苦笑いするしかなかった。事務所の空気が重い。
     それを宥めるように、まぁまぁと言いながら仙石忍がチラシを拾う。
    「拙者は良いと思ったでござるよ! 『年末わんこ蕎麦早食いリレー』なんて滅多に見られないでござるし! しかも拙者たちが司会……」
    「どうせ蕎麦の配膳係もさせられるんでしょ! クリスマスの時もそうだったじゃん、商店街でガラガラ抽選会のスタッフまでやらされてさ! 可愛い衣装が逆に浮いてたよ!」
     ぷんすか怒る桃李の言う事も一理あると思い、忍はそれ以上何も言えなくなる。
     確かにあの時は一曲しか歌わせてもらえず(しかも、のど自慢大会の飛び入り参加枠として出演)あとは雑用というザマだった。プロデューサーのところにはアイドルとして仕事の依頼が来たのだが。
     終始浮かない顔をしていた白鳥藍良が、やっと口を開く。と思ったら、素っ頓狂な事を言い始めた。
    「おれ早食いってニガテなんだよねェ……大丈夫かなァ」
    「うにゃっ、なんで白鳥は早食いに参加する前提になってんの!?」
     有り得ないという表情で、桃李は藍良を睨んだ。藍良は謙虚で控えめな性格であるが、たまにずれている。
    「皆さん、お茶が入りましたよ。ほら、桃李くんもどうぞ」
     紫之創がのんびりとした口調でティーセットを持って現れた。人数分のティーカップを手際よくテーブルに並べると、並々と紅茶を注いだ。
    「紫之殿、いつもかたじけないでござる」
    「わぁい、紫之先輩の淹れてくれる紅茶だ~い好きっ♪ おれも今日はクッキーを持ってきたよォ」
     姫宮桃李は愕然としていた。どうして自分以外のメンバーは、こんなにも呑気なんだろう。とにかくアイドルとして一緒にユニット結成してからというものの、ロクな仕事しか来ていない。お茶会をしている場合ではないのだ。
    「それもこれも、ユニット名がダサいから三流の仕事しか来ないんだよ!」
     桃李が勢い良く立ち上がったせいで、カップから紅茶が溢れ出しそうになる。
     もう、何度目になる訴えだろうか。桃李は『Hizanco』という名前が気に入らなかった。まるで『道産子』のような響きで、あたかもご当地アイドルみたいで嫌だった。
     可愛い容姿揃いの、ショートパンツが似合う活発なユニットにしたいという思いでプロデューサーが付けたらしい。自ら芸能事務所を立ち上げるために、桃李らをスカウトした。というより、プロデューサー以外にスタッフなどいなかった。
    「ボクは『ピィチーズ♡』がいいって言ってたのに~! ねぇプロデューサー、もっと他に仕事ないの? し・ご・と」
     ぐりぐりと肘で頬を抉られているのに、よっぽど桃李が可愛いのかプロデューサーは嬉しそうだ。
     ふと、スーツの胸ポケットに入っている手紙に気が付くと、桃李はサッと奪って見せた。
    「なになに、ボクへのファンレター?」
     首を振るプロデューサーにも目もくれず、躊躇いなく封を開け便箋を取り出す。几帳面な字でづらづらと文章が書かれている。
    「えっ!『是非折り入ってHizancoさんにお願いしたい事があります。教会でミニライブをして欲しいのです』だって!」
     さっきまでの不機嫌は何処へやら、喜びのあまり桃李は飛び跳ねた。バンザイをしながらぴょんぴょん小躍りしている。無理もない、アイドルになって初めて正式にライブの依頼をもらったのだから。
    「教会で? どうして教会でござるか?」
    「確かに……続きを読んでみましょう」
     桃李の手から軽やかに奪うと創は手紙の続きを読み上げる。
    「ううんと、『聖歌隊の同じメンバーである男の子を励ましたいのです。御礼は、当方高校生のため資金がなく先日のクリスマス会で余った菓子等々……』ってこれ、またボランティアみたいなものなんじゃあ……」
     プロデューサーの顔色がサッと青くなる。桃李は状況についていけず、フリーズしている。フォローするように藍良が明るく振る舞った。
    「お、お、おれ、お菓子好きだよォ!」
     よく考えれば分かる話だが、条件のいい仕事なら真っ先にプロデューサーはメンバーに話していたはずだ。それを手紙を隠し持っていた時点で疑うべきだった。
    「せっ、拙者もお菓子大好きでござる!」
     幸運だったのは、プロデューサーがスカウトしてきた子達は素直でいい子だった――一人以外。
    「はぁ~!? おまえたちアホか~っ! なんでお菓子のために働くんだ~っ!!」
     案の定、桃李だけが大反対。ですよね、という表情で手紙を胸ポケットにしまうプロデューサー。
    「でも、気になりませんか? その、手紙の差出人の方、困ってるみたいですし」
     創はうーんと唸ると、こう提案した。
    「明日から冬休みですけど、桃李くんご予定は?」
    「うっ……何もないけど……」
    「宿題、一緒にやる約束でしたが……ごめんなさい、できないです」
    「ええっ、なんで!」
    「ぼくは手紙の件が気になるので、ぼくだけでも会いに行っちゃおうかと」
     大人しそうに見えて実は行動力のある創。たちまち桃李はタジタジになった。
    「拙者も同行するでござる!」
    「おれも! 教会って行ってみたかったんだァ!」
     自分抜きでワイワイと盛り上がり始めると、途端に寂しさを覚える桃李。待ち合わせの件で三人が相談している中へ割り込む。
    「分かったよ! ボクも行けばいいんでしょ!」
    「はい、一緒に行きましょう♪」
     リーダーである桃李の性格を理解して手綱を引いているのはプロデューサーでもなく、見事に創だった。

