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    chisetsu7chiayu

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    ※現パロ tksmさんに片思い #金カ夢
    恐らくシリーズ化します。

    #金カ夢
    aimingForTheGoldenHelix

    上司月島さんと仲良くなりたい。※現パロ 上司月島さん

    帰りの時間が被ることが多かったし、家の方向が同じなのが判明してから一緒に帰るようになった。
    業務上の会話しかしたことがなかったが、案外気安い人だし話していて心地が良い。月島さんのことが好きだと自覚してから何度も告白しようとするけどこの空気感を崩したくなくてなにもアクションを起こさないでいた。

    自分の中途半端さに呆れていた頃、月島さんも参加するという飲み会に来ていた。
    (帰りたい…)
    月島さんと席も離れてるし、帰りの時間を除いては、そもそも会社ではあまり話さないのだ。酒の力でも借りようと、安易に思っていたことを後悔した。しかも、さっきからしきりに同期に絡まれている。
    彼女募集中の彼は先程から熱っぽい視線で話しかけてくる。面倒くさい。
    当たり障り無く愛想笑いで躱していたが、些か疲れてきた。一声かけてお手洗いに立つ。


    (ワンチャンあると思われてるのかな〜。ないな。月島さんのいる席が羨ましい…)
    戻りたくないなとお手洗いをでた後もとびらの前で逡巡していると、声がかけられる。落ち着いていて、こちらを気遣うような、一番聞きたかった、声。
    「おい、大丈夫か?」
    酔いが回っていると思われたのか、顔色を覗き込まれる。いつもより近い距離に、酒のせいではない熱さが目元に走った。
    「だい、じょぶです」
    月島さん、と声を続ける前に、手の甲で頬に触れられた。顔真っ赤だぞ、水を飲め。と言って、通りかかった店員にお冷を頼んでくれた。
    触れられたところから熱がみるみる全身に回って、あつい。顔が真っ赤なのはあなたのせいだ。


    まだお開きの時間は来なかったので、顔が真っ赤なわたしは月島さんの隣の席に座らされた。何故か。お手洗いの前でやり取りをした後、成り行きで比較的落ち着いた雰囲気のこちらに連れて行かれた。
    ほろ酔い程度の酔いもほぼ醒めているが、顔の火照りは収まってくれない。
    「きみ、大丈夫か?
     強引に連れてきてすまないな」
    「いえ、むしろ助かりました」
    つり眉を少し下げて小さく謝罪する月島さんに感謝する。実際、元の席には戻りたくなかったのだ。
    「…なら、良かったんだが」
    月島さんは、なんだか言いづらそうに言葉を言い淀む。疑問を浮かべた表情を返すと、焦ったように言葉を続けた。
    「随分熱心に口説かれていたようだから」
    困ったようにそう言う月島さんは、もうぬるくなったであろうビールを一息に飲み干した。


    見られていた。
    席は結構離れていたのに。

    「口説かれてたというか…酔っ払いに絡まれていただけですよ。失礼だと思いますけど、本気に相手してませんでしたし…」

    気にかけてくれてたのかな?意図的に助けてくれたのかな?など、嬉しいやら恥ずかしいやら、酔っ払い如きも上手く扱えてないように見えたのか、など若干の情けなさもあり、言葉尻が小声になってしまった。
    「そうか」
    まあ、戻りたくないなら此処に居ると良い。
    そう言って少しこちらに微笑んだ月島さんの声色がすごく優しくて、せっかく引いてきた赤みがサッと戻ってしまった。

    わたしはこんなに赤面する人間だったのだろうか。


    こちらの席は穏やかな人間が集まっていたようで、突然加わったわたしに対しても朗らかに接してくれてお酒を楽しめた。飲み過ぎないように、セーブしながらだったが。

    時折視線を感じてその方向を見ると、先程までわたしにご執心だった同僚と目が合った。
    (うわ、忘れてた…見てるじゃん)
    咄嗟に目を逸らしてしまったがなんだか気まずい。普通に諦めてくれていたと思っていたから尚更だ。
    (帰りに絡まれないと良いんだけど)
    些か不安であったが、この場を楽しむことに集中して、あっという間に宴会はお開きの時間を迎えた。

    各々帰路に着く者と二次会に参加する者とで別れた。二次会に参加する気はサラサラなかったわたしは、周囲にお疲れ様でしたと声を掛けながら集団を抜け出そうとした、その時、
    後ろから肩を強めに叩かれた。

    驚いて振り向くと件の同僚であった。
    (うわ)
    声には出てなかったと思うが、表情に出てたらしい。
    「なんで俺のこと避けるわけ?」
    眉根を寄せた同僚は不満そうな声を出して、わたしを責めるように少し距離を詰めた。
    「飲み過ぎではないですか?」
    努めて穏やかに、柔かに、詰められた分だけ距離を開けながら受け応える。
    「一緒に飲み直して下さいよ」
    その先の透けた下心を隠さないような表情を浮かべた同僚に、明確な嫌悪感を抱いた。
    「用事があるのでお断りしますね」
    ああ、笑顔が引き攣ってはいないか。わたしはあまり辛抱強くない方だ。
    〇〇さんの部屋で飲み直しましょうと宣うこの男は、なんなんだ。

