あおい尾鰭とメンソール水槽の青みがかった光だけが照らす部屋で、僅かに燻りを残す身体を寄せあっていた。
広々としたベッドの上でDはだらしなく手足を伸ばし、相手の胸へと背をもたれさせている。
肩口に触れる体毛がくすぐったくて息を洩らせば、背後のロジェールが甘く囁く。
「なぁに」
「胸の毛がくすぐったいんだ」
「ああ、それは失礼。……これでいい?」
彼は身体をずらし、Dの半身を抱き込むように身を屈める。温かい腕に包まれ、Dは再び息を吐く……今度は安堵の吐息を。
「ちょっと冷えてるかな」
「冷房が効きすぎてる」
「温めようか」
「……キスで?」
「お望みならね」
吐息を絡ませ笑いあい、軽く唇を吸う。
やわらかな口づけは先刻までの熱を呼び覚ますことはなく、ただ甘やかに触れるのみであった。
こぽぽ、とポンプが音を立て、ディスカスがふわりと尾鰭をたなびかせた。
透き通った尾鰭の青がDの瞳に似ていると、つい最近買い入れた個体だ。
その美しい青に目を奪われていると、視線に気付いたDがロジェールの腕に爪を立てる。
「他の美人に目移りか」
「……まさか。彼は君のように愛おしい声を聞かせてはくれないもの」
「どうだか」
Dはするりとロジェールの腕から抜け出すと、テーブルに投げ出されていた煙草の箱を拾い上げた。一本を抜き取り咥えるのを見て、ロジェールはおやと眉を跳ね上げる。
「珍しい。普段は欲しがらないのに」
「いつも、副流煙ばかりたっぷり吸わされているからな。たまには自分で味わいたくもなる」
「セックスの後って、煙草が欲しくなるものだしね……僕にも一本頂戴」
ん、とDが右手でメンソールの箱を差し出してくる。左手にはオイルライターを握っており、慣れた様子で吸い付けている。
ふぅっと煙を吐き出し、ライターを閉じてから、彼は二度まばたきをした。
ロジェールに火を渡し忘れたことに気付いたらしい。再度ライターに火をつけようとするのを片手で制止し、ロジェールは煙草を咥えたまま顔を上げて見せた。
「煙草そのままで……こっちへ」
「……それは」
「気紛れのついでに、ね?」
Dは僅かに視線を泳がせ、身を引きかけた。
逃れようとする手に指を絡め、ロジェールは囁く。
「ねぇダリアン、お願いだから」
「名前……こんな時だけ」
「僕は狡い大人だからね。使えるものは使うのさ」
ほら、してくれないの?そう言ってふわりと首を傾げてやれば、Dは躊躇いを残しながらも身を屈め、顔を近付けてくる。
咥えた煙草の先端を触れ合わせ、深く息を吸う。じりりと紙の焦げる音と共に火が灯り、Dが急いで身を引いていった。
「直接キスするのは平気なのに……どうしてこれは恥ずかしいのかな、君は」
「……うるさい」
頬の赤みを隠すように煙を吸い込むが、目元のそれは隠せていない。
かわいいなぁとひとりごち、ロジェールはふと水槽に目を遣る。
アイスブルーのディスカスはどうやら水草の影に入り込んだらしく、恋人の愛らしさを目撃してはいないようだった。