私はいつもと変わらず
その日も
おい、大丈夫か。
不意に声が聞こえた。
下を見ると少年が私を見上げていた。
私に向けた言葉ではないだろうとそのまま視線を先程まで眺めていた景色へ戻す。
おい!
苛立った声が再び下から聞こえる。
私のこと……かい?
自分を指差し、小首をかしげると少年はうめき声を上げた。
あんた以外に誰がいるんだよ!この状況を見ればわかるだろ!
何百、何千とこの地に宿り続けて人間に声をかけられたのは初めてだった。
私の姿を見た者は皆、幻だと気に留めず去るか物怪の類だと逃げ失せる者ばかりだった。
豪胆な人間もいるものだと私は少年を興味深く思った。
さっきからずっとそうしてるけど降りられねーのか?
降りられない訳ではないよ。
本当に?ずっとそこにそのままでいいのか?
ほら
少年は私が座る枝の下まで寄ると腕を大きく広げた。
受け止めてやっから、飛び降りろ。
この少年は私がここを退かないことが不満らしい。人間に干渉することは好ましくないが、ここは少年の言う通りにしよう。
では、行くよ。
ふわりと風を纏うように飛び降りた。
彼が思うよりも私は背丈があったようで私を受け止めると
少年は背中から倒れた。
私が怪我をしないよう
いってぇ……。怪我、無いか?
下敷きになった
彼はなんて心優しい人間なのだろう。
あんた、人攫いにあったとかそんなんじゃないだろうな。
どうしてそう思うんだい?
このあたりで絹の着物なんか着てるやついないからな。今日は祝い事
このあたりの人は違うものを身につけているのかい?
少年は自分の身につけている着物をつまんだ。
まぁ、大抵はな。麻とかもっと暗い色を着てるのが普通
俺、天国獄っていうんだ。何かあったら声かけろよ。
彼はそう言うと町に向かって行った。