カフェイン必須「コーヒーを飲むことを悪いとは言いません」
ロドスの喫煙所、その傍らに併設されているちょっとしたラウンジスペースにて。
ポケットに適当に入れてきた小銭で買った缶コーヒーのプルを引くと、丁度奴が曲がり角から現れた。サンクタ特有の羽は黒く、今日はどこか虫の居所が悪そうだ、と一目でわかる。
外勤やら何やらで同じ艦内にいることがあまりない二人だ。珍しく滞在期間が被った初日、昼食を一緒にと約束していたが、その前に各々ちょっとした用事を片付ける必要もあった。
喫煙所で待ち合わせをしていたのだが、予想通り俺のほうが早く着いたので、遠慮なく一服してついでにコーヒーも飲んでいただけのことで。何故こいつの虫の居所が悪くなるのか道理は分からないが、理由は思い当たる節がある。
「処方薬は水かぬるま湯で飲むものです」
淡々と告げられ、思わず顔をしかめる。
最近源石汚染の顕著な地域に出張ることがあったため、抑制の薬や痛み止めなどをいつもとは違う分量で処方されていた。食前に飲むよう指示されていたものの存在を思い出し、食堂で飲んでもよかったが、喉の渇きを潤すついでにという軽い気持ちで、自販機で購入した缶コーヒーで飲んだのだ。それを目ざとく見つけられてしまったらしい。
「正論だな」
そう返事をしながら、残りのコーヒーを一気にあおる。
わかっている。この男が口うるさくなるのは、俺を心配する気持ちゆえというやつだ。
仮にも恋人という関係になることを許したのだから、相手がこちらを心配するのを止めろなどと言う気はない。うんざりするのはどうにもならないが。
ベンチから立ちあがり、何か言いたげな男の肩に腕を回す。自然と足は二組、食堂に向かって歩き始めた。
「酒じゃないだけ勘弁してほしいが」
「もし酒で処方薬を飲んでいるところを見かけたら、実力を行使してでも止めたでしょう」
「ほう? コーヒーならグレーゾーンというわけか」
「あまり口うるさくしすぎて、あなたに嫌われたくありませんので」
そう告げた男の様子は、どこか拗ねた子供のようにも見える。
随分と情緒が育ってきたものだ。笑いをかみ殺しつつ、触り心地のいい柔い髪に素早く唇を落とす。
「俺としてはお前の作る菓子のほうがよほど健康に悪そうに見えるがな。ブラック派としては信じられん量の砂糖とミルクを使うじゃないか」
「スイーツはそういう食べ物です」
真顔できっぱりと言い切られ、呆れのため息が零れる。
だからカフェインが手放せないというのだ。
昼食のあとはこいつが気晴らしに作ったというケーキの試食をする、という約束までしてあるのだから。