     とりあえず詳しく話を伺うべく、一同は手紙の主――『仁兎なずな』という人物に会ってみることにした。名前から男か女か判別が付かなかったが、高校生と手紙に書いていたから年はそんなに変わらないだろう。
     待ち合わせの時間に教会に訪れると、門の前で掃き掃除をしている人がいた。
    「こんにちは、『Hizanco』の紫之創です。仁兎なずなさんとここでお会いする約束をしているのですが……」
    「おお、おまえたちよく来たな! おれが仁兎なずなだ」
     自分達と変わらない背格好の華奢な少年が、片手を差し出し握手を求めてきた。初対面とは思えない、友好的な態度に緊張もほぐれていく。
    「よろしくお願いします。ぼくの左隣から、仙石忍くん、白鳥藍良くん、姫宮桃李くんです」
     固い握手を交わし、創はすぐさまメンバーの自己紹介をした。うんうんとなずなは頷き、そっと門扉を開ける。
    「寒いだろうから教会の中へ。今日はもうミサも終わって今は誰もいないんだ」

     教会の礼拝堂へと足を踏み入れると、窓のステンドグラスから太陽の光が差し込み、その美しさに息を呑んだ。神々しい風景に、なずなの黄金色の髪が光に透けて天の使いのようだった。
     通称ピュウと呼ばれる椅子に座り、なずなは事のあらましを説明した。
    「励ましたいその子……『ペイジ』っていうんだけど」
    「可愛い名前! ハーフなんですかっ?」
     興奮して思わず声を荒げた藍良に申し訳なさそうになずなは笑う。
    「いや、思いきり日本人。漢字で『頁』って書くんだって」
    「うっ……キラキラネームとも言いがたい、変な名前……」
     露骨に眉をしかめた桃李が可笑しくて、なずなはプッと吹き出した。
    「だよな、おれも初めは名前と顔が一致しなくて戸惑ったもんな。ペイジは暴れん坊のガキ大将みたいな顔してるよ」
     聖歌隊には歌を覚えさせたら少しはおしとやかになると思って親が入れたらしい。
    話を聞くと予想以上に複雑な状況だった。年内に親の離婚が決まったがペイジの親権で揉めている最中で、とりあえず父方の九州の実家に預けられる事になったらしい。
     両親のいざこざでとてもクリスマスを祝うどころじゃなかった。それは分かる。
     しかしなずなは、毎週日曜日に教会で行われる聖歌隊の練習の後、休んでいるペイジが気になり、家まで行った。その際に見てしまったのだ。
     玄関に置かれたツリーが、何の飾りもなく寂しげに立っていたのを。
    「……お節介かもしれないけどさ、さすがに可哀想になっちゃって」
     なずなは、教会でのクリスマス会も塞ぎ込んで来なかったペイジを元気付けたいと思った。どうしても、九州へ旅立つ年末までに彼の笑顔を取り戻したい。しかし、具体的に何をしたらいいか分からなかった。
     そんな時、エネルギッシュにステージを駆け巡っていた桃李たちの姿を見た。それは、とても小規模で簡易的な特設ステージで。ダンスも全然揃っていなくて、音程も不安定。まだまだ力量不足のアイドルだったけど。
     どの子も、瞳が眩く輝いていた。なずなは目が離せなかった。
    寒空の下、ショートパンツで溌剌と踊っていた。寒さで膝が少し桃色に染まっているのも愛らしいと思った。
     たった一曲だけ披露してHizancoと呼ばれた彼らはステージから去っていった。茫然と突っ立っていると、見知らぬ人にチラシを一枚渡された。
    「興味があったら、どうぞ」
     そのチラシには『仕事募集! 所属アイドル募集! ヒザムリンク芸能事務所』とでかでかと書かれていた。なずなは、丁寧にそのチラシを折り畳み、ジャンバーのポケットに入れた。
    「そして、おまえたちに依頼したんだ。でも、無理だったら断ってくれていい。そもそもライブなんてやってもクリスマスは戻ってこないもんな」
     切実な顔をしていたのに、なずなは他者を巻き込んでしまった事を少し後悔していた。他力本願もいいところだよな、と謝る。
     なんて言ってあげればいいのか、言葉を探している内に沈黙になる。駆け出しのアイドルである自分達がそんな安請け合いをしていいのか。
    「……やろうよ、クリスマス」
     誰よりも真っ先に、桃李が声を上げたのでHizancoの他のメンバーは皆、目を丸くした。いつも人のためにやりたがらない桃李が。
    「だって、可哀想だよ。クリスマスが嫌な思い出で終わっちゃうの。そんな悲しい事ないよ……子どもたちはいつだって愛されるべきでしょ?」
     両親が多忙でなかなかクリスマスを一緒に過ごせない桃李だからこそ、分かるものがあるのかもしれない。
    「ボクのクリスマスは、創たちと目まぐるしく過ぎていったけど、賑やかで退屈しなかったよ。予定外の福引き係なんてものも押し付けられたけど」
     楽しかったとは素直に言えない、だけど桃李なりに伝えてくれた気持ちが嬉しかった。創はこくんと頷く。
    「はい! やりましょう! ぼくたちでもう一度クリスマスを!」
    「拙者も頑張るでござる! 楽しい行事は何度やってもいい!」
    「うんうん……先輩たちがやる気ならおれもいつもの百倍頑張るよォ♪」
     こうして、Hizancoとなずなは協力して、クリスマスミニライブを決行する事になった。

    「おまえら、ここの動きはこれでいいか?」
     冬休みでクラブ活動のない時間を狙って高校の体育館を借り、必死に連日レッスンに励んだ。
     元々運動神経が良いのだろう、なずなは振付を覚えると颯爽と踊ってみせた。
    「わぁ、仁兎先輩、上手ですねェ♪」
     藍良がなずなの俊敏なダンスに感動し、拍手をする。おまえらだけに全て押し付ける訳にはいかないと、なずなも進んで練習に参加した。
    「ふんっ、まぁまぁやるじゃん」
     憎まれ口を叩きながらも桃李はなずなの実力を認めているようだった。
    「ペイジ殿、ちゃんと来てくれるでござるか……?」
     不安げになる忍を創がすぐさま励ます。
    「きっと来てくれますよ、ぼくは信じてます。会った事もないのに不思議ですけど、仁兎先輩を慕ってる子ならいい子だと思うんです」
    「そんな買い被りすぎだぞ~。でも、おれもペイジは来ると思う。絶対、来てほしい」

