類との同棲が始まってはや1週間ほどが経った。
引っ越して2日位は荷解きをするのに忙しくて料理をせずに外食に頼っていた。アタシは荷物が元からそこまで多くなかったから、2日目の後半の方は工具やら作ったロボやらでやけに多かった類の荷物を片付けるのを手伝っていた。類だけに任せていたら引っ越して初日から類の部屋がごちゃごちゃに散らかりそうだったからだ。まぁ2日では全部は終わらなかったが、生活できるくらいには環境を整えることができた。
作る余裕ができた3日目から昨日まで麺類やグラタン、類の母親からレシピ聞いた肉なし餃子などとにかく野菜を使わないレシピばかり作っていたが、いつまでも甘やかして野菜のないものばかり食べさせていては類の健康もといそれを一緒に食べるアタシの健康にまで影響を及ぼしそうなので、今日は少し野菜を入れたものを作ることにした。
具の範疇にギリギリ収まるくらいまでにんじん、玉ねぎ、じゃがいも、きのこを細かく切って逆に肉は大きく切ってゴロゴロにしたカレーが入った鍋をそこが焦げ付かないようにかき混ぜる。細かく切って、香辛料の効いたものに混じっていたら食べられるかなと思いカレーにした訳だ。流石に肉だけカレーは勘弁願いたいし、慣れてもらおうという魂胆もあるが、それでも最初だから類に譲歩した結果、肉と野菜のパワーバランスが逆転した肉の主張が激しいカレーが出来上がった。
棚から皿を2枚出して、ご飯を盛りつける。類の分はアタシの分よりも多めに盛りつけた。
それというのもあまり食に関心がない類は普段ゼリーなどの栄養補助食品やラムネばかり食べて最低限の食事をしていることが多いから、元から少食なのだと思っていた。
しかし1度ワンダショみんなで食べ放題のバイキングに行ったときにアタシ達の3倍くらいの量の食事をペロッと平らげていた。案外食べれる量は多いらしく、もぐもぐとたくさん食べている姿が可愛くて可愛くて仕方がなかったという訳だ。いっぱい食べる君が好きという少し昔のCMのフレーズを頭に浮かべながら、野菜はあまり入らないように気をつけながら多めによそった。
・・・アタシの分と見比べるとかなり山盛りになっているが、多分食べられるだろう。
部屋にこもって何やら作業をしていて、部屋の前まで行って呼びかけるとガチャガチャと何やら音が聞こえてそのあと直ぐに部屋から出てきた。
一緒にリビングに向かって、既に机の上にスプーンと共に置かれたカレーの前に座る。
類も「美味しそうだね」と笑いながらアタシの前に座った。
「「いただきます」」
手を合わせからスプーンを手に取りカレーを掬って口に運ぶ。我ながらなかなかに美味しくできたなと感心してしまう。類の反応をチラリと見るとパクパクと軽快に口に運んでいた。
・・・やっぱり食べてるところ可愛いな。
その視線に気付いたのか一瞬パチッと目が合って少し心臓が跳ねた。そして直ぐに視線を自分のカレーとアタシの分のカレーを見比べて、口を開いた。
「司くんのカレー少なくないかい?」
「類の分を多く盛ったから、お前の分が多いんだ」
「どうして?お腹空いてたから嬉しいけどさ」
「いっぱい食べてる類を見るのが好きなんだ。多すぎたか?」
「ううん、僕も司くんが作ったご飯好きだから嬉しい」
「・・・そうか。」
器用にスプーンに肉とカレーとご飯だけを掬って食べながら類は続けた。
「まぁでも野菜は・・・ねぇ」
「ひとつくらい食べれんのか?」
「うーん、ちょっと厳しいかなぁ」
「こんなに小さく切ったら味も食感もしないだろうに」
「いや、カレーに溶けてるやつらはまだしも原型を留めている時点で僕的には結構アウトだよ」
「はぁ、仕方ない。ほら野菜はアタシの皿に避けろ」
少々行儀は悪いが残すよりはマシだろう。
ほとんどカレーがなくなって食べられなかった野菜が残っている類の皿に先に食べ終わって空になった自分の皿を近づけるとちょっと申し訳なさそうに野菜をひょいひょいとアタシの皿に乗せた。
そういえばこいつ無人島で死んでも食べたくないって言ってたしな。全部ドロドロのペーストにして混ぜないと食べてくれないだろうな。次はドライカレーにでもするか。などと考えながらふとある考えが頭に浮かんで、好奇心のままにその疑問を類にぶつける。
「野菜食べないと二度とキスしてやらないって言ったらお前はどうするんだ?」
「・・・え?」
野菜を皿に移していた手を止めて少し驚いた顔でこっちを見る。つられてじっと見つめ返す。
一瞬の沈黙が流れた後すぐに類が口を開いた。
「それ僕にとっては死ぬのと死ぬのどっちがいいって聞いてるようなもんだよ。」
「・・・!」
「・・・でも、そうだな」
全部野菜を避けきったアタシの皿を類が引き寄せてスプーンで一口分の野菜を掬ってパクッと口に入れた。苦虫をかみ潰したように眉を寄せて苦しげに咀嚼して全部流すように水を飲み込んだ。
数年間一緒にいて野菜を自主的に食べているところを初めて見た。驚きのあまり半立ちになってしまう。
「る、類!?」
「どっちにしろ死ぬなら僕は野菜を食べて司くんにキスしてもらって死にたいかな。」
顔色を真っ青にしながら残りの野菜も全部かきこんで飲み込んだ。
ほんの冗談のつもりで、別に野菜をほんとに食べなくたってほんとに二度とキスしない訳ないのに。こんなに嫌そうな顔して無理して。
でも、アタシとキス出来なくなるのがよっぽど嫌ってことなのかと思うと、きゅうっと胸を締め付けられる心地だ。そのために一生懸命野菜を食べてる姿が愛おしくて仕方がない。
今すぐ抱きしめて撫でくりまわしてやりたい衝動のまま席を立ち未だ顔色の悪い類の側に寄って、小さい子を褒めるみたいに猫っ毛のふわふわした髪の毛に手を這わす。
「偉いな、類」
「司くんとキス出来なくなるならピーマンだって食べるよ」
「お前まじか」
「ねぇ、頑張って食べたんだから。口直しさせてよ」
頭を撫でていた手を掴まれ、もう片手で首の後ろに手を回されて引き寄せられて、お互いの唇が合わさる。口直しといつ発言通りに口の中を食むように何度も口付けされる。足から力が抜けて類に寄りかかると最後にペロリと唇を舐められて離れた。いつの間にか座ってる類の上に乗りかかるような体勢になっていて我に返って恥ずかしくなって離れようとするも腰に巻きついた類の腕に阻止される。
「まだ司くんを味わいたいな」
「・・・おっさんくさいこと言うな」
・・・その後は言うまでもなく隅々まで類に食べられた。