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    suzuro_0506

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    suzuro_0506

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    サーヴァントと人間の高高
    戦いの後、宴の夜

    無題2「君、僕の代わりに皆と呑んで来たまえ」
    「は?」
     幕府軍による征討をしのぎ、一旦の休息の時を得た奇兵隊と彼らを支持した民たちの間で、今夜は宴が催されていた。総督である高杉も当然参加するものと、彼にサーヴァントとして付き従う身であるもう一人の高杉は思っていたのだが。意外なことを人間の彼は口にした。
     総督のため用意された簡素な部屋。高杉の希望で人払いがされている室内には、二人の高杉の他に人はいない。
    「そう豪勢なものではないだろうが、それなりの酒も料理も出る。ああ、誰かが芸姑を呼ぶとかも言ってたな……。君、賑やかに遊ぶのは好きだろ」
    「それは勿論好きだが。代わりに、ってことは晋作は行かないのか?」
    「そうだ。僕は今のうちにやらなきゃならん仕事がまだいくつか残ってる」
    「へえ、随分仕事熱心じゃないか」
    「こう見えて真面目だからな、僕は」
    「自分で言うのかよ」
     片割れの返しに薄く笑ってから、ふいに息が詰まった様子で、総督たる高杉は一つ二つと咳をした。
    「僕も行きたい気持ちはあるが、まあそういうわけだ。欠席して総督不在を気にかけさせるのも悪い、というわけで君に代理を頼みたい。代理と言うか、僕のふりをして僕として行ってきてもらいたい」
    「ふーん……。まあ、いいだろう」
    「助かる」
     サーヴァントである高杉が、長髪姿から人間の高杉と同じ容姿へと変わる。服も魔力で編まれた同じものを身に着けるが、上着だけは人間の彼が着ているものを借り受けて、高杉は部屋を後にした。



     日付がそろそろ変わるかという頃。
     あとは一人でゆっくり飲みたいと告げ、少しの酒と料理を手土産に、高杉は総督の自室へと帰ってきた。
     宴の場からは少し距離のあるこの場所には、賑やかな話し声は届いていない。時々鳥の鳴き声が聞こえるくらいである。外で見張りをしている兵が退屈そうに欠伸をもらすのを横目に見ながら、高杉はそっと戸を開け、室内へと身を滑り込ませた。
     静かに戸を閉め、片割れの姿を探し狭い室内を見る。壁際に寄せられた文机に、小豆色の頭が突っ伏していた。
     高杉が部屋を出た時と変わって、着流し姿であった。脱いだ服が隅に掛けられている。上の服は洗いでもしたのか、濡れていた。
    「おーい、戻ったぞ」
     声をかけるが、顔が上がる様子はない。近付いて肩を揺すると、ようやく彼が身動ぎした。
    「……なに」
     やはり眠っていたのか、重たげな瞼の高杉が、不機嫌そうに自らを起こした相手を見上げながら声を発した。
    「頼まれた役割は果たしてきたぜ。ついでにほら、土産」
     コト、と文机の上に徳利と料理の小皿、それに猪口を2つ置く。
    「ああ……」
     置かれたそれらを見やる高杉だが、反応が鈍い。しばしぼんやりと見つめていたが、ぐらりと頭が揺れたかと思うとまた突っ伏してしまった。ぐしゃり、と腕の下でひしゃげた紙が音をたてる。横に置かれた筆は、最後に使われてからそれなりに時間が経っているのか、墨が乾き切っていた。
    「おい?」
    「……疲れた」
    「寝るならそんな場所じゃなくて布団に入れよ、風邪ひくぜ。それに戻って来てから何も食べてないだろ君、少し食べたらどうだ?」
     動かず返事もしない彼に痺れを切らして無理矢理肩を掴んで起こすと、彼はそのまま高杉の方へと倒れ込んできた。
    「おっ、と」
     ぐたりと脱力している身体を、胸に凭れ掛からせるように抱え支える。目を伏せている顔を覗き込む。いささか顔色が悪いように見えた。首筋に触れると、そこは汗による湿り気と、普段より高い熱を帯びていた。記憶よりも薄く軽くなっているように感じられる身体に、高杉の僅かな酔いが霧散する。
     腕の中で寝息を立て始めた彼をもう一度起こすこともできず、彼をようやく布団に寝かせるまで、暫しの間高杉は動けずにいた。
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