【二度あることは……】ヒュンポプこの間、魔物を倒した後、一週間程の記憶がすっぽりと抜け落ちていた。マァムから聞いた話だと、どうやらおれはその魔物の影響を受けて小さくなっていたらしい。
しかも、その間は恋人であるヒュンケルを何故か苦手にしていたようで、元に戻った後にヒュンケルに、ぎゅうぎゅうと抱きしめられ続けてしまうという、恥ずかしい刑が待っていた。
そんな日があったばかりの数日後、今度はヒュンケルが小さくされてしまうという、なんともご都合主義な展開が起きてしまった。
「ヒュンケル~」
「なぁに?」
「ちょっとおれ用事があるんだけどなあ」
「やだ!ポップと一緒がいい!!」
「ヒュンケル、ポップ君が困ってるから、私といましょう?」
「やーだああ!!」
小さくなったヒュンケルは、おれにずーっとくっついて離れなくなってしまったのだった。
任務はラーハルトと一緒に行っていたらしいけど、討伐後にはもう小さくなっていて、いつもの冷静沈着な態度はどこへやら、警戒心むき出しの猫の様な小さな男の子になっていた。
帰ってきて、おれを見るなりバタバタと走ってきて、足にしがみついてきた。え!?なんでだよ!?
おれは混乱しっぱなしで、キョロキョロとマァムやラーハルトを見るが、諦めろ、という顔を二人はしていて、結局面倒をみるのはおれという事になったのだった。
「ヒュンケル、でいいんだよな?」
「うん…」
「おれはポップっていうんだ、何か覚えてることあるか?」
「ない…」
「そっかー、なら、仕方ないよなあ、しばらくこのままここにいてくれるか?」
しゃがみこんで、目線を合わせて、優しくそう問いかけると、少し悩んだ末に、こくりと頷くヒュンケルに、くそ、可愛いなと思いながら、頭を撫でれば、恥ずかしいのか、俯いてしまう。それを見ていたレオナとラーハルトがからかう。
「ヒュンケル、なあに、恥ずかしいの?」
「こいつにも、羞恥心というものがあったんだな」
「姫さんもラーハルトも…、小さくなって記憶もないんだ、しょうがねぇだろ?」
「いや、ヒュンケルの事だからな……」
「実は記憶があって、ポップ君に甘えるとか、そんなのありそう」
まあ、確かにそれはありそうだな、なんて思ってしまったけど、今は小さくなってしまったのだ、幼いヒュンケルにはちゃんと接してやりたい。
そうしていたら、どんどん懐かれてしまい、冒頭の会話に至るのだった。
用があるのは本当だが、放って置くのも気がかりだし。どうするか、と悩んでいたら、ラーハルトがそばに来てヒュンケルの頭をこつん、と叩いた。
「いたい~!」
「わがままを言うんじゃない」
「わがままじゃないもん!」
「わがまま以外の何物でもないんじゃないかしら」
「うー、うるさいおばさん!」
「……」
ブチン、という音が聞こえてきて、レオナがキレたのが分かる。待て、落ち着け!!
おれは立ち上がって、間に入るけど、二人は睨み合いを続けている。
「どいて、ポップ君」
「や、でも子供だぜ?」
「いいえ、小さいからって甘やかしてちゃだめよ」
「ええー……」
おれとレオナとを見比べ、ヒュンケルはおれに抱きついて、レオナに向かって、べー!と舌を出している。
「ヒュンケル、ダメだろ?」
「だって~」
「目上の人にそんな態度したらダメなんだって、嫌われちまうんだぞ」
「……」
「だから、ちゃんと言うことは聞かないとダメ」
むう、とした顔を見せてくるヒュンケルに、真剣な眼差しで言葉を伝える。おれのその顔に、ヒュンケルも気づいたのかしゅん、としてしまった。別に怒ってる訳じゃないんだけどな。
「ちゃんと言うこと聞いてくれたら、何かおれに出来ることなら、やってやるから」
「……!」
「嫌か?」
「……なんでも?」
「おれに出来ることなら、な?」
その言葉に、ぱあ、と顔を輝かせて抱きついてくるヒュンケルが可愛くて、思わず抱き返してしまう。
そうして、何をお願いしてくるのか待っていたおれは、次のヒュンケルの言葉にびっくりしてしまう。
「じゃあ、お嫁さん!」
「へ?」
「お嫁さんになってよ!」
「……へ?」
お嫁さん、およめさん……およめ……
一瞬何を言っているのか分からなくて、聞き返してしまうが、聞き間違いでも何でもなくて、ちゃんとこの耳は、「お嫁さん」という単語を捉えていた。
「や、ヒュンケル、嬉しいんだけどよ、そういう事はちゃんと好きな人に言わなくちゃだめだ」
「お兄ちゃん好きだよ?」
「いや、でも……」
「オレの事嫌い?」
「嫌いじゃないけどな?」
「じゃあ好き?」
「……んー…」
おれが反応に困っていたら、ラーハルトがそばに来て、おれを抱き寄せた。え!?何やってんの!?
「すまんな、ヒュンケルこいつは俺のものだ」
「嘘だあ!」
「え、え」
「お前には渡せないな」
「ポップはオレの!!」
「いつから、ポップはお前のものになったんだ?」
「やだやだやだ!ポップは絶対渡さない!!」
二人のやり取り、おれを挟んでやるものだから聞いていたら頭が痛くなってきて、はあ、とため息をついた瞬間に、ぐい、と引き寄せられてしまう。
気づけばレオナがおれに抱きついていて、ニヤニヤと二人を見ていた。
「残念、ポップ君は、私のだから、誰にもあげないわよ」
「姫さんまで……」
「まあ、ポップ君が欲しければ私を倒してみなさい?おチビさん」
「チビじゃない!!」
「ならば、俺も参戦させて貰おうか」
「いいわよ、誰でも来なさい、ポップ君は渡さないから」
「俺だって!!ポップをお嫁さんにするんだからな!」
そうして、三人のおれをかけたバトルが始まってしまったのだった。
数日後に元に戻ったヒュンケルは、「お嫁さん」発言をからかわれるが、本人はまるで当たり前のようにドヤ顔をしていた。
何なのこいつ!!