Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    朝月@おえかき

    @asaduki0112

    🔞絵(擬音、セリフ多め)とサブ創作の設定
    自創作のみです。

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 68

    朝月@おえかき

    ☆quiet follow

    シス(→)リル

    なにも始まらなかった世界線

    教団設立時にシスがリルを勧誘していたけど、本編ではそれを聞いていなかった為に離別した。
    もしそれを聞いていたら一緒にしてただろうな……の話。
    この世界線では桃源郷は存在していないので本編が始まらない。

    年齢指定ではないけど接触多……?

    ##たださみ

    ちゅうけん だだっ広い広間の真ん中をロングスカートのように丈の長い神父服を揺らしながら歩く。
     楽しそうな話し声、笑い声、泣き声、嗚咽、悲鳴、いいものも悪いものも平等に耳に入ってくる。
     耳を塞ぎたくなるような言葉にはいつまで経っても慣れない。

    「リル……様」

     力無い声でそう呼び止められてリルは振り返る。
     それと同時に目の前で倒れ込んだ女はリルの服を力強く掴む。
     白い服を着た女、錯乱しているのか視線は定まらず、涙やなんやら色々でぐちゃぐちゃな顔をしている。
     その信者服を着た女はリルの服を掴んだまま離さない。

    「神父様」
    「神父様」
    「教祖様が見つからないんです」
    「助けて」
    「今すぐ殺し――」

     震える手を薙ぎ払うわけにもいかず、リルは徐にしゃがみ込むと相手の口を手で塞ぎ、止められなくなっていたであろう言葉を無理やり止める。

    「……探してきてやるからあいつの前ではそれを言うなよ」

    「ッでは誰に言えばいいのですか」

     口から手を離してやると会話ができる状態まで戻っていた。
     これで収まるならそこまで重症ではない。

    「俺に言えばいい、いつもそうしてるだろう。探してくるから手を離せ」

     その言葉を聞いて安心したのか大人しく離れる手を見送ると、その場を後にする。
     毎日繰り返される会話、しばらくして様子を見にいくと大抵落ち着いている。
     しかし探している人物がその言葉を聞いてしまったらすぐに殺してしまう。
     正直ずっと信者たちから見えない場所にいてくれていた方が安全だが、そうもいかない。
     探してくる、とは言ったものの場所は分かりきっているのでその部屋の扉を勝手に開ける。

    「エクシス」

     そう呼ぶと同時にリルの首めがけてナタが飛んできたので避けると背後の壁に突き刺さる。
     少し掠ったのか肩甲骨程まである少し長い髪が靡いた。

    「勝手に入ってこないでよ、死にたいの?」

    「死にたかったんなら避けねぇよ」

     薄い毛布にくるまって暗い目をしているエクシスに近づいていく。
     エクシスはたまに発作のように情緒不安定になり体調不良で自室に篭る。
     その時に近づけば殺そうとしてくる。
     昔はこんな奴じゃなかった、と思いたいところだが夜中ずっとフラフラしていたこの殺人鬼と長い時間同じ屋根の下にいる事はなく、もしかしたらずっとこうだったのかもしれない、と結論付けて気にしなくなった。

    「僕が部屋にこもってる時は近づかないでって言ってあるのになんでくるの? 今日は調子が悪い……早く出て行って、じゃないと――ぉえっ」

    「人の顔見て吐こうとするな、朝は元気だっただろ」

    「……シャンドが怪我して帰ってくるからいけないんだよ」

     リルではなく、シャンドと呼ばれて少しムッとする。
     その名前は捨てたはずのものだったが、エクシスが呼ぶのでまだ生きている。
     本来は誰にも呼ばれたくない筈の名前、咎めても咎めてもやめるつもりがないらしくもう諦めている。

