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    ばぶち

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    ばぶち

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    ドラマの主演を務めることになった。今までこっち方面でここまで大きな仕事が降ってきたことはなかったから素直にうれしかった
    企画書や台本に目を通すまでは。

    ---

    「えっ、ドラマの主演やるんスか!?ひなたくんが?」
    「ちょっと〜?それどういう意味?」

    フードスペースで一緒にご飯を食べていた鉄虎が箸を止めて驚いた顔で俺を見る、驚いてるというか俺の話の真偽を確かめようとしている顔。俺全然嘘なんかついてないんですけど。てか鉄くんがそんな顔するほど俺って主演顔じゃない感じ?どちらにせよちょっと失礼じゃない?
    やれやれ、と思いながら俺は自分のカバンを手元に置いて中身をまさぐる。特段小さいモノではないから手を入れればすぐにそれに指が触れた。

    「ふふん、実は既に台本もあるんだよね〜」
    「あ、本当だったんスね。てっきりいつもの冗談かと思っちゃったっス」
    「鉄くんてたまにサラッと失礼なこと言うよね」
    「それはひなたくんもじゃないスか、台本結構厚そうっスね〜」

    ひなたが証拠と言わんばかりにカバンから出した台本を見るや否や鉄虎は感心の声をあげて台本を見つめていた。
    鉄虎もあまり俳優の仕事経験はないのか台本に興味があるようで中身も見たそうだったからそのまま台本を渡せばふ〜ん、などうわごとをこぼしながらパラパラ…と台本を流し読みしていた
    鉄虎が黙々と読み進めていたらとあるタイミングで読む手が止まり、それを見てひなたもなんとなく鉄虎の口から出てくる言葉を察していた。

    「ひなたくん、これ恋愛モノじゃないっすか」
    「そうなんだよね」
    「え、いや、そうなんだよねじゃなくって」
    「も〜俺も鉄くんと同感だから言わないで〜…」

    ひなたが頭を抱えてテーブルに突っ伏す。ひなたがここまで唸るのは今回もらった俳優の仕事がただの役ではなく"恋愛モノの主演"だったからなのだ。
    内容も内容で主演のキャラは常にヒロインとの距離が近く、最終的にもこの2人で結ばれるという脚本なのでロマンチックにもキスシーンが含まれている回があるのだ。
    と、ここまでは恋愛ドラマなので当たり前の流れだがひなたが頭を悩ます理由は別にある。一つ、ひなたはアイドルなのだ。たとえ仕事であってもドラマで女の人とキスをしているシーンがテレビで流れようもんならそこから三日三晩「葵ひなた キスシーン 女優誰」で炎上しかねない。
    だがここは頭の回転が早いコズプロの副局長が炎上の未来を察知したのか色々と手を回してくれていた。そのおかげで既になんとかなりそうで副所長には後でお礼をしなきゃな、と思ったり。
    ただあと一つ、これだけはどうしてもなんとかならなそうで、下手したらひなたの人生を大きく揺るがす事態になってしまう。そう、ひなたには彼女がいる、ひなたにとって世界で1人だけの大切な女の子が。
    🌱は別に束縛気質なわけではない、むしろ寛容なほう。良くも悪くも聞き分けや理解が早く、嫌な顔もそこまでしない、そう言った面でひなたは度々救われているところもあった。ただ今回ばかりは訳が違う。ひなたにとって本命の子じゃなければ対して仲良くもない別の女の子と偽りでも恋をしなきゃいけない、それが一番辛い。おそらく🌱は仕事だと割り切って逆に応援してくれるのだろうけれどひなた自身がその事実を受け入れられないでいる、なんなら仕事を受けたことを軽く後悔するくらいには。

    「大丈夫っスか?ひなたくん」
    「…大丈夫そうに見える?」
    「うーん、ダメっぽいっスね」
    「もー本当に俺やだー!なんでこの仕事引き受けちゃったんだろ〜」
    「ちなみにこのことは話して…ないっスよね」
    「うん、話すタイミングないのとこれ話すの気まずくてまだ話せてない」
    「まぁ気まずくなるっスよね〜、心中お察しするっス」
    「…はぁ〜」

    カップに入った水をクルクル傾けながら🌱と話すシミュレーションをする。一体あの子はどんな顔で何を言うのだろう、やはり第一候補は「仕事だもんね、平気だよ。」だろうか、なんなら斜め上から「主演すごいね!おめでとう」とか「ドラマ楽しみにしてるね」とか言われそう。でも流石に他の女の子と距離が近いのを見たら嫉妬をしてくれたりするのだろうか、それはちょっと気になるし本当に嫉妬してくれてたらかわいいかも。
    脳内シミュレーター内の🌱に顔を綻ばせてるとテーブルに置かれていた鉄虎のスマホがブブブ、ブブブ、と揺れた。

    「あっ、電話っス。じゃあついでに俺はこのまま失礼するっスね。あと、その話は早めにした方がいいっスよ」
    そう言い残して席を立った鉄虎は歩きながら電話に出ていた。電話をしている鉄虎の姿は誰と話しているか安易に想像できるくらい分かりやすくて、そんな鉄虎自身はおそらく無自覚なんだろうなと思うと口元が緩む。捨て台詞みたいに吐いていったアドバイスのお礼に「鉄くんは電話する時顔に出すぎだよ」とでも言ってやろうかな。
    だがそんなことを考える暇もなく、俺は今この話をどうやって🌱に伝えるべきなのか頭を回すことに集中した。


    ---

    …ルル…プルルル…、ピッ
    『もしもし』
    「あっ、もしもし、いまって大丈夫そう?」

    電話越しに聞こえるのは聞き慣れた声。最初はなんとなく電話をかけてみただけで、その勢いのままあの話を伝えようと思っていたが、いざ声を聞くと罪悪感や緊張が強くなって心臓の音が少し早くなったのがわかる。

