【また起きた出来事】ヒュンポプ二度あることは三度あるとはこの事か。
ヒュンケルが遠征任務から帰城した時にもたらされた姫からの遣いの話に、最後までその話を聞くことも無く、走り出してしまった。
何故だと?
それは、可愛い可愛いオレのポップの身に、また何かが起こったから。バタバタと城の廊下を駆け抜けていくヒュンケルに、もはやいつもの事かと、城の者たちは、慣れてしまっていた。
階段を飛ばし上がり、ポップの部屋にたどり着けば、バン!と大きな音を立てて扉を開く。すると「お兄ちゃん!!」と幼い声が聞こえたかと思ったら、身体にぽすり、と衝撃を受けた。
「??」
部屋の中には、マァムにレオナ、そしてラーハルトがいて、視線を足元に向ければ、小さな小さな男の子がヒュンケルに抱きついていた。
まさか、これは…!!
瞬時にしゃがみこみ、男の子の顔を見れば、何時ぞやに見た、柔らかな艶やかな髪に、まん丸で溶けそうな飴色の瞳、頬は赤く上気しているが、その顔は泣きそうに歪んでいた。しかし、その少年は、ヒュンケルの顔を見た瞬間に花が咲くような、ぱあ、とした笑顔になり、ヒュンケルに抱きついた。
「お兄ちゃん!!」
「ポップ!!!」
驚きと衝撃のあまり、ヒュンケルはどさりと尻もちを着くが、しっかりとポップは抱きしめていて、どんな時でも、ポップに対しては過保護であった。
「これは、一体…またポップが小さくなっているが?」
「どうしたもこうしたもない、この魔法使いはまた無茶をしたんだ」
「怪我は!?ポップ、大丈夫なのか!?」
抱きつくポップの姿をくまなくみて、怪我がないことに安堵するヒュンケルに、マァムが、傍にしゃがみこむと、簡単に説明をした。
魔物の討伐任務中に、仲間を庇ったのだそうだ。その際に、どうやら返り血を浴びてしまい、また小さくなってしまったと。
またも小さくなったポップは、マァムとラーハルトと共に城に帰り、レオナに報告。前のような、人見知りは健在で、ただ違うのが……
「お兄ちゃん!!」
ヒュンケルに懐いている、とう事だった。
とりあえずポップを抱き、立ち上がると、ぎゅう、と首に抱きついてくるポップが、いつもの恥ずかしさで逃げるポップとは違い、素直すぎてヒュンケルは動揺を隠せない。前の人見知りで苦手にされていたとは、また違って、ヒュンケルは困惑していた。
「ポップ?」
「なあに、お兄ちゃん…」
「俺が誰だか分かるか?」
「ヒュンケルお兄ちゃん!」
「ん"ん"っ!!」
可愛らしく首を傾げるポップにヒュンケルは、動揺を隠せないままに、問いかけるとポップは、ひまわりのような笑顔を浮かべて、ヒュンケルの名を呼んだ。瞬間に、ヒュンケルは堪えきれず変な声が出てしまった。
「ポップ…!可愛いすぎるだろう…!!」
「ヒュンケル、鼻血出てるわよ、早く拭いてちょうだい」
「ポップが可愛いのはわかるけど、下手したら変質者よ」
「はあ……またこのパターンか」
ヒュンケルの情けない姿に、三人ともため息混じりに、ツッコミを入れる。ポップを見つめるヒュンケルの姿は、とても優しい表情をしてはいるが、鼻血を出しているせいで、危うさしかない。
ヒュンケルは、手でぐい、と鼻血を拭うと、ポップを抱きしめながら、部屋に入り、椅子に座った。
「まあ、前例もあることだし、すぐに元に戻るとは思うけど」
「そうね、けれどヒュンケル?いくらポップが可愛いからと言って、手を出したりしたら…明日の朝日は拝めないと思ってね」
「ヒュンケル……、犯罪には手を染めるなよ」
「分かっている」
「「「ほんとうにか……??」」」
ピッタリと意識が一致しながら、ヒュンケルとポップを眺めて、三人は深いため息を着いたのだった。
三人はヒュンケルに釘を刺すと、ポップの部屋を後にした。残されたヒュンケルは、ポップを抱き上げたまま、ソファへ座り、ポップの頭を撫でた。
くすぐったそうに、ニコニコと笑いながら、ヒュンケルの服を掴むポップに、ヒュンケルは、情緒がおかしくなりそうだった。
「ヒュンケル?どうかした?」
「いや……なんでも……なくはないな、ポップが可愛と思ってな」
「おれ、かわいい?」
「ああ、めちゃくちゃ可愛いぞ」
きょとんとして、真ん丸な瞳で見上げる姿は、天使のように可愛らしく、ぐう、となる。顔を手で覆いながら、ポップにこの顔は見せられないと逸らすが、それさえも心配されてしまう。
「ヒュンケル大丈夫?どっか痛い?」
「いや、大丈夫だ……」
心配そうに見つめるポップに、ヒュンケルは安心させるように笑いかける。
天使か。
天使だな。
間違いない。
俺の天使。
ポップだ。
内心で荒々しく情緒が乱されながらも、平静を装って、ポップを抱きしめるが、ポップはその腕から、ぴょん!と離れて椅子から降りる。
そしてそのまま、ヒュンケルの正面に立つと、手を伸ばし始めた。またその仕草が可愛すぎて、変な声が出そうになるが堪える。
「どうした?」
「んー、んー!!」
「ポップ、手を伸ばして、なにかしたいのか?」
「うう……」
必死に手を伸ばしていたポップが、今度は瞳に段々と涙がたまっていく。慌てるヒュンケルは、がばり、とポップの傍にしゃがみこむと、焦るように、どうしたらいいのかわからないと手をじたばたする。
「ポップ?!どうした?なにか嫌なことしてしまったか?」
「……うう」
「な、泣くなポップ……!」
「……違うの、頭……」
「頭が痛いのか!?」
顔を近づけて、ポップの表情を見ようとしたヒュンケルの頭に、いつの間にか伸ばされた手は、ぽんぽんと撫でていた。もしかしたら、ポップは、ヒュンケルの頭に触れたかったのだろうか。
「ポップ?」
「えへへ、ヒュンケルの頭の痛いの飛んでけー!」
「っっ!!?」
その言葉に、先程のポップの事を思い出す。心配そうにヒュンケルを見つめていたポップは、ヒュンケルの頭の痛みを、おまじないで癒してやりたかったのだ。
「ポップ!!」
「頭痛いの治った??」
「ああ、すぐに治ったぞ!!」
「わあい、よかった!!」
ポップの優しさと、その行動に、ヒュンケルは涙をボロボロと流しながら抱きしめた。そしてそのまま、ポップのマシュマロのように柔らかなほっぺにちゅ、ちゅ、と口付けを落とす。
「くすぐったいよ、ヒュンケルー」
「お礼だ、ポップ、ありがとう」
「あははは!!」
きゃー!とはしゃぐポップの可愛らしさと尊さに、ヒュンケルはむた鼻血を出してしまう。
「ポップ!小さくなったって……」
ガチャりと扉が開き、走って入ってきたダイにそれを見られてしまい、
「レオナー!!ヒュンケルがー!!!」
と叫ばれ、駆けつけたレオナに、こっぴどく叱られたヒュンケルは、それでもポップを離そうとはしなかった。
そして、そのまま、ポップが戻るまで、ヒュンケルが甲斐甲斐しくポップの面倒を喜々として見たのだった。