    「怪我しないでよ、誰かに殺されないで」

    「あのな……奴隷扱ってるレーベン相手に交渉しに行って揉め事が起きない訳ねぇんだよ。怪我の一つや二つする」
     
     怪我と言ってもただの切り傷一つだった。
     奴隷市場に奴隷の解放を求めに行ったところ戦闘になり受けた傷、地面に血が垂れるくらいの深さはあったが場所が悪かっただけで大した傷では無い。
     それをエクシスに手当てをされている時にわざと抉られ、思わず痛いと声に出してしまった途端に様子がおかしくなった。

    「その服もやだ……僕と同じような服着ないでよ。僕のモノだって勘違いしちゃう、殺してないのに、生きてるのに」

     うわごとのようにブツブツ同じ言葉を繰り返しながらナタを地面に突き刺しては抜きも繰り返す。
     横目で床を見れば無数に傷がついていてずっとそうしていたのがわかる。
     この間直したばかりだというのに全く腹立たしい。

    「お前が用意した服だろうが」

    「あの時はよかったんだよ、今はやだ」

    「明日になればこの服着ろって言ってくるだろ。俺だってカイヤナイト教の関係者だとバレる服は避けたい、絡まれるし戦いにくいからわざわざスリット入れてまで着てやってんのに」

    「……僕が着てって言ったらシャンドはなんでも着てくれるの?」

     毛布の隙間からエクシスの垂れた目がリルを見る。
     いつもはこんな目じゃない、ジトッとしていて普通の目、その目は嬉しいと垂れるらしい。
     今のなにがそんなに嬉しかったのだろうか。
     
    「必要だと思えばな」

    「必要だったら僕の言うことなんでも聞くの?」

     長い髪を揺らしながらエクシスがゆっくりと起き上がる。
     嫌に恍惚としたニヤケ顔、先程までの暗い顔はどこにいった。

    「髪伸ばしてって言ったら伸ばし始めるし、奴隷集めてきてって言ったから市場も闘技場も潰してきてくれる。ここの資金集めも業務も信者のお世話も全部してくれる、全部僕が頼んだから?」

    「そんなこと言ってる暇があるなら教祖の仕事し――」

    「否定しないの?」

     ベッドに腰掛け、ご満悦な表情でこちらを見てくる。
     目を逸らしたらまたナタが飛んでくるのだろうから目は離せない。
     しかしなんと返事したらいいものか、違うと言えば理由を求められるだろう、理由なんてそんな事は今エクシスが言ったではないか。
     しかし、そうだと言えば調子に乗ってさらになにもしなくなってしまっては困る。

    「シャンド、手、ちょうだい」

     唐突に話題が変わる。
     リルの前に出された手は『ここに手を置け』という意味だ。
     たまに要求される行為だが体温が嫌いな筈のエクシスがなにを思ってそんな事を言うのかよくわからない。
     リルはわざとらしくため息を吐くと、軽く手を置く。

    「これは必要なことなの?」

    「どっちでもない、無意味な事だろう。お前の自己満足」

    「それをわかって従うんだ」

     エクシスの少し冷たい手がリルの手を掴むと「やっぱり暖かいよね」と呟く。
     握ったり緩めたりを繰り返されると流石にいい気分はしない。

    「さっきから言うこと聞くとか従うとか言い方に悪意がある」

    「でも事実でしょ? 神父シャンド神様に隷属しないと」

    「また知りもしない事を勝手に――」

     突然手を引かれ、一瞬よろけるが半歩進んだ程度でこんな事で倒れ込む訳もない。
     体勢を持ち直すと先ほどより少しだけ近くなったエクシスは未だにニヤニヤと垂れた目でこちらを見ている。
     本当になにがそんなに嬉しいのか。

    「無神論者の癖に」

    「そうだよ、神様なんていない。でもこの場所は僕が教祖で神様、そうでしょ?」

     否定はできない。
     エクシスの言うとおり信者は皆、神に助けを求めてここにきている。
     エクシス――シス・ファウンダーなら自分を助けてくれると信じてきている。
     真実がただの死だったとしてもそれが救いになる人もいる。

