リノリウムの端と端「お待ち下さい、鬼灯先生。」
古いリノリウムの廊下を歩いていた俺の背後から、聞き慣れない男の声がする。
無造作に振り向くと、声をかけた男は一瞬怯えたように止まり、コホンと咳払いを一つする。
「あぁ、ええっと。淋博士ですね。」
「そうです。覚えていてくださって光栄。」
淋博士はニヤリと笑うと胸ポケットから複数枚の紙を取り出す。
「それでですね、本題なのですが。実はあなたが請け負っている生徒たちから、嘆願書が提出されまして。」
おそらく淋博士の手にあるそれが嘆願書なのだろう。ざっと見る限りでは24枚。俺が請け負っている生徒の数とほぼ一致する。
「なにを嘆願しているんですか?」
淋博士は困ったような呆れたような表情を見せながらその紙を見せつけてくるのだが、あいにく俺はこの「先生」という立場についても「大學」という構造についても詳しくない。
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