    「おい!〇〇!」

    わたしの名前を呼ぶ声がした。

    目を向けると、少し怒ったような月島さんが月島さんの部下の人を伴って近づいて来る。
    「顔色が悪いぞ」
    そう言いながらわたしと同僚を引き離す。
    部下の方が、お前飲み過ぎだぞ大丈夫か?と声を掛けながら同僚を半ば引き摺るように二次会組の方に連れて行った。

    残されたのはわたしと月島さんだった。
    また、助けてくれたのか。
    流れるような作業に唖然としていると、月島さんが口を開いた。
    「すまん、きみが困っていたように見えたものだから」
    アイツ、酒癖悪くてトラブル起こしがちな奴なんだ…と険しい表情で呟いた。

    「ありがとうございます。どう切り抜けるか、困ってました」
    ありがとうございます、と再度頭を下げる。


    「何もなくて良かった。もっと早く気付いてやれれば良かったな、すまない」
    「月島さんが謝ること何にもないですよ!わたしがハッキリ断れなかったのが悪いので…すごく助かりました!」

    少し大きな声になってしまった。わたしの勢いに驚いたのか、月島さんは少し目を見開いてから吹き出すように笑った。
    少し気恥ずかしくなったわたしは顔を逸らしながら、か、帰りましょうか。と噛みながら声を掛けた。
    「そうだな、時間も遅いし家の前まで送る」
    「…ありがとうございます」


    2人で駅に向かいながら、素朴な疑問が浮かんだ。月島さんはわたしのことをよく気づいてくれる。それは帰路が同じよしみだからだろうか。手間のかかる部下だからだろうか。


    自惚れになってしまうが、ほんの少しだけ好意を持ってくれているからなのか…
    「月島さんは、わたしのことをよく見てくれてますね」
    無意識だった。声に出てしまっていた。
    「気付いたら〇〇を目で追ってるんだ」
    月島さんがそう言った直後、ハッとしたように口を押さえた。
    そ、それって、どういう意味ですか?わたしの質問を声に出す前に、観念したような声が聞こえる。
    「気付いたら、〇〇のことが好きになっていたんだ、この気持ちを伝えたら、君は困ってしまうだろうから…言わないつもりだったんだが」
    酔っ払いの言葉と、忘れてくれ。
    そう言うと、一方的に会話を終わらせてしまった。



    「忘れません」
    忘れてたまるか。夢に見た、欲しかった言葉。信じられないが、現実だ。
    「わたしと、同じじゃないですか」
    そう言ったわたしを、月島さんは信じられないという顔で凝視している。
    「わたしも、月島さんのことすきなんです」
    言葉に出すと、想いが溢れそうになる。
    段々と募っていた想いを、口にした途端に欲が大きくなっていく。

    「月島さんは上司だから、部下だからわたしのことを気にしてくれてるだけだって何度も言い聞かせてずっとしまっておこうと思ってたんです。伝えるだけ無駄だって。でも、月島さんがわたしを好きだと言ってくれたから、だから、隠すの辞めます。好きなんです。一緒に帰れる日は、いつも、手を繋ぎたいと思ってましたし、月島さんの声もたくさん聞きたくてお喋りになっちゃってたし、もっと月島さんと、仲良く、なりたく…て…」

    月島さんの顔をチラリと伺うと耳まで赤くなっていた。言葉が尻すぼみになる。

    「両思い、だったんだな」

    月島さんはハァ〜〜〜と、長めの溜息を吐いたあと、わたしの目を真っ直ぐと見据えた。

    「忘れてくれは撤回する。俺で良いなら、付き合ってくれないか」

    〇〇さん、と下の名前を呼んでくれた月島さんの声が、耳を通っていく。自分の名前なのに、新しく付けてもらったように気恥ずかしく感じる。

    「もちろんです。……月島さん」

    そこは基さんじゃないのか?とにやりと笑った月島さんは、わたしの手を取って歩き出した。

    人がまばらの時間帯で良かったと心底思った。先程月島さんに伝えた言葉を思い出して小っ恥ずかしくなってきた。
    なんでこんなドキドキするんだ。恋愛経験もそれなりに重ねてきたはずなのに、こんなにも早鐘を打つ心臓をわたしは知らない。

    自分の手汗が気になってまた恥ずかしくなったが、同じくらいに月島さんの手もしっとりとしていた。
    (…同じ。月島さんも、緊張してたのかな)
    先程よりも余裕がありそうな横顔を盗み見たら、瞬時に気付かれた。



    「ん?」
    「なんでも、ないです」

    どうしよう。もう少しで駅に着いてしまう。手を離したくない、まだ…帰りたくない。
    帰りたくないと伝えたいけれど、軽い女だと思われてしまうだろうか。それは嫌だな。

    掌がお互いの体温でぬるくなっていくのを、つい意識してしまう。ああ、また掌がじっとりと熱を帯びてしまう。
    駅に着いて、名残惜しそうに手が解かれた。
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