    「……信者がお前を探してる、目に見える神なら助けてやれ」

    助けて殺していいの?」

    「いい訳ないだろ」

     死が救いだったとしてもエクシスが無闇矢鱈に人を殺す事は看過できない。
     人を殺した奴は殺されるのだから――エクシスを殺されては困る、誰にも殺させはしない。

    「わがままだね」

    「お前にだけは言われたくねぇよ」

     殺してもいい、訳ではないが殺すのは本当に生きていた方が辛い人間だけ。
     それはリルが勝手に決めてエクシスに守らせようとしている事、まだ完全に防ぎきれてはいないがいずれはそうなるようにする。
     エクシスがいつもの様子に戻って身支度をし始めたので扉付近でそれが終わるのを待つ。

    「シャンド、僕の名前呼んでよ」

     髪を結いながら不意にそう言うので思わずため息を吐く。
     信者を待たせているのだから早くしてほしい。

    「……シス」

     わざとそう呼んだ。
     元の名前から二文字とったその名前は王が勝手に決めたものでエクシスも多少なりとも不本意だったらしい。
     戸籍上ではその名前なのだから人前ではそう呼ぶようにしているが、今そう呼ばれるのは想像以上に不満だったようでムッと表情が消え、身支度している手も止まる。

    「面倒臭い奴だな本当に、なぁエクシス」

     呼び直せば嬉しそうに目を細めてニコニコと支度を済ます。
     理解できない行動も多いがこれに関しては扱いやすい。
     部屋を出ようとしたエクシスに「名前がそんなに大事か」と問う。

    「大事だよ、皆の前でシャンドって呼んであげようか?」

    「やめろ、誰かが真似し出したらどうする」

     エクシスが扉を開けると部屋より少しだけ明るかったらしい廊下から光が差し込み、エクシスのいる場所だけ明るくなる。

    「ほら大事じゃない。ねぇ神父様?」

    「嫌味ったらしく呼ぶなよシス」










     信者の世話は九割程シャンドに任せている。
     エクシスが信者を見るのはシャンドが不在の時だけ、救済する殺すのもその時だけ、その代わり帰ってきたら酷く怒られる。
     シャンドがいる時は本当にボロボロでどうしようもない子だけ殺してもいいことになっているが、その見極めがエクシスにできる訳もなくシャンドが話し見極めエクシスの元に連れてくる。
     何年も繰り返しているのにその時はいつも辛そうだった。
     その信者が死ぬことに対してなのかエクシスが人を殺すことに対してなのかは未だにわからない。

    「ねぇ許してよ、シャンドがいる時は守ってるんだからいいでしょ」

    「破ってる自覚あってやってるなら余計タチが悪い。もう奴隷集めには行かねぇ」

     リビングの役割を果たしている部屋で椅子に座っているシャンドは腕も足も組んで機嫌が悪い。
     後ろから服を引っ張ってもビクともせず、殺人嫌いは昔からなにも変わらない。

    「ねぇシャンドー」

    「どんな嫌がらせ受けながらレーベンの所行ってると思ってる、その間にお前は約束破って楽しんでいい身分だな『玄武・死者に祈りをアンダーテイカー』」

     わかりやすく不貞腐れた話し方をする、これは相当怒っているのかもしれない。
     シャンドは異名保持者ではないから嫌な目に遭う。
     それはわかりきっている事で、なら異名を貰えばいいのに王様に従うのが嫌らしい。

    「そんなに嫌ならたまにでいいよ……それにシャンドも好きなことしていいんだよ。信者の女の子連れてきてあげようか?」

    「お前な……俺はそういう事に興味はな――」

    「ならこういう事の方がいい?」

     振り返ろうとしたシャンドの頭に軽く手を置き、軽く撫でる。
     シャンドがチラッと一瞬だけこちらを見る。
     体温が嫌いなのになんでわざわざ触るのか、そんな事を考えているのだろう。
     確かに体温は好きではない。
     しかし何年も生きた人間と一緒に住んでおいて慣れない訳も無く、随分前から嫌悪する事なく触れる――それでも好きではないけど。

