暗い室内、放り投げられた靴、ひっくり返ったソファー、人の喋り声。
そんな物ばかりが充満した元我が家に、トードは足を踏み入れた。
人影が一つ、侵入者にも気付かず手元を熱心に動かしながら笑っている。声色は三つ分、低いのと、中間と、高いの。一人が発している、3人分の会話。全く、いったいどれだけこの男を1人で放置したんだろうか。思わず、溜息を一つ吐いてしまった。
「エッド。」
一歩踏み出す。カツン、と普段なら革靴が高らかに鳴り響くはずだが、今のトードの足を包むのは高級そうな光沢のある革靴ではなく一般的なスニーカーだ。音なんか鳴らない。けれど、たった一言名前を呼ばれた男はゆらり、と此方を振り返って、それから思いっきり飛び掛かってきた。
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