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    ant_sub_borw

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    FF14 ダンシング・グリーンに狂った末の妄想をSSの形にしたためたもの
    ※捏造妄想過多
    あまりに公開されていない情報が多いなかこうだったらいいな~~~のご都合妄想を詰め込んでいます

    Backstage.毎朝、目覚めたらお気に入りのアルバムを一枚、室内に流す。
    十数年ほど前に活動していたアーティストが、非デジタル化音源として残したミニアルバム。
    データ化されたものもあるにはある。しかし媒体としてのディスクを専用のプレーヤーにセットして音楽をかける、という手順で聴ける機会はもう殆どない。
    だからどうしても、可能な限りアナログに近い方法で聴けるようにと、奔走した。
    そして毎日、ごく当たり前のようにそのアルバムを聴くのが習慣となって、そんな習慣に寄り添うように、ふとした『隙間』のようなものを常に感知している。
    毎日手に取るディスクケースの間、元々付属していたブックレットとは別に、折りたたんで挟まれている紙切れ。
    アルバムの最初の一曲を聴きながら、その紙切れを開いて書かれた文字に目を通す。これもまた、毎日決まった習慣だ。
    その紙切れを挟んだのも、紙切れに書かれた内容にも心当たりはない。心当たりはないが、何故そうなのかという理由には納得がついている。
    きっととっくの昔、あるいは比較的最近、いずれにせよいつの間にか、まつわる一切の記憶は雲の上にあずけられたのだろう。
    ただそれでも、記憶という一気に消し去れるもの以外の『名残』のようなものが、この部屋にはいくつか残っている。
    だからなのか、時々胸の奥をぎゅっと掴まれるような、鋭くて短く余韻はほぼない、一瞬の寂しさのようなものを感じることがある。
    そして、そういう時に感じる寂しさというのが、全ての原点で始まりだったのだと思う。





    ソリューション・ナイン、レジデンシャルセクターの居住殻。
    棟の中に無数に設けられた部屋は、細かい内装以外はほぼ同じ間取りのものが連なっている。
    自分がいつの間にか一人で寝起きしていた部屋も、そのうちのひとつだ。
    室内に入ってすぐのところに、モニターディスプレイとローテーブルとソファ。部屋の奥にいけばベッドがあり、衣服をかけておくラック、小さめのチェストには必要最低限の小物や保存容器入りの食糧なんかが雑におさめられている。
    特色があるとすれば、広々としたスペースを仕切って、個別のレイアウトをしていることだろうか。一つはダンスレッスン用の開けたスペース、もう一つはエレクトロ―プ製のマシンをいじくるためのスペース。
    デジタル化の進んだキープ内で、今時音楽を記録したディスクやそれを再生するためのプレーヤーなどというものは、繁華街のアングラな市場をひっくり返してもやすやすとは手に入らない。
    それに気付いたころ、確かまだ物心ついて数年も経っていないころに、自分が『聴きたい』音楽を聴くには、独自で手段や手法を学ぶ必要があると思い知らされた。
    エレクトロ―プ製の機械いじりを始めたのは、そんな動機からだった。
    中にはエレクトロ―プそのものを自在にコントロールして、なんでも簡単に作り出せるという人もいる。
    ただ自分にはそこまでの才能はなかった。
    せいぜい、ある程度形状や用途が決められた状態で出来上がったパーツをいくつか組み合わせ、目的の機能をもったマシンを組み立てる。それが精一杯だった。
    幸運なことに、元々魔法の素養も少しばかり持って生まれたようで、エレクトロ―プに電流を流して反応を引き起こすという、初歩的な操作には困らなかった。
    あとは独学の研究、そして時々はほうぼうの専門家の知恵を借りつつ、どうにかディスクプレーヤー初号機を組み上げた時、まだ性別の分化が起きていなかったような気がする。
    自作のプレーヤーが問題なく作動し、聴きたかった音楽が一人だけの室内に流れ出したとき、何故か初めてのはずなのに、ほっとするような懐かしさを感じた。
    耳にするとつい踊りだしたくなるような、明るくてテンポのいい、少しレトロなアレンジのダンスナンバー。
    これにあわせてダンスがしたかったんだという念願の叶った達成感。