    「誰が撫でられて喜ぶんだよ、もう子供じゃねぇんだ触るな」

    「子供の時は撫でて欲しかったって事?」

    「はぁ……言い返すのも面倒くさい。早く手を退けろ」

     一回跳ね除けられた手も再び戻せばまた跳ね除けられる事はない。
     一昔前なら怒って殴られていてもおかしくなったのに慣れとは怖いが、それにしても大人しい。
     もしかして今弱っているのだろうか。
     今日は怪我はしていない、なら弱っているのは――

    「シャンド、手」

     そう言って少し体を前に倒しながらシャンドの前に手を伸ばす。
     顔は見えないが浅くため息を吐いてからエクシスの手の上に手を置く。
     いつもは浮かせていて軽い手が今は重い、腕一本丸々預けている事に気づいているのだろうか。
     きっと気づいていない、シャンドが一部分でも身体を預けるのは弱っている証拠だった。
     いい子、と心の中で微笑む。
     少し前からやっている【おて】はエクシスが手を出してシャンドがその上に手を置く、そしてなにをしても離すまでジッとしている、ただそれだけの行為だった。
     暇つぶしで求めたら意外にも乗ってくれて今でも続いている。
     しかしそんなことが何故かとても嬉しくて優越感に浸れる。

    「気色悪い」

     シャンドが機嫌の悪そうにそう言い放つので視線を落とせば無意識に指の間を指でスリスリと撫でていた。
     重みの実感が欲しかったのかなんなのか生暖かい手を握っても大して興奮もしない。
     しかし、無意識と伝えてもなんにもならないのでわざとやっていた事にしようと思う。

    「またそんなこと言って、嫌なら置かなきゃいいでしょ」

    「お前が置けって言ったんだろ」

    ――嫌だったけど僕が言ったから従った、って言ってるのわかってる?
     ちょっとゾクっとしたが実はそう解釈できるような言葉は案外多く聞ける。
     何度聞いても飽きることはない、むしろもっと要求したくなる。

    「シャンド上向いて」

     シャンドの頭を撫でていた手を額に移動させて自分の方に引き寄せようとするが少し動いただけでこっちに倒れてはこない。
     目つきの悪い赤い瞳だけがこっちを向いている。

    「なんでだよ」

    これと一緒の意味だよ」

    「全く……なにがしたいんだ」

     そう言うとシャンドはエクシスから離れるようにして頭を少しだけ前に傾ける、流石に要求しすぎてしまったか。
     そう思っていると胸部に衝撃が来る。
     頭突きとも取れるその痛みに思わず「いたっ」と声が出るが、そんな事気にも止めずに上を向いているシャンドが鼻を鳴らす。

    「俺で遊んで楽しいか」

     目が合う、手も重い頭も重い、シャンドの右側だけ垂れている前髪を掻き上げる。
     嫌そうな顔、でも逃げない。
     いつまでそうしてるつもりなのか、エクシスの許しがないとずっとこんな態勢でいるつもりか、こんなに喉を曝け出してなんて無防備なんだろう。
     ちょっと残念なのは生暖かい事だが、きっと今すごく口元が緩んでしまっている。
     自分の意のままに相手を動かしているこの状況でなにも思わない人の方がおかしい。
     
    「しばらくは約束守ってもいいかなってくらいには楽しいよ」

    「こんな事で守れるなら最初から守れ」

     ブスーッとした顔でこちらを見る。
     一度目が合ったら中々離してくれない、まるで野生動物かなにかのよう。
     じゃあ次は、そう言おうとしていた口を噤む。
     断られるような事をしては全部無駄になる。
     頭を軽くポンポンと叩くとシャンドは再び前を向いたので、再びその黒髪を撫でる。
     自分の中でどうしようもない優越感と支配欲が満たされていくのを感じる。
     もっともっと満たされたくなるが先程の行為で幾分か満足した。
     次は弱っているその心に入り込みたい。

