ドンドンと不快なドアを叩く音で目を覚ます。というより無理やり起こされた。上着をひょいと羽織り、セットも何もしていない長い前髪を掻き上げ、渋々ドアを開ける。
「ケイト……。」
見知った跳ねがちなアイビーグリーンとその上の帽子。我らが副寮長様がこんな朝からなんの用だというのか。
「……朝から何。」
「お前、服。服忘れてるから。」
リドルがいなくてよかったな、なーんて軽口を叩き、悪びれもしない態度にイライラは募っていく。寝起きはいい方ではないとはいえ、まだ朝食には早すぎる時間だろう。
「上着着てるってば。 うるっさいなー……
……で? 何。」
話の続きを催促してやれば、額に手を置いて苦悩の表情。
あのな、って言い渋ってるけど、オレが一体何をしたっていうんだ。
防音魔法も施錠もきちんとかけたし、ちょっとやりすぎたかなって思うけど、お前に怒られるような話じゃない。
思い当たる節なんて、と巡らせていると。
大きなチェリーレッド有した瞼を眠たげに擦り、ダイヤのシーツの海でまどろんでいた恋人から甘美な響き。
「…… なあにぃ? けーくん?」
「……やっぱりここだったか
フラミンゴ当番。 すっぽかすからだろう?」
「は? フラミンゴ当番? 誰が??」
寝起きの回らない頭では話が見えてこない。
「エース」
「……エースちゃん?」
ふわあと大きな欠伸をしていたエースちゃんを見やれば、左手が止まる。
「オレぇ? …………あ!」
ふわふわとしていた口調が、はっきりとしたものに変わった。
あー…… 本当に、忘れてたんだ。昨日そんなこと、ひとことも言ってなかったもんな。
思わずため息が口から出てしまう。それはトレイも同様で。
「はーーー…………」
慌てる様子のないトレイに違和感を覚え、スマホで時間を確認する。
「ねえ、トレイくんさ、もう代わりにデュースちゃんが行ったんでしょ?」
「まあ、そうだな」
うっわ、性格悪い。こういうところだよ、悪友。
「来なくていいのに来たんだ…。
……エースちゃん、もっかい寝よ。昨日の続きもしよ」
「え???」
いつもならついてくるであろう頭がまだついてきていないようで、何もわかっていない様子のふわふわとしたテラコッタをかき混ぜようと踵を返す。
「荷物運び一週間」
「はいはい ……ッチ」
思わず出た舌打ちもバッチリと拾われる。3年もすりゃ分かるって?分かんなくていいよ、バカ。
「聞こえてる。 今日の朝食、リドルと一緒に取る約束してたろ?遅刻するなよ」
「母さんかって」
シッシと手を振れば素直にドアを締めてくれるところがムカつく。でも今はそれどころじゃない。
オレの一挙手一投足をチラチラと伺うこの。詰めがどうしても甘い、この可愛い後輩ちゃんを。
「エースちゃん?」
どう、指導してやろうか……!