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    青汁苦瓜

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    青汁苦瓜

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    うっすら両片思い(光は無自覚)な話。
    パッチ6.0と蒼天街のお得意様取引の軽いネタバレがあります。
    光を男性想定で書いていますが、名前と一人称と種族を明確にはしていないので、
    性別はどちらでも読めるかもしれない。
    好いた相手には敬語の子が性癖なのでつまりそういう事です。

    ##アイ光♂

    紫丁香花/アイ光♂ 寒冷地らしく、体の芯まで冷え込みそうな寒空の下、そんな寒さなど跳ね返すように活気に溢れた蒼天街の一角にある屋台の中で、調理道具を広げ黙々と作業を続けている青年の姿が見える。菓子を作っているのだろう、辺り一面にバターと砂糖を大量に含んだ生地の焼ける香ばしく甘い香りと共に、加熱したハーコットの甘酸っぱい香りが漂っていた。
     時折石窯の火の様子を見つつ、裏漉ししたハーコットの果汁が沸騰する直前で鍋を火から下ろし、雪を入れたボウルに鍋をつける。均等に冷めるよう木べらで混ぜる手付きは手慣れており、危なげない。火の元には近寄り過ぎないように。という言いつけをきちんと守り、青年の斜め後ろを浮遊する子竜はキラキラと目を輝かせ、一挙一動を食い入るように見つめていた。

    「エイユウ!その鍋のものはどうするんでちか?」
    「ある程度熱を取ってからゼラチンを混ぜて、容器に移し替えて冷やす。そうしたらゼリーが出来るんだよ」
    「ゼリー!あのプルプルキラキラした不思議な食べ物でちゅよね?早く食べてみたいでち!」

     子竜こと、エル・トゥは今にも近寄りそうな勢いで翼をはためかせる。種族は違えど子供は好奇心旺盛なものだ、興奮を抑えきれない様子に微笑ましさからか、ふと息が漏れでた。

    「エル・トゥ、オーディロン達を呼んで来てくれるかな?戻ってくる頃にはちょうど食べ頃になるよ」
    「わかりまちた!あたくち達が戻るまで食べちゃダメでちよ!」
    「食べないから安心して行っておいで」

     いうが早いか、エル・トゥは翼を力強く羽ばたかせる。小さくなる背に軽く手を振り、鍋をボウルから離す。まだ仄かに湯気が上がる果汁にゼラチンを混ぜ、気泡ができないよう静かに容器へ流しこみ、表面を平らにならす。雪や塵が入らないよう、容器全体を覆うように清潔な布を被せた。
    鍋と木べらを流しへ置き、厚手のミトンを着け石窯の扉を開けば、より一層濃厚に香りが広がり、鼻腔をくすぐる。アップルシュトゥルーデルもすっかり黄金色に焼き上がっており、その出来映えに深く頷く。上出来だ。石窯の扉を閉め、焼きが進まないよう、いまだ燃える薪を火ばさみで掴み、ストーブへと移し替える。
     熱を逃さない作りをしている為、小一時間ほどであれば中の菓子が冷めることはない。いまだ液状のままであるハーコットゼリーは、イシュガルドの気候であればものの数分で固まるだろう。
     あとはエル・トゥらを待つのみだ。人数分の皿とカトラリーを用意し、使い終わった器具を洗う事にした。




     器具を洗う際に湯を使ったとはいえ、濡れたそばから冷えが伝わり、青年──冒険者自身も別段寒さに強いというわけではないので、片付けが終わればそそくさとストーブの前に移動し、側に置いている簡素な椅子に座った。
    少し感覚が薄くなった手を暖めるようにかざし、時折パチッパチチッと弾ける木の音に耳を傾ける。
    ため息ともつかない息を吐き出せば、白く舞い上がり空へと消えていく。
     何となく視線を上に向ければ、雪の止んだ空は澄み渡った色をしており、彼の瞳を思い出させる。
    アイスブルーの、何処までも真っ直ぐで強い意志を宿すそれを初めて目にした時、好ましいと思ったものだ。
    あの瞳の彼は、今も忙しなく働いているのだろうかと、ぼんやりと物思いにふけていれば、カシャリと聞き覚えのある金属音が耳に入る。緩やかに音の方へ目線を向ければ、見覚えのある鮮やかな蒼色がそこにはあった。

