夏祭り「ネロ!」
名を呼ばれて振り向けば、黒とシルバーの髪が人ごみを揺れている。
「遅れた! 待ったか?」
ただでさえ暑いのに人が多い中走ってきて、ブラッドリーは汗だくだ。
「今来たとこ」
ブラッドの好きな炭酸飲料のペットボトルを手渡しながら答えた。
ほんとは1時間前からぶらぶらしたり人の波をぼーっと眺めたりしてたけど。
今日は近所の神社で夏祭り。もう少ししたら花火が上がるから、適当に屋台を回りながら花火が見える場所に移動しようと話していた。
数年前に見つけた、ブラッドと俺の2人しか知らない穴場があるのだ。
「お、射的」
焼きそば、たこ焼きなどを一通り見繕ったところで、ブラッドが射的の屋台に食いついた。
「ほんとそういうの好きだよな、お前」
「おう。てめえはやんねえの」
「いい」
こういうのはどちらかというと見てる方が好きだ。たまに景品がいくつとれるか競争することもあるけど。
ブラッドはくじ引きなんかの運任せのゲームよりこういう自分の力で景品をとるゲームが好きで、祭りで見かけるたびによくやる。しかもやたら上手い。
銃を受け取り、銃口にコルクの弾を詰めて、ジャキッとレバーを引く。
銃を構えて真っすぐに獲物を見据える紅は鋭く、撃たなくても見るだけで射抜かれそうだ。
見てる方が好きだ、と思うのはこの瞬間のためかもしれない。そう思うほど、ブラッドの瞳のこの引き込まれるような光が好きだった。ブラッドが見てないのをいいことに、少しにやけてしまう。
ブラッドが獲ったのは、コーラ味のシガレット菓子とキャラメル、それから…白いうさぎ?のマスコット。
「これやるよ」
ブラッドがぽいっと投げてきたのは例のマスコットだった。
「何でこんなもん取ったんだよ」
「てめえに似てた」
何それ。
2人の秘密の場所に着くころにはもう花火が上がり始めていた。
ベンチも何もないところで適当に買ったものを食べた後、ブラッドの隣で花火を見上げた。
不意にブラッドの手の甲が俺のと触れて、ブラッドを見上げた。
「なあネロ」
「何だよ」
「来年もここで一緒に花火見ようぜ」
「? うん」
俺にとっては至極当然のことだったのだが、ブラッドが今まで見たことがないような顔で心底嬉しそうに笑むから可笑しくて、声を上げて笑った。