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    suzuro_0506

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    suzuro_0506

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    ヘクトールと高杉
    本編にない幻覚の文章

    ヘク+高 本編の隙間のif ガタン、という何か物がぶつかるような小さな音に、ヘクトールは部屋の奥へと目をやった。
     ヘクトールはつい数分前に社長、もとい高杉の指示で吉田コンツェルンの関連施設の調査に出たばかりだった。外に出たついでに一服しようかと煙草の箱をしまってある筈の場所を探ったところで、それが無いことに気が付いた。どうやら会社に置き忘れてきたらしい。そのまま行くか戻るか数秒考え、まだ会社の近くであるから引き返すことにした。それで、倉庫と事務室を兼ねているいつもの部屋に戻ってきたところで、先の音を聞いた。
    「ん?」
     戻ってきた時から部屋の電気は消えていた。ここまで来る途中、小次郎は庭で菜園造りに精を出しているのを見かけたし、大福の流通状況を見に行くのだと言って出ていく藤丸とは会社の入口ですれ違った。現状、他に社員のいない零細企業である。誰かいるとしたら社長である高杉か、運のない泥棒か。或いは吉田コンツェルンの手の者か。
    「そこに誰かいるのか、って……」
     一応の警戒をしつつ、軽く声をかけながら音のした方へと寄れば、そこに居たのは高杉であった。
    「!」
     肩を跳ねさせ、高杉がヘクトールを見上げる。一瞬見開いた目を苦々しげに細める高杉の口元は、べっとりと血で濡れていた。元々肌の色の白い方ではあるが、それを過ぎて蒼白くなった肌を汗が伝っている。
    「高杉!?お前さん、それ」
     予想外の光景に驚いた様子のヘクトールの言葉に、二、三度重く湿った咳をした後、高杉が声を出す。
    「ヘクトール……?何でいるんだよ、頼んだ仕事に出てったはずだろ……」
     張りの無い小さな掠れ声で高杉が呟く。荒く上下する肩の動きに合わせ、隙間風のような音が高杉の喉から鳴っている。
    「大丈夫か?」
    「大丈夫、と、言いたいところ、なんだが……、これが、大丈夫に見えるんなら……、眼科にでも行った方が、いいぞ」
     半目でヘクトールを見て答えた後、高杉は目を閉じると横の棚に凭れるようにしてズルズルと座り込んでしまった。痛むのか、押し殺した呻き声と共に胸を押さえて背を丸める。
    「っう、ぁ……ゴホッ、ゲホ、ッ……!」
     ボタボタと袴の上に赤が零れ落ちるの見ながら、ヘクトールは無言で高杉の隣にしゃがみ込むとその背を擦る。
    「毒か?呪い、って感じでもなさそうだし、そこまでの怪我はしてなかったと思うが」
    「どれも、違、う」
    「そうか、なら……薬とか、どこかにあるんなら取ってくるが」
     俯いたまま、高杉が首を横にふる。
    「このままで、いい。そのうち、治まる……何もしなくていい、誰にも言うな」
    「……了解」
     数分経った頃、高杉の強張っていた身体から力が抜け、くたりと床に伏した。ケホケホと軽い咳は残っているようだが、呼吸は穏やかなものになっている。
    「落ち着いた?」
    「……落ち着いた」
    「じゃ、ほらコレ」
    「……?」
     ヘクトールの言葉に高杉が薄目を開ける。苦痛による涙でぼやけた高杉の視界に、ヘクトールがなにか差し出しているらしいのが見えた。
    「タオルと水、あと洗面桶。そのままじゃ口の中も服も気持ち悪いだろ」
    「……ああ……そこに置いといてくれ」
    「あー、まだ身体起こすのも無理?オジサンそろそろ老眼かもしれないけど、見間違いじゃないと思うな」
     脱力したまま軽く苦笑し、高杉がひとつ頷いた。
    「そ。じゃ、失礼して……」
    「!?、おい、何を」
     高杉の声を無視して、ヘクトールが高杉を抱き上げる。呆気にとられているのか腕を上げることすらしんどいのか、抗議の声を上げる以外されるがままの高杉を、ヘクトールはそっとソファの上へとおろした。
    「ちょっと狭いかもしれんが、床の上よりはマシでしょ。他の2人が戻って来ないか見張っててやるからそこで休んどきな」
    「意外と世話焼きなんだな、いや、意外でもないか…………悪い、助かる」
     間もなく高杉が静かに寝息を立て始めたのを見届けると、ヘクトールは用意していた雑巾で床の血を拭き取っていった。
    「あ、ここに置いてたか」
     床掃除を終えたついでに眠っている高杉の口元と手を濡らしたタオルで拭ってやり一息ついたところで、テーブルの上に置きっぱなしになっていた煙草の箱に気が付く。一本出した煙草に火をつけず、ヘクトールはそれを眺める。
    「そういやこのために戻ったんだったな。……ま、この特異点にいる間は暫く禁煙でもしてみますかね」
     ヘクトールは煙草を箱に戻し、懐へと仕舞った。
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