めんどくさい六はオタクが自分を納得させるためだけに書いた忍.ミュ10弾のif(補足)長次の叫び声が聞こえたシーンから始まります。
昨夜の雨も止み、チームぴよこちゃんもきのこ岳へと再び進み始める。そんな中伊作の耳に誰かの叫び声が聞こえた。
「今何か聞こえなかった…?」
伊作は記憶の中にあるその声に同級生の一人だと思い至る。
「あの声は…長次!」
普段近くに寄らねば聞こえないほど静かに話す、あの中在家長次が大きな声を出すということに伊作は胸に一抹の不安を覚える。
「長次たちに何かあったのかもしれない」
「中在家先輩のいるチームに…、あのチームにはきり丸もいます。心配です…」
伊作の発言に同じクラスでいつも一緒にいる乱太郎やしんべヱが顔を曇らせた。二人の心配を晴らすためと留三郎は安心させようとする。
「大丈夫だ乱太郎、ぽぽたんには仙蔵がいる完璧なはずだ」
長年同じ学舎で過ごしてきた信頼できる同級生の存在はおそらく一緒にいる一年生のきり丸のことを考え無理な行程は進まないはずだ、そう考えている留三郎とは裏腹に伊作は胸の内に浮かんだ暗い影を払拭できずにいた。
「でも今の声…」
伊作としては長次たちのチームの中の誰かが怪我をした可能性に、駆けつけて治療しなければという使命感が生じた。しかしこれが何か策略を立てていたドクタケの罠ではないという確信がある訳でもない。伊作が逡巡していると乱太郎が側へと駆け寄り強く訴えかけてくる。
「先輩行きましょう…!」
真剣な眼差しの乱太郎の目を見とめた後自分を納得させるように頷き留三郎の方を向く。
「留三郎、僕長次の元へ行くね」
「伊作!今は競技中だぞ!」
「怪我してないか確認したらすぐに戻ってくるから」
「すぐにって…、昨日の雨できのこ橋の方向への道は寸断されている可能性もあるんだぞ!」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない!!何でお前はっ…いつもいつも人のことばかり考える!自分が怪我したらどうするんだ!今はチームで行動しているんだぞ!!」
伊作には留三郎の言っている意味は充分わかっていた。忍びとして考えるなら自分の味方のことを考え、一人で勝手に行動するなど言語道断である。六年間忍たまとして過ごしてきたなかでそのことが理解できていない訳ではなかったがそれ以上に、今横にいる乱太郎のように純粋に怪我をしている人を放って置けないという、六年間培った保健委員の精神を無視することはできなかった。
「でも…、それでも僕は保健委員だから」
静かにそれでもはっきりと告げられたその伊作の言葉に留三郎は何も言えなくなる。留三郎としても全く長次たちが心配じゃない訳ではない。その上こうなった伊作は梃子でもその意志を曲げないことなどこの数年同室として過ごしてきたことで痛いほど知っている。自分達のこと、長次たちのこと、運動会に参加して不穏なことを企てているかもしれないドクタケのこと、全てを考慮してごちゃ混ぜになった思考を投げ捨てる。
「…っぁあもう!わかった!行け!」
「ありがとう」
「…お前が、怪我するんじゃ…ないぞ」
「うん」
走り去っていく伊作とその後ろを追いかけていく乱太郎の背中を見ながら留三郎は一番最悪なパターンを考える。
「守一郎、しんべヱを頼む」
嫌な予感がする、この運動会で何かが動き出している。忍たまとしてすべきことを成しに留三郎は走り出した。