    「ああ、やっぱり君だったか」
    「こんにちは、アイメリクさん。今日は視察で?」
    「それもあるのだが、君がここにいるとフランセル卿から聞いてね。顔を見に来たんだ」

     すれ違いにならなくて良かったよ。そう口を開くアイメリクの口端は緩く上がっていた。端正が故にやや冷たい印象を持つかんばせは、今はなりを潜めており、アイスブルーの瞳は喜色を浮かべている。

    「この甘い香りは……菓子を作っていたのか?」
    「ええ。エル・トゥがどうしても作業を見たいからと、先ほどまで作っていたんですよ」
    「なるほど、君が作ったものであればさぞ美味しいのだろうな」
    「良ければ食べていきますか?」
    「……申し出はとても嬉しいのだが、すまない。この後会議があるんだ」
    「包みますよ。甘いもの、お好きでしょう?」

     アイメリクの返答を待たず、冒険者はすぐさま立ち上がり、ミトンを付けた手で石窯の扉を開け、中の焼き菓子をトングで掴み、ラッピング用の箱の中へ入れる。お土産として菓子を持ち帰られるよう、予め用意していたものである。
    未だ温かさの残る菓子にアイスクラスターを使い、冷やす。湯気でパイ生地が湿るのを防ぐためだ。しっかりと蓋をかぶせ、パステルピンクの可愛らしいリボンをスルスルと巻きつけ、蝶結びにしたそれを半ば押し付けるように渡す。呆気に取られつつも大きな手はしっかりと箱を受け取った。

    「夕食の後に頂くとするよ、ありがとう。……ところで、君はこの後ここを発つのか?」
    「旅の支度をするので、何日かは滞在しますよ」
    「そうか。良ければ、イシュガルドを発つ前日にでも君の時間をくれないだろうか?」
    「ええっと……大丈夫ですけど、またどうして?」
    「以前の食事会のやり直しをさせてほしいんだ」
    「えっ」

     てっきり、ゲイラキャットの如く気まぐれなエスティニアンの近状を聞きたいのか、もしくは、バーチシロップの大口納品依頼のどちらかを頼んでくるのだろうと、そう考えていた冒険者は、予想外の言葉に呆気に取られる。目を丸くし、小さく口を開いた、なんとも英雄らしかぬ幼げな表情に、アイメリクは困ったように柳眉を下げ、くすりと笑みを溢した。

    「菓子の礼も兼ねてはいるが、ほら。結局最後まで出来なかっただろう?」
    「あ、あぁー……なるほど。でしたら、尚更断る訳にはいきませんね」
    「無理を言ってすまないな……では、また後日」

     楽しみにしているよ。手を振り、踵を返したアイメリクの足取りは何処か軽いものだった。
     確かにサンクレッドから、食事会について地味に気にしていたという話を聞いてはいたが、想像よりも遥かにしこりとなって残っていたらしい。
     各地を股に掛けて旅をする冒険者はもちろん、今では議長の座に就き、日々を忙しなく過ごすアイメリクとでは、こういった機会を設けるのは難しい話だ。
     冒険者自身、依頼や納品等でイシュガルドに立ち寄る事は多いのだが、こうしてアイメリクと実際に会うことは殆どなく、会ったとしても軽く会話を交わして終わりだ。だからこそ、少しでも機会があれば逃したくなかったのだろう。
     だが、去り際にこちらを見たアイスブルーの瞳の、柔らかな感情の中に、どこかしっとりとした熱を感じたのは気のせいだろうか?

    「エイユウ!戻りまちたよ!……あれ?お顔が真っ赤でちね?」

     エル・トゥに頬をつつかれるまで、冒険者は胸の内に膨れ上がった熱の正体が分からず、遠ざかる鮮やかな蒼色の背をずっと目で追っていたのだった。
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