【ゼン蛍】書記官様は人の愛し方を知らない アルハイゼンがいつもと変わらず読書に勤しんでいると、突然目の前にコーヒーカップが差し出された。豆を挽く音と香りがしていたのには気付いていたが、淹れて欲しいと頼んだ覚えのないアルハイゼンが顔を上げて側に立つ男にこれは何だと視線だけで問えば、アルハイゼンに凭れ掛かり眠る少女にチラリと視線を向けて男――カーヴェは答えた。
「君の為じゃない。彼女を起こさない為だ」
もう長い時間アルハイゼンがそうしていることをカーヴェは知っていた。だから少女の眠りを妨げないようにその場から動かないアルハイゼンの献身に、自分のついでではあるが差し入れることにしたのだ。
必要ないと一蹴されることも想像していたが、アルハイゼンはそれを黙って受け取り、それを見届けたカーヴェは向かいに座って自身のコーヒーを一度口に含んだ。
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