紫紺の色のはずが金に輝くのを見た。
彼の瞳が光るのを。
ヒュンケルを伴い旅をする途中、ラーハルトは何度か使役する竜を替えた。飛竜の方が効率の良い湿地地帯もあれば、地竜で踏み越えた方がよい山道もあったし、竜が目立つ集落では連れ歩かなかった。
ラーハルトは屈強な戦士だが優秀な竜使いでもあった。続く旅の経路を見据えて、ふと呟くのだ。
「そろそろいいのを見繕っておくか」
その呟きにヒュンケルは背が粟立つのを感じる。
全ての竜は野生である。それを捕捉し、手懐ける。言うは易し、だが行えるのは竜使いだけだ。
ヒュンケルはラーハルトに竜を選ぶ基準を尋ねたことがある。
「捕まえるだけならどれでも。だがまあ…自分用にというなら、一言で言えば運命だ」
「運命?」
「目が合って、こいつだというのがいる。それが見つかればあとは何としてでも捕まえる。どんなに気性が荒く獰猛でも。それで手懐けて失敗したことはない」
旅の中で竜の捕捉に何度か立ち合った。驚くほど大人しくすぐに首を垂れるものもいたし、逃げられそうになったこともあった。だが大抵は、そして今回も。
鉤爪が振り下ろされ地面が抉れる。ラーハルトは難なく交わし、既に向こう側に飛んでいた。
非常に好戦的な地竜だ。辺りが薄暗くなる中で出会った大きな個体。ラーハルトは一目で気に入り「交渉」を始めたが、向こうはそうではなかったらしい。
竜の捕捉は大抵こうなる。気高い野生を屈服させ飼い慣らそうというのだ、当然抵抗を受ける。
威嚇の地響きが少し離れた物陰のヒュンケルまで届く。巨躯が踏み鳴らす振動に体の芯まで揺らされる。荒々しい立ち会い。何度居合わせても目が離せない。
ラーハルトは先が輪になった皮のベルトを手に竜と対峙していた。お前がオレを呼んだのだ、抗っても無駄だ観念しろ。口調は軽く、しかし目は逸らさない。睨むような、不敵に笑いかけるような目線で竜を追い詰めて行く。
巨大な相手にも負けない、幻惑する竜使いの魔眼。闇夜でもその虹彩は僅かな光を拾い、昼とは別の色を反射する。
紫紺の瞳が金の光を放つ。
ヒュンケルは、いつしか自分が竜になり、ラーハルトと対峙する幻想を見ていた。
全力で抵抗し、幾度か優勢になるも相手は強く次第に追い詰められる。鞭で打たれよろめき、首に輪をかけて引き倒され、唸りながら牙に頼ろうとして頰を張られ、髪を掴まれ覗き込まれる。自分を打ち負かし攫っていく竜使いの瞳。
「屈服しろ、俺のものになれ」
敵わない。
「運命だ」
征服者。自分だけの。
呻き声を上げたのは、竜か、それとも。