    そして、多分この曲を初めて聞いた時、おそらく側にいたはずの『誰か』、もう顔も名前も思い出せないが、恐らくは雲の上にのぼった親しい人。あるいは人たち。そんな人たちを想起する妙な懐かしさ。
    レギュレーターを装着して暮らす人々の大半は、同じような喪失を経験しているものらしい。
    普通に考えれば、まだ子供だった自分がたった一人で暮らしているというのは妙な話で、ただそれも、このキープの中ではそこまでおかしな光景ではなくなる。
    誰もがレギュレーターのある暮らしを通じて、納得して割り切っている。
    ありふれた日常の中に、消し去りきれなかった『誰か』の面影を見つけることがある。ただ、それが『誰』かは思い出せない。
    思い出せなくてもいい。それは単に、喪失の悲しみをなくすという代償として、雲の上に預けられた記憶なのだから。
    それが当たり前になっているから、普段通りに暮らしているような人々のなかには、敢えて個人を想起させるような物品を多くは持たないという人もいる。
    記憶はすぐに消えてしまっても、個人の所有物まではすぐに消えてなくなりはしないから。
    毎朝聴いているアルバム、そのディスクケースの中に挟まれたメモは、あえてそういう思惑からは外して残されたものだった。
    きっとこのアルバムを毎日欠かさず聴く子供が、ケースをあける度に目にすることを確信していて、ここに残したのだろう。
    最初にタイトルのごとく『約束』を書かれ、次にいくつかの約束事の文言が続くメモ。
    『性別の分化がはっきりするまで、一人でレクリエーションゾーンに行かないこと』
    『魂の隣人(トナール)が好むひすい輝石の色を身に着けること』
    『レギュレーターは絶対に外さないこと』
    『毎日を幸せに生きること』
    シンプルなそれらの約束事が、おそらくは幼い、この国ではとくに珍しいシャトナ族の子供を思って書かれたことだとは理解できる。
    実際、毎日お気に入りの音楽を聴くのと同じように、可能な限りそれらの約束ごとは守っていた。
    顔も名前も覚えていない、それでいて恐らく自分と近しくて親しかった誰かとの約束。きっと相手はとっくに遠いところへ行ってしまっているのだが、なぜか無下にはできずに毎日毎日同じことを繰り返している。
    寂しいとか悲しいとか、そういった感情は湧き上がってくる気配はないが、ふいにもどかしいような気持ちにはなった。ステップをうまく踏めなくて足がもつれたり、そういう時に感じるもどかしさに似ている。
    大抵の場合は気にもとまらないが、かといって自然と忘れていくようなこともなく。
    いつしか足繁く通うようになった繁華街に初めて堂々と立ち入った理由も、元を辿ればそういった曖昧なもどかしさを払拭したい、シンプルにそれだけだったような気がする。
    孤独に悲しさをおぼえるほどではない。それでも、同じダンスという目的をもって集まった人々の中に混ざって、純粋な楽しさだけに集中したい。一人の部屋では難しくとも、そこなら難なく実現できる気がした。
    ダンスフロアでは皆が主役、それは例え、身よりも由来もあやふやな子供であっても同じこと。
    そのことに気付いて、そのことに惹かれて、いつしかエバーキープのどのステージよりも華やかで壮大な、スポットライト下の注目株になっていた。
    その脚光を浴びるまでに、培った全てのものを最大限に活用して、アルカディア闘士『ダンシング・グリーン』は誕生した。





    性別がある程度大きくなってからじゃないとはっきりしない。
    そんな種族の特徴は、キープの内部では少しばかり奇異の目で見られていた。
    シャトナ族の数は少なくないが、それでも大半を占める種族、ヒューネ族と比較すれば、両者の間で違っている部分はあまりにも多い。
    ネクサスアーケードに買い物に行って、同年代らしきヒューネ族の子供をみかけるたびに、なんともいえない気持ちになった。
    彼彼女らは、幼くてもなんとなくどちらの性別かを見た目から予想しやすい。どちらかの性別に見えるような恰好をしていれば、よりわかりやすかった。
    対する自分は、物心もついてそれなりに年数を経て、体も大きくなってきているというのに、まだ性別ははっきりとわかっていない。
    実際、シャトナ族のことをあまりよく知らないアーケードの店員からは、一方的に女の子だと思い込んだ対応をされたこともある。
    間違いではないのだが、ただしくもない。はたして自分以外のシャトナ族は皆、このくらいの時期はどういう風に過ごしていたのだろうと、少しばかり気になったりもした。