     ミニライブの日、当日。ペイジには引っ越す前に最後に渡したいものがあると、なずなが教会に呼び出した。真冬にもなるとまだ十六時だというのに辺りはもう薄暗い。ペイジが約束通りやって来たが、教会に入っても一帯は暗闇に包まれている。
    「な、なずなに~ちゃん……?」
     いつも呼んでいる名前を恐る恐る口にした。大好きななずなに~ちゃん。その姿が見えなくてどんどん不安が膨らむ。
     すると、ゆっくり、周りにキャンドルが灯り始める。だんだんと明るくなって、目が慣れてくるとなずなの姿を見つけた。
    「遅かりしクリスマスライブへ、ようこそ♪」
     真っ白のケープに、ふわふわのティーペット。大きなリボンを胸に纏い、もちろん元気に膝を出して。見たことのない姿にキョトンとするペイジに、なずなは優しく微笑む。
    「初めまして、ペイジくん。少しだけですが楽しんでくださいね」
     創が軽く会釈するその姿はまるで天使のようで、ペイジは美しさのあまりポカンと口を開けた。
    「ペイジ殿も一緒に楽しむでござる! にんにん♪」
     頭につけた帽子が飛んでいってしまいそうになる位、忍が大きくジャンプした。
    「一生懸命やるから楽しんでねェ♪ あいらぁぶ♪」
     藍良が指で可愛くハートを作ると、ペイジ目掛けて投げる仕草をする。効き目は抜群で思わずペイジの顔は綻んでいる。
    「せーのっ!」
     なずなが大きく合図すると、たちまち礼拝堂にパイプオルガンの音色が鳴り響く。弾いているのは桃李だった。小さな手足をぱたぱたと動かして全身全霊で音楽を奏でている。演奏しているのは讃美歌一一二番、『もろびとこぞりて』――。ペイジの大好きな曲。ぱぁっと一気に表情が明るくなる。
     次に、ハンドベルをメンバーたちはそっと衣装の袖から取り出した。りんりんと鳴るその音色はまるで、サンタのソリのようで。聞いているだけで楽しくなってくる。
    「まだまだこれから! いっくよ~!」
     演奏していた桃李が手を止め、四人の横に並ぶ。すると曲調がガラリと変わり、軽快なポップ調の『もろびとこぞりて』が始まった。曲に合わせてオリジナルの振付でくるくると踊り出す。
     振付も一から皆で考えた。自分達で悩んで創り上げたステージ。この場所に立っていられる事がなずなは嬉しかった。Hizancoに助けを求めて良かった。
     それはメンバーも同じだった。誰かのために、そして自分を輝かせるために必死になれた事が嬉しい。
     その気持ちが伝わったのか、ペイジも自然と口ずさんでいた。聖歌隊でなずなと一緒に何度も練習した思い出の曲。
     本当はクリスマス会で一緒に歌いたかった。でも、いじけてしまった。なずなに会わせる顔もなくて。そんな後悔を跳ね飛ばしてくれるような素晴らしいサプライズに、ペイジははしゃいだ。
    「さぁ、一緒にツリーに飾り付けしよう」
     なずなは籠に入ったオーナメントを一つ、ペイジに差し出す。まだ何もないツリーがそこにはあった。ペイジは松ぼっくりをそっとツリーに吊るす。
