月下の夜想曲【一夜目】雲夢江氏の宗主は、満月の前後になると決まって妓楼に通うという噂がある。
馴染みの妓女がいるのかと勘繰る者がいるが、そうではない。
その妓楼は、江澄が秘密裏に丸ごと買って楼主となった遊郭である。
蓮花塢でも限られた者しか知らない江澄の秘密があるのだ。
「はぁあああ、めんどくさい」
妓女にしては行儀の悪い着飾った女性が、部屋の一室で足を組んで座っていた。
そこには、やり手婆と雲夢江氏の仙師が控えている。
やり手婆は、江澄が幼いころに世話になった乳母だ。
十数年前から江澄の私邸からこちらに移って、妓女たちの世話をしている。
その隣にいるのは、江澄の護衛と世話役の梓観世という男。
普段は主管の補佐役を務めているが、
生まれたころから江澄の従者として育ったためにこの秘密にかかわるには重要な人物になる。
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