    「シャンド」

    「今度はなんだよ」

    「今日嫌な事あったの? なにか言われた?」

    「お前が信者殺してた」

    「……それ以外で」

    「なにもねぇよ、ただ………………人殺し……って言われただけだ」

     聞こえないくらいの声量でシャンドの口からその言葉が出てきた。
     驚いて思わず両方の手が止まる、がそれを悟られないように撫でていた手は握る動作に、髪を撫でる手は梳かす動作に移行しただけに見せかける。
     あのシャンドが弱音を吐いた。
     そう呼ばれるのを一番嫌がる事は知っていたが、こんな風に伝えてくる事は今まで無かった。
     背筋が震えた、あそこで要求を止めたのは正解だった、きっと従うという意識のままになっている。
     嬉しい動揺だとしてもそれを気づかれればおそらく二度目はこない。
     シャンドの心音が少し早い、動揺しているのか緊張しているのかわからないがそれはとても――

    「シャンドがそんな事する訳ないのにね」

    「……してた。知ってるだろ」

    「知ってるよ、でもやりたくなかったでしょ」

    「仕方なかったとか言ったら――」

    「そんな言葉で片付けたくないんだよね、ならどうしたら僕は君を助けられるの? 罰が欲しい?」

     全部耳障りのいい言葉だ、シャンドが欲しいであろう言葉を選択して与える。
     シャンドが殺人を嫌だと思ってる事もそれをしていた自分が大嫌いな事もこの世界で知っているのはエクシスだけ。
     今発した言葉はエクシスが言うからこそ意味がある。
    ――楽な言葉に流されて僕がいないとダメになっちゃえばいいのに。
     なんて思ってしまうのは何故だろう。

    「……ふざけるなよ」

    「シャンドの欲しいもの、それがなんだったとしても僕がいつでもあげるよ。もしそれが……」

    ――死だったとしても。

     その言葉が喉まで上がってきた時、別のものまで上がってきたので一緒に飲み込む。
     また、またあの気持ち悪い感覚がエクシスを襲う。
     妄想が鮮明に脳内を駆け巡る。
    ――助けてって泣いて僕に縋ってよ。お願い他の人には見せないで僕にだけ弱い所見せて。
    ――殴って刺して切り落として抉ってそうしたら泣き叫ぶ? 痛すぎておかしくなってくれる?
    ――犯したら皆心折れちゃうみたいだけど、君はどうなるの? プライドズタズタにされても抗う? それとも流される?
    ――なにされても痛いのか気持ちいいのかわかんなくなって泣きながら笑って僕に殺して欲しいって言って、お願い言ってよ。
    ――その心地いいうるさい心音も止まって冷たくなって動かなくなったシャンドを大事に大事にさせてよ、一回で捨てたりしないから、何回やってもずっと綺麗にしておくから。
     なんでこんなにも焦がれる、こんなにも求める。
     エクシスにはそれがいつまで経っても理解できない。
     先程殺し犯した信者の事は事前にも事後にもここまで想いを巡らす事はなかった。
     特に事後はもう捨てるだけ、なにも思わない。
     それなのにシャンドの一挙一動でこんなにも掻き乱されるのはなんでた。
     髪に触れていた手が髪の代わりにシャンドの首を撫でる。
    ――この首絞めたらどんな顔でどんな声出してくれるの?
     涙でぐちゃぐちゃになった顔が見たい、殺したい、殺してって言わせたい、加虐欲求に脳が支配されていく。
    ――どうしよう、またおかしくなってきちゃった。
     そんなエクシスの気も知らず、シャンドがいつも通りの声で話しかける。