    日々を生きていくのに必要なものは、殆ど全てネクサスアーケードで調達できる。
    ただし、どうしても欲しくて、なのにアーケードでは手に入れることがほぼ不可能なものもあった。
    それこそ、記録媒体のディスクと専用の再生プレーヤーのふたつだ。
    音楽を聴こうと思えば、それらを使わなくとも簡単にできる。それでも、古臭くてアナログなシステムに、どうしようもなく心を惹かれた。
    誰かの残したメモでは、性別がはっきりするまでは立ち入らないようにと記されていた、ソリューション・ナインの繁華街。
    そこに立ち並ぶ店の中に、専用の機械で音楽をフロアに長し、人々がそれに合わせて思うままに踊るためのスペースがあるらしい。
    それを知ってからいっそう、興味関心のいっさいを強く釘付けにされた。
    偶然耳にして以降ファンになった、あるアーティストの非デジタル状態のミニアルバム。それを取り扱う店があの繁華街にある。
    さんざん悩みぬいて、欲求を抑えきれず、緊張をひた隠しにしながらレクリエーションゾーンへと足を運んだ。
    性別はまだ分化しきっていない、けど身長はかなり伸びたし声も前より低くなっている気がする。多分『まだ子供』だとはバレないだろうと、楽観的な博打をうって。
    そそくさと訪れた店の一画で目当てのものを見つけたときは、その場で小躍りしたくなるのを必至にこらえた。購入したあと『ある事実』にはたと気付くまで、浮かれた顔をしていたのを隠しきれていなかったかもしれない。
    店を離れる直前で、ふと気が付いたのだ。
    これを再生するための装置は、どうやって調達すればいいのかと。
    ディスクを取り扱っていた店には、きちんと整備された専用プレーヤーが置かれていた。ただしそれは非売品で、仮に売るとしても、プレミアもののディスクの比にならない値段をつけざるをない、と店員が言っていた。物のよしあし以前に、この手の機械がもう殆ど市場から失われているからという理由で。
    ないものは仕方がない。とはいえ、待望の喜びをやすやすと諦める気にもなれなかった。当時の自分の強い熱意が、ある意味ひとつの分岐点になったのかもしれない。
    それから、機を見ては繁華街の似たような市場に足を運び、マシンを自作するための独学制作に勤しむ日々が始まった。
    生まれ持った魔法の素養と相まって、これもまた自分にとっての『武器』になるものとは、思いもよらないことだったが。

    エレクトロ―プにまつわる技術は、キープで生活する以上どの程度のものであれ、身に着けていて損はない。
    現に、エレクトロ―プ技術の有無は、些細な知識であっても就職先の厳選に関わってくるほどだ。
    そして、エレクトロ―プの扱いの幅は、魔法の素養があるかどうかでも変わってくる。
    残酷だが、技術もなく魔法のような秀でた別の才もなければ、どちらかでも備えた人との格差は開くものだ。
    これに関しては、自分は幸運だったという自負がある。
    研究者になるほどエレクトロ―プに精通しているわけでもなし、はたまた駆除人などで活躍できるほど魔法を含む戦闘力に自信があるわでもない。
    中途半端な特技を二つかかえてるのみだったが、それらを上手く複合させることにより、結果としてアルカディアのリングにあがるための『武器』が生まれた。
    アルカディアの試合ではエンターテイメント性も重要とはいえ、闘士として戦う以上個性的な武器はほしい。
    そして自分が注入する魔物の魂はトード。安定してそこそこ質のいい魔力を得ることが出来るとはいえ、トードという魔物そのものはあまりにも弱い。
    加えて、自分が闘士としてリングにあがるのなら、『ダンス』という特色を全く無視するわけにもいかない。
    注入した魂で、魔法の威力等はある程度増幅が見込める。そこに『ダンス』を絡めるならどうするのがいいか。
    その答えを思いついたのは、常連だったディスコで使えないかと、オリジナルのDJ用機材を組み立て始めたときだった。
    キープ内外で活動する機械兵の中身は、精巧に設計構築されたエレクトロ―プの集合体だ。
    それ以外にも、エレクトロ―プで作られた自立稼働するマシンは至る所にある。
    さほど複雑な動き、精密なオペレーションを望まなければ、簡単なものは自作できる、そういう確信があった。ひとえに、マシン設計とは名ばかりのがらくたいじりに費やした日々のおかげである。
    それに、リングをひとつのステージと見立てるなら、自分が理想とする最高のダンスフロアとして欠かせないものもある。