    『うん、ちょうど授業が終わったところだよ、どうしたの?電話なんて珍しいね』
    「え、あぁ〜、!ちょっと声が聞きたくなっちゃって、なんて」
    『ふふふ、何か話したいことがあるの?』
    「へっ」

    もしかして電話越しに頭の中のぞかれてる?と思うくらいピンポイントで刺されたから思わず間抜けな声が出てしまった。その間抜けな声が音声として拾っていたのか当の本人はクスクス笑っていて、こっちがいまどれだけ心配して緊張してるのか知らないその姿にちょっとだけムッとなった。

    「話したいことっていうか、まぁそれもそうなんだけど…今日って会える?」
    『今日?いいよ、何時ぐらいにしようか」
    「いいよ、俺が迎えに行くから終わったら電話して」
    「本当?わかった、終わったら連絡するね」

    ---

    「ふふ、なんか会うの久しぶりな感じがするね」
    「まぁ、最近忙しくて会えてなかったからね〜、カバン持つよ」
    「別に持てるよ?」
    「い〜の、このぐらいはさせてよ」
    「ありがとう」
    「ねぇ、このあとって用事あったりする?なかったらどっかお店に入りたいんだけど」
    「この後はなにもないよ、あそこのカフェにする?」

    そう言われて視界に入ったカフェに入店した。
    🌱はいつもと変わらず会ってからずっと最近の学校での出来事など何気ない会話をしてくれているがひなた自身は罪悪感に苛まれているのか会ってから今の今までなんとなくぎこちない気がする。もっと言えば目を合わせて話すのにすこし抵抗があるという感じ、だがそんな弱音を吐くために今日会いに来たわけじゃないので頭の中でなんとなく祈りにも近いまじないを唱え自分に喝を入れて前の席に座ってメニューを見ている彼女に目を向けた。

    「あのさ、昼の電話のことなんだけど…」
    「うん?あっ、このパンケーキ美味しそう、ひなたくんも食べる?」
    「えっ、あ、うん」
    「大きそうだから一個でいいかな?」

    ダメそう、出鼻を挫かれたかも。なんでこの子呑気にメニューなんか見ちゃってんの、俺こんなに緊張してるのに、ここの席だけなんか温度差すごくない?第一声がパンケーキによってかき消されてしまったが🌱が注文を終えたところで仕切り直して話題を出した

    「ねぇ、昼の電話のことなんだけどさ」
    「そう言えば話したいことがあるって言ってたね、どうしたの?」
    「そのことでさ、ちょっと相談っていうか…謝罪というか…」
    「?、ひなたくんらしくないね、何かあったの?」
    「いや〜、実は…」

    口で説明するより物を出して説明したほうが早いと思ってテーブルに台本をそっと置くと🌱は最初こそ理解できなかったもののそれが台本だとわかると目をキラキラさせて俺の顔を見た。
    「えっ、ひなたくん俳優やるの?すごいね!これって本物の台本?」
    「うん、そう。そうなんだけどさ…」
    「すごい、台本って初めて見たかも…触ってみてもいい、?」
    「あぁうん、いいよ、中身も読んでいいし、…それでさ」
    「わぁ〜すごい!こんな感じなんだ!セリフと文章がいっぱい、これってひなたくんはどの役なの?」
    「…主演、です」
    「えっ主演なの?すごいよ!ひなたくんが主演やるんだ!これってどんな話なの?」
    「…」
    「?、ひなたくん?」
    「……恋愛ドラマ、なんだよね」

    言ってしまった、てか言わされたの方が近いかも。ひなたがそう答えると🌱からの返答が返ってこなくてさっきの気まずさがカムバックした気がした。恐る恐る顔を見ると思ってたのとは180度違ってさっきよりもっと目を輝かせていた。

    「すごいよひなたくん!恋愛ドラマの主演って、ひなたくんかっこいいもんね、…へぇ〜すご〜い」
    俺の顔を見たり台本のセリフを見ているのか交互にみて時々なにか言いながら俺よりも真剣に台本を見ていた。
    あまりにも帰ってきたら反応が良いものだから思わず心の声がそのまま漏れていたようで

    「不安じゃないの?俺が知らない子と恋愛してるんだよ?」
    「うん?確かにそうだけどお仕事だから別に…?」
    「えぇ?」

    マジか、この子に嫉妬の感情はないのか、あまりにもあっさりしてるから俺の方が逆に困惑してしまった。いっそのことヤダヤダと駄々をこねるくらい嫉妬してくれた方が主演を断るという選択肢も生まれたかもしれなくて、俺自身それにほんの少しだけ賭けていたところもあったがその可能性は0になった。

    「もしかして話ってこれのことだったりした?」
    「…うん」
    「ふふふ、別にこれで怒ったりなんてしないよ、私」
    「まぁ、そうなのかもしれないけどさぁ、?」

    なんだか悔しかった、こんなに心配したのが全部取り越し苦労だったみたいで。この子の肝の座りようにはいつも驚かされる、そこまで俺を信頼してくれてるのか元々こういう性格だったのか。あまりにあっさり終わった話に次の話題デッキを出し忘れていて慌てて会話を繋げた

    「じゃあさ!俺のお芝居の手伝いとかしてくれない?」
    「えっ?」

    何を言ってるんだ?口走った後に瞬時に冷静になって自分がいま何を提案したのかが頭の中を駆け巡る、どうして俺は自分の彼女に演技の練習台になってほしいなんて言ってるんだ。訳がわからない、自分の口から出た提案を撤回すべく言葉を探していると俺の声が口から出るよりも先に🌱の方が声を出した

    「いいよ、ひなたくんの演技、見てみたい」
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