    「急に黙りやがってなんなんだ、今は食べ物が欲しい。なにか作る……お前も食べるか?」

     うん、と小さく返事をするとエクシスは手を離す。
     するとシャンドは何事もなかったかのように立ち上がりキッチンに立つ。
     髪が顔にかかって邪魔らしく髪をいじっている。

    「毎回毎回鬱陶しい……なぁエクシス、髪結んでいいだろ?」

     振り返ってそう問いかけてきた。
     エクシスの中でブワッとなにかが込み上げた、しかし今気づかれては台無しになる。
     思考が支配されつつある脳で必死に平静を保つ。
     いつものようにニコッと笑う。

    「ダメだよ」
     
     そう言うとため息を吐いて少し長い髪を揺らしながら調理を始めた。
     そんな些細な事をエクシスに確認を取る必要はない、言う事に従う必要もない。
     そして、それがわからなくなってきている事に気づいていない。
     シャンドがおかしくなってきた。
    ――あ、やば。
     固有武器を出した、足を狙った。
     たまに混乱して首を狙ってしまうが本当は首は切るより締めたい。
     振りかぶったナタはシャンドの蹴りによって壁に叩きつけられる。

    「髪結びたいのがそんなに気に食わないか?」

    「ちがう……」

     シャンドと目が合う。
     怒っている様子ではない、今の問いかけは違うとわかってわざと言ったのだろう。
     しかしもうそんな事も考えてられない。
     理性が飛ぶ、妄想を現実にしたくてたまらない。
     しかしそれがどうしてなのかわからず、またそれを考え出すと正体不明の恐怖心に襲われる。
     混乱する脳のせいで吐き気に襲われ、嗚咽と共に床に倒れ込んだ。
     意識はあるが動くと吐いてしまいそうだった。

    「……あとはやっておく、部屋で寝てろ」

    ――本当にお節介のお人好しだね。攻撃してきた人に向かって心配そうな顔と声で接しないでよ。それがいつか自分の首を絞める事になっても知らないんだから。

    「そう、する……おちつくまでこもる、から……でてくる、までちかづかないで……わかった?」

     なんとか体を起き上がらせて部屋に向かって足を無理やり動かす。
     このまま理性が飛べば有無を言わさずどんな手を使ってでもシャンドを殺してしまう。
     それは嫌だ、ちゃんと殺してって言って欲しい。
     ダメだ、こんな事に固執するなんてまたおかしくなる。
     今回の引きこもりは数時間では終わりそうなない。

    「これができたら飲み物と一緒に持っていく」

     背後からいつもと変わらないシャンドの声ががする。
     
    ――約束守れないのはどっち?
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    朝月@おえかき

    DONEシス(→)リル

    なにも始まらなかった世界線

    教団設立時にシスがリルを勧誘していたけど、本編ではそれを聞いていなかった為に離別した。
    もしそれを聞いていたら一緒にしてただろうな……の話。
    この世界線では桃源郷は存在していないので本編が始まらない。

    年齢指定ではないけど接触多……?
    ちゅうけん だだっ広い広間の真ん中をロングスカートのように丈の長い神父服を揺らしながら歩く。
     楽しそうな話し声、笑い声、泣き声、嗚咽、悲鳴、いいものも悪いものも平等に耳に入ってくる。
     耳を塞ぎたくなるような言葉にはいつまで経っても慣れない。

    「リル……様」

     力無い声でそう呼び止められてリルは振り返る。
     それと同時に目の前で倒れ込んだ女はリルの服を力強く掴む。
     白い服を着た女、錯乱しているのか視線は定まらず、涙やなんやら色々でぐちゃぐちゃな顔をしている。
     その信者服を着た女はリルの服を掴んだまま離さない。

    「神父様」
    「神父様」
    「教祖様が見つからないんです」
    「助けて」
    「今すぐ殺し――」

     震える手を薙ぎ払うわけにもいかず、リルは徐にしゃがみ込むと相手の口を手で塞ぎ、止められなくなっていたであろう言葉を無理やり止める。
    8554

    recommended works