    「拙者はどれにしようかな♪」
    「いっぱいあるから迷っちゃうよねェ」
     ツリーが色鮮やかに次々と彩られていく。会話も弾みながらあっという間に残り一つ。
    最後のトップスターをペイジに握らせて、なずなは自分の膝の上に立たせた。
    「ほら。これで最後だ」
     ギリギリ手を伸ばせばツリーの頂上に届く。しかし、あと少しのところでペイジは突然、身動きしなくなった。
    「どうした? 早くお星さまを――」
    「……サンタさんなんて本当はいないんでしょ」
     それだけ言うと、ツリーに伸ばしていた手を引っ込め、なずなの膝の上から降りた。 
     じっと自分の靴先を見つめ、ペイジは押し黙る。
    「えっ、い、いるよォ! ペイジくんがいい子にしてたからこうやってお兄ちゃんたちはサンタさんに頼まれて来たんだよォ!」
    「そ、そうでござるよ、クリスマスの当日にサンタ殿が急用で行けなくてペイジ殿に申し訳ないと申されてたでござる」
    「きっとギックリ腰か何かだったんですかね~、あはは……」
     藍良と忍が何とか誤魔化そうと笑顔で取り繕う。焦る二人を横目に、創も調子を合わせた。
     さっきまで嬉しそうだったのに、急にどうしたんだろう。それともさっきの、自分達のダンスや歌が駄目だったんだろうか。
     それぞれ思い思いに心を込めて準備した。依頼された仕事というよりかは、初めてメンバー全員で一丸となって打ち込めた時間だった。
     ペイジには伝わらなかったのだろうか?
    「だっていい子にしても、どうせいなくなるもん! パパとママみたいに……!」
     ペイジの悲痛な叫びに、桃李は思わずハッと口を押さえた。
    「僕、いいんだ、サンタさんが来なくたって。僕が本当にそばにいてほしかったのは……」
     それ以上、言葉にすると瞳から涙が零れ落ちそうで、ペイジはまた黙る。
     静かに深呼吸すると、一人一人の顔を見た。
    「でも、今日は嬉しかったよ。お兄ちゃんたち、ありがとう」
     か細い、今にも消えそうな声で、ペイジは無理に笑った。小さな身体がぶるぶると震えている。泣きたいのを我慢している。こんな自分よりも幼い子が。
     皆必死で涙を堪えた。だけど、駄目だった。誰よりも先に桃李が泣き出した。
    「う……うわぁあん!」
     誰だってひとりは寂しい。知らない土地でひとりになるかもしれないという恐怖。でもこの子は一生懸命現実を受け入れようともがいている。
     なずなは、優しく包み込むようにペイジを抱き締めた。
    「ピンクのお兄ちゃんが先に泣いちゃったな。おまえも泣いていいんだぞ」
     泣き顔を見られたくなくて、なずなは気丈に振る舞う。
    「ひっく……そうだよォ、泣きたい時は泣いたらいいよ!」
     スンスン鼻を啜りしゃくりあげながら藍良が言う。ペイジは我慢していた思いの丈が溢れ出しわんわん泣いた。
    「ごめんね、なずなに~ちゃん。大好きだよ……っ」
     皆で大泣きして、泣き止む頃にはすっかり夜になっていた。