    照明、音楽、観客、フロアの挑戦者と自分、そして更にパーティを盛り上げるための、専属のダンサーたち。
    リングで戦ううえでの制約により実現が難しいことでも、エレクトロ―プを利用すれば解決できる。
    予め決められた動作を行う自立移動ユニットに魔法陣を引かせて、魔力はこちらで操作すれば、不慣れな挑戦者を翻弄するステップまったなしの特殊フィールドができるはず。
    ユニットの外見そのままでは味気がないため、ホログラフを搭載してダンサーの見た目を投影すれば、リングの雰囲気にぴったりあうだろう。
    各ユニットへの操作指示や魔法の発動タイミングは、ダンスの振りつけに組み込んでしまおう。
    闘士としていかに戦うか、最初はまるでイメージがつかなかったものの、一度思いつけば発想はとどまるところを知らない。
    まるで新しいセットリストを考えて、振りつけを考えているときと同じくらいに楽しかった。
    緊張と高揚がかつてないほどに高まって迎えた初戦。フィードバックと新たな閃きを加えながら改良を続け、重ねた試合の数々。
    照明、音楽、観客、フロアと挑戦者と自分、そして専属のダンサーたち。
    全てが揃い、予定調和とほどよいアドリブとが入り混じり、フロア全体が一体化したひとつのグルーヴに包まれ、パフォーマンスが完成される。
    通い慣れた店のフロアで味わっていた胸の高鳴りを、遥かに凌駕する興奮。
    アルカディアのリング、そこに用意した自分だけのダンスステージ。なんて楽しんだろう、と素直に思った。
    ライトのまばゆさも、そのすぐ傍らで際立つ暗がりさえ、コントラストを成して空間を彩っている。
    初めて音楽に心惹かれた時、ダンスをおぼえた時、人前に出て自己流のパフォーマンスを披露した時、そういった過去の感動の積み重ねを、圧倒的に超える体験だった。
    漠然としていて、深く考えたことはなかった、『自分のなりたい姿』。性別も曖昧で、血縁の所以もあやふやで、ぼんやりとした存在に唯一誇れるものがあるとすれば、ダンスとそれにまつわるちょっとしたスキルのいくつか。
    それまでどうにも明確になっていなかった『理想像』を、ここに見つけられたと確信した。
    至天の座アルカディア、クルーザー級の闘士『ダンシング・グリーン』。
    パーティ好きなダンサー。観客を盛りあげ、クールなステップで相手を翻弄する、ダンスフロアの主役のひとり。
    大げさなほどに派手な異名と印象だったが、何者かになるから、という自分なりの憧れや望みの先として、少なくとも一番しっくりはくる。
    そうだと言い切ってもいいほどに、『あのステージ』は特別で、このうえなく楽しくて心地よかった。
    このステージを楽しむために人生を、命をを費やせというなら費やしてもいいかと思えるほどに。
    それくらい音楽が、ダンスが、踊りを楽しむ人々が、踊りで人を楽しませる自分が好きだった。
    その『好き』という思いは、ずっと昔から体の内側に刻まれていて、味気ない静かすぎる部屋の中で、誰かの目に触れるのを待っていたのだった。






    日課という義務感なく、自室で踊るのは随分久しぶりだ。
    お気に入りのミニアルバム。それをループで垂れ流しながら、観客などなく、気の向くままに踊ってみた。
    まだずっと昔、もっと幼かったころは、そういう行為ももう少し当たり前だったと憶えている。いつしか自室で踊るという行為は、闘士の自分としてのイメージを保つための、いわばトレーニングの類に近づいていっていた。
    振りつけも適当で、BGMにぴったり沿っているとは言い難い。それでも、テンポにノって気ままに踊る、そういうシンプルなダンスが妙に懐かしくて、そして楽しいと思えた。
    つい先日、とある挑戦者と一戦を交え、理由あって引退を決意した。
    未だに、不安や葛藤が全くないわけではない。それでも、闘士を引退しようと決められたことに、ほっとしている自分もいた。
    そう、闘士としてあのリングにあがることがなくなっても、ダンスなら好きな時に好きなだけ、楽しもうと思えば楽しめる。当たり前のことなのに、その事実がすっぽりと意識から抜け落ちていたように思った。
    だからこそ、例の挑戦者とのかつてない、これまでのどの『ステージ』とも比較にならない、かつてない熱狂と感動をおぼえたあの一戦を経験したあと、そういう体験を得られる機会を手放してしまえるだろうかとも悩んだ。自分の命を天秤にかけられているとはいえ、いまいち実感が伴いきれず、本当なら即決すべきであろうことを無駄に考え込んでしまう。
