《昼は陽光、夜は月光》ウツハン♀「やぁ!」
「ん、教官。おはようございます」
空は快晴。絶好の狩猟日和に、彼女は装備を整えて久しぶりに集会所を訪れた。最近は、近隣の採集などに出かけることが多かったのだが、今日からはまた上位の依頼を受けるのだそうだ。ゴコクやミノト、それぞれの面子に一通りの挨拶をして回る。
そのあと、今日は露台でうさ団子食べようと、席に視線を定めて、オテマエに予め注文を済ませる。集会所に漂っている美味しそうな香りに心を弾ませているのか、軽い足取りで席へ向かっていく。ウツシはそんな彼女の様子を視線で追う。元気がいいと、つい嬉しくなって声をかける。
「今日も気合十分だね!」
「頑張りますね。……あの、教官」
そのまま簡単な言葉のみですれ違うと思っていた彼女が、急に思い出したように自分の方を向いたので、僅かに驚いて半歩体を引いた。
「愛弟子?」
「教官って、声大きいですよね」
「えっ?! な、なんだい? 突然。というか、最近は結構な頻度で一緒に過ごしていただろう?」
「確かに? でも、本当に大きいなって思っただけです。今の驚き方もなかなかでしたよ」
おそらく、今までも言われたことはあるのだろうが、改めて言われると、急に意識せざるを得ない。彼女も本当に思った事を口に出しただけだったらしく、それ以上話題に触れることも無く、席に着き、届けられた団子を美味しそうに頬張っている。
一方のウツシは顎に指を添えて、「言われるほど声大きいかなぁ……」と独りで呟いていた。
「――よし、準備完了。教官、行ってきますね」
「あ、うん……行ってらっしゃい、愛弟子」
「……? 体調気を付けてくださいね」
そう言って彼女がクエストに出かけたのが、山間から日がさし始めて間もない頃。そしてフクズクが夜の狩りに出かける頃に、彼女は獲物をぶらさげて里へ戻ってきた。報告を済ませたあといつもはウツシに挨拶に向かうのだが、目線を向けて軽く会釈をすると、自宅へ戻っていってしまう。
朝はあんなに軽かった足取りは重く、表情には疲労が滲んでいた。大きな怪我は無かったが、もしかすると他のモンスターの縄張り争いに巻き込まれでもしたのだろうか。何にせよ、久しぶりの狩猟でここまで気落ちしている彼女のことが心配でたまらなくなった。
「うぅん……」
愛弟子の体調管理も教官の仕事だ、と、言うのは本音であり建前であるが、流石にこういう時は恋人として思い切り甘やかしたいという気持ちの方が強い。今日はもう闘技場の受付もないだろうと、ウツシは集会所中に響く声で挨拶をすると、露台から直接屋根を渡り、彼女の休む自宅へ翔んだ。
「やぁ! 愛弟子」
「ウツシ教官……」
元気よく戸を開けると、ちょうど持ち物の整理をしている彼女と目が合った。
「今日はよく頑張ったね! 何かして欲しいことはあるかい?」
ウツシの優しい声と広げられた両腕に、彼女の強ばっていた表情が緩む。ウツシに「甘えてもいいよ」と、わがままを許されているような気がして、彼女は迷わず正面からウツシに身体を預けた。
「このまま、抱擁を、してほしい。です」
「うん」
ぽつりぽつりと落とされた言葉を一つずつすくい上げて深く頷く。他ならぬ可愛い愛弟子であり、共にすると決めた最愛の頼みである。もたれかかってきた彼女の肩を抱き、暖かい手のひらを背中に添える。
「愛弟子、おかえり」
「死なずに帰って来れてよかったです。今は割と冷静ですよ」
「うん、そうだね。俺も、キミが生きていることが何よりも嬉しいと思うよ」
「ん」
穏やかなウツシの声と鼓動に揺られながら、彼女はどこか納得した様子でゆっくりと瞼を閉じる。
「……そっか、家にいる教官に慣れてたから、集会所で会った時に声が大きいなって思ったんだ」
耳を擽るほど小さな声で彼女は呟いた。彼女を愛でることに夢中になっていたウツシは、赤子をあやすように優しく背中をゆすりながら問う。
「どうしたの? 何か悩み事かい?」
「いいえ、教官の声が好きだなって思っていただけですよ」
「えッ?!」
「ッ……やっぱり声おっきい」
耳元で響く声に、一瞬眩く。それでもウツシの声はそれ以上に彼女の心へ響くし、心地の良いものには変わりない。