    「なずなに~ちゃん、あのお兄ちゃん達みたいになってよ」
     一番泣きべそだった桃李がようやく落ち着いた頃。すっかり元通りに、仲良しになったなずなに抱っこされ、ペイジは桃李らを指差した。さっきまで泣いていたのにケロッとした様子で饒舌に喋る。
    「お兄ちゃんたち『アイドル』っていうんでしょ? なずなに~ちゃんもアイドルになってほしい! さっきカッコ良かったもん! そしたらいつか、テレビにもいっぱい出るよね。映ったら、僕いっぱい手を振るから! サンタさんよりたくさん会えるからアイドルがいい!」
    「ええ、っと。そんな簡単になれるもんじゃなくてな……」
    「なれますよ! ねっ、みんな!」
     創がなずなの手を取り、大喜びで迎え入れようとする。
    「ちょ、ちょっと。何勝手に決めてんの!? リーダーはボクなんだけど!」
    「あれ、桃李くんは反対ですか? あんなにダンスを合わせる時……」
     しゅんと創が落ち込んだ表情を見せると、桃李は何だか悪い事をした気分になった。
    「誰も反対とは言ってないでしょ! ふ、ふん。好きにしたら」
    「やったぁ♪ 桃李くんも認める逸材ということで、仁兎先輩よろしくお願いします」
     有無を言わせない笑顔に、なずなは覚悟を決めるしかなかった。
    「分かったよ。これからよろしく」
     ワッと沸き起こる歓声と拍手に、ペイジもぱちぱちと手を叩いた。そして、なずなに屈んで欲しいとせがむと、なずなの帽子にツリーの星を着けた。