    考え込んでいるのも疲れて、何気なくBGMに体を任せてみた。それが思いのほか落ち着いて、踏ん切りをつけたことへの未練のようなものが自然と遠のいていった。
    どうしてこんなに音楽に惹かれたか、ダンスが好きになったか、原点というような核の記憶は思い出せない。
    それゆえに、その辺りの記憶は雲の上に預けられたであろうものと深く繋がっていたのだろうか、と推測してしまう。
    もしかしたら何も関係がなく、理由もない、いわば本能じみた欲求という可能性もゼロではないけれど。
    アルバムに収録されていた曲が一巡する頃、何気なく再生プレーヤー本体の上に置きっぱなしにしていた、ディスクケースを手に取る。
    ブックレットとともに挟んである、誰かの書いたメモ。指で摘まんで広げると、もう何度目を通したかわからない、見慣れた約束事が書かれいてる。
    『性別の分化がはっきりするまで、一人でレクリエーションゾーンに行かないこと』。まだキープ内では若いとされる年齢だが、分化は済んでいるからもうセーフだ。
    『魂の隣人が好むひすい輝石の色を身に着けること』。自分の側にいる魂の隣人、完結にいえば守護霊のようなものはシャトナ族のなかでもマイナーな信仰らしい。ただ自分の毛髪含め、ジェダイトの色は個人的にも気に入っている。
    『レギュレーターは絶対に外さないこと』。闘士を引退しただけで、キープ内での暮らしを続けることは変わらず、であれば着けていたほうが自然だし便利な面も多い。
    ひとつひとつ約束を脳内で読み上げ、最後のひとつに至る。
    『毎日を幸せに生きること』。
    これだけが唐突に抽象的で、一番難しい内容になっている。
    ただ自信を持って言えるのは、少なくとも今に至るまで、夢中になれる何かに没頭したような生き方をしてきたことに、大きな後悔はない。
    闘士を引退するきっかけになった魂蝕症、それを知った衝撃はまだうまく消化しきっていないが、今生き方を改めれば死ぬことはないと保障されると、一時的な後悔も不安もすぐに払拭された。
    そして今こうして、『ダンシング・グリーン』でなくなった自分自身が、それでも楽しいと感じる時間を過ごせている。
    ならきっと、この約束もこの先守り続けられるのだろう。
    『ステージ』のうえの自分も幸せだったし、『ステージ』から降りても多分幸せに生きることはできる。自分は幸運で恵まれているな、と改めて感じたりもした。
    ダンスフロアでは皆が主役。元は今、室内に流れているアルバムを作ったアーティストの理念や信念のようなもので、それの受け売りだったはずだ。
    そして自分は自分なりに、人生のどこであっても自分なりのダンスフロアに仕立て上げるよう、それなりに工夫して生きてきた。
    だからこれからのことも、『ステージ』を変えるだけのことだ。
    気持ちに区切りをつけるよう息をつき、音楽の再生をとめる。
    ディスクを取り出し、ケースに移しかえ、いつものようにメモを挟んで収納する。そしてまた明日の朝も聴くからと、プレーヤー本体上にやや雑に置いておく。
    ふと脳裏に、闘士としてのロールプレイの一環、試合終了直前に自分が優位だったときによく使っていたセリフ回しが過ぎった。
    楽しいパーティだった。そう言い放つとき、大抵は本心もそう思っていて、ステージ上での試合という名のパフォーマンスを共に盛り上げてくれた相手へ、自分なりの敬意と感謝を表すつもりで使っていた。
    そして必ずこう続ける。ダンスフロアでまた会おうと。
    その時相手になった挑戦者が、再び自分の前に現れる。そういう試合が組まれる可能性は高いとはいえない。単純に、もう二度と自分へ挑んでこない可能性だってある。
    純粋に、このステージはいつだって開かれているし、相手にそのつもりがあるなら、何度だってまた踊りあかしてもいいと、そういったつもりで告げていた。ヒリつく打ち合いとシビれるステップの応酬は、どうあれ盛り上がること間違いない。
    もう当分はそんなステージにあがることはなくなるだろうが、もしかするとまた何かの縁で、あの熱狂に近しいときめきを秘めた、新たなステージを見つけることもあるかもしれない。
    今はまだ、そういう楽観じみた希望を持っていてもいいだろうかと思う。根が楽観的なのだろう。あるいは、楽しいダンスに夢中になれば、わずらわしいことに心を振り回されることなくやり過ごせてしまう性質だ。
    軽く自嘲の笑みを作りながら、プレーヤーの電源をオフにした。


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