    「なずなに~ちゃんが僕の希望の星だよ……☆」
     


     新年を迎え、一月中旬。ペイジから事務所に手紙が届いた。九州の祖父母に可愛がられて楽しく正月を過ごしたらしい。元気そうな様子になずなはほっと胸を撫で下ろした。
    「ふふっ、嬉しそうですね、に~ちゃん。あっ……すみません、馴れ馴れしく呼んでしまいました」
    「いいよ、に~ちゃんって呼んでくれても」
    「いいんですか? ぼくも家では兄の立場で、ずっとお兄ちゃんが欲しかったんです。やったぁ、に~ちゃん♪」
     照れくさそうに自分を慕う創が可愛くて、なずなは目を細めて微笑む。
    「ちょっとちょっと! どういう事~っ!」
     和やかな空間へ、どかどかと大きな足音を響かせて、桃李がやって来た。怒りを抑えようと忍と藍良がテコンドーについたが、すでに吹き飛ばされてしまい話にならない。
    「ユニット名変えるって、新入りが何の権限で! Hizancoから名前変えるならリーダーのボクを通してからでしょ!?」
    「それが、プロデューサーが、好きに決めていいっておれに言ったんだよ。ごめんな、桃ちん」
    「さてはお菓子で買収したな~っ! うにゃ~っ!」
     取り乱す桃李を、よしよしと創が宥める。
    「それで、どんな名前に決めたんですか?」
    「拙者も気になるでござる!」
     なずなは鞄からルーズリーフとペンを取り出すと、誇らしげに書き出した。
    「讃美歌のように決められた通り、綺麗に歌うんじゃなくて、自分の意志で立ち向かっていきたいって思ったからさ。おまえたちと」

     両膝をついて諦める事。膝を抱えてひとり泣き入る事。
     どれも簡単だけど。
     人形じゃなくて、おれたちは人間だから。悲しいと泣くし嬉しいと笑う。
     転んで擦りむいても負けじと。また立ち上がる膝に、おれはなりたい。
     
     マリオネットの綴り『marionne-』を二重線で打ち消し、なずなは『Hiza』と書き加えた。
    「今日からおれたちは『Hizatte』だ!!」

     膨れ面をした桃李が、悪くないじゃん、と零す。
     いつの間にか背後で一部始終見ていたプロデューサーが、グッと親指を立てた。

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    kneedeephigh

    DONE【Hizatteシリーズ】
    ・Hizatteとは私の作った架空ユニットです。夢ノ咲やESの世界線のユニットではありません。
    ・原作から設定を引き継いでいるものもありますが、基本的にオリジナル設定です。
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    ・架空の人物が存在します。プロデューサーの性別はお好みで想像してください。
    Road to Hizatte ~episodo 0~ 冬の一大イベントであるクリスマスも終わり、世間は新しい年を迎えようと忙しなく動いている。しかし、一部の人間だけは暇を持て余していた。
     築六十年の雑居ビルにある、テナントの一角に彼らは集まっていた。おんぼろのドアに似つかわしくない、ピカピカのプレート。
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    「だから~っ! もう町おこしのイベントには出演なんてしないってば! 前にプロデューサーに言ったよね!?」
     姫宮桃李は渡されたチラシを見るなり、プロデューサーに詰め寄った。小柄な身体から煙が出ているのかと思う位、憤怒している。桃李の激怒をどうにかかわそうとするプロデューサーは、へらへらと苦笑いするしかなかった。事